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「半農×半X」という生き方を学び、自分でつくる

土に触れ、作物に触れて、食べるものを、自らの手を体を使って生み出す。
そんな、農ある暮らしを本気で考える方に届けたいインタビューです。

「農ある暮らし」と言っても、農業を専業にする生き方から、「半農×半X(エックス)」といった二足の草鞋もしくはそれ以上の生業を持ちながら暮らすなど、様々な関わり方があります。

この「半農×半X」を学べる、それも農法は無肥料・無農薬で、というスクールが2月から愛媛県松山市で開講しようとしています。その名も「半農×半Xスタイルの次世代農業独立支援学校(YAMA School)」。現在も、受講生を募集中です。

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この学校を主宰する、田那部本舗の松井真弥さんに、圃場となる予定の果樹園でインタビューしました。そこからは、農業の面白さに目覚め、自分の好きなことを生かしながら、地域や農業、環境の課題に挑戦する松井さんの生き方が見えてきました。

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たこ焼きの粉にこだわり、半農×半Xに

大阪の中央区谷町出身という松井さん。典型的な都会育ちの松井さんが農業に目覚めたのはなぜですか? 

何で農業をやりたいって思ったんかなあ。自然が好きで、将来、自然と関わる仕事がしたいっていうのが夢やったんですよ。で、キャンプのインストラクターになれる専門学校に行きたいと父親に相談したら、あかんと。大学だけは行っとけと。まあ、4年制の大学にいくことが将来につながるっていう思いがあって、多分反対したのでしょうけど。人生でそれだけなんです。父親に反対されたの。

で、結局、大学に行って、就職活動とかして、営業会社に内定が決まって進路を進んでいったのですけど、やっぱその時の農業がやりたいっていう夢があるもんですから……。

ん? 
自然に関わる仕事はたくさんありますが、どうして農業だったのですか?

なんなんですかね。その時、なんでキャンプインストラクターとか目指さなかったのか、自分でも分からないです。

ただ、確か、最初に始めたのが、ベランダでのペットボトルのお米栽培でした。「お米ができた!」と感動して、もうちょっとやりたいなとなって。それが、働いていた時ですね。

営業をやったり、アパレル業をやったりしていたのですが、アパレル業はやりたいと思って入ったのですけど、全然楽しくなかったのですよ。あれ? 全然、描いていたのと違うなあと思って。人生の大半の時間をつぎ込む仕事なのに、面白くないのは嫌やと思って。

じゃあこれからどうしよう、何がやりたいか?って考えたとき、商いをしたいっていうのがこのときは1番に出てきました。農業じゃなく(笑)
祖父が商売人やったんで、学生時代から自分もいつか独立したいなと考えていたのです。それで、何ができるかなって考えて始めたのが、たこ焼き屋さんやったんです。学生時代、アルバイトをしていて、だいぶ流れがわかるので。その時、もう1回修行に行き直して、お金を貯めました。

その間に、もう一歩踏み込んで、農業を始めました。JRなんば駅前の雑居ビルに屋上菜園があったのですが、知人に紹介してもらって、そこで、1ヶ月3000円のテーブルくらいのスペースを借りて、小麦をつくったのですよ。

というのも、たこ焼き屋さんで、使う小麦にこだわっていて、もちろん国産ではあったのですけど、無農薬とかそういうものではなかったんです。じゃあ、自分でつくれば、そういうこだわった国産小麦ができるから、つくりたい。農業もやりたかったし。ということでスタートしたのが半農×半Xの始まりなのです。

「半X」は、たこ焼きだったのですね。

移動販売業のたこ焼き屋さん。まあ、それで、屋上菜園でチャレンジしながら、その間に園地を探したのですが、関わったことのないことって、情報を集めるのがなかなか難しいのですよね。どうやって借りたらいいのか、探したらいいかもわからんし。なので、農業関係の団体に会員として入ったのです。そこが自分の企画を応援してくれて、持っていた畑を貸してくれて小麦栽培をさせてもらえることになりました。ただし、兵庫県の西脇市っていう所に2時間かけて通いでやるっていう(笑)

それは、往復の時間を考えると大変ですね。

こまめに行けないので、種まきと鳥獣害対策づくりと、まあ、草刈りとですかね。要所要所をやって、まあ2反やって、無農薬で380kgくらいとれましたかね。で、それをいろんな手助けをしていただいて粉になったものを実際に自分でたこ焼きに、ってやったのですけど、採算性が合わないんですよ(笑) 大赤字なわけです。そこに手を出すと!

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木村秋則さんに出会い、愛媛に移住

徹底的にこだわったたこ焼きが完成したものの、残念ながら商売としては難しかった。でも、それがあるから農業の道を進むことになったのですね。

まあ、そんなことがあり、やっぱり農業は楽しいなあ、作業自体はしんどいけど、植物に触れるって楽しいなあって思いました。

そんな時に、奇跡のリンゴで知られる自然栽培の木村秋則さんの講演を聞く機会があり、愛媛で自然栽培と福祉を事業として展開している「パーソナルアシスタント青空」を紹介していたのです。いい所だなあと思って連絡したら、見学に来ていいですよと言ってもらって、2012年の9月に見学に行って体験しました。で、大阪に帰ってからも、やっぱりそこで働きたいなあと思って、雇ってもらえませんかって連絡したら、OKをもらって。

それで、大阪から不動産屋さんに連絡して、FAXで物件情報を送ってもらった中から決めて、2012年12月3日にこっちに来て、誰一人知り合いがいない中で、愛媛生活がスタートしたのです。

その後は、そこで就農して、独立したいとなったのが4年後。だから4年くらいそこで働かせてもらいました。

そこでは、どんなことを学んだのですか?

まあ、農業のベースを学ばせてもらいましたね。草刈りとか、苗の育て方とか、苗を実際に畑に植えてからの栽培管理とか。まあ、お米については、全般ですよね。植えるための準備、耕起、代掻き、で、田植え機で植えて、とか。

4年後に独立してからは、どのような苦労がありましたか?

営業じゃないですかね。自分の仕事をいかに売っていくのか。まあ、つくったものを売るのもそうですし、企画して何かを展開していくならば、その企画をどれだけの人に、こう売って仕事として頼んでもらえるか。営業力がかなり大事やし、苦労しています。

もちろんつくることの難しさもあるし、両方ですね。栽培技術を高めていって、安定供給できる生産物をつくれるのと並行して、作物ができた時に、売り先をちゃんと自分がつくれているかというところがやっぱり一番大変なところですね。

つくる難しさというのは、どのようなところですか?

まさに、今ですね、2019年5月に、自分一人で耕作放棄地から自然栽培に切り替えた園地があるのですが、柑橘の自然栽培って初めてなので、うまくいかないことだらけですね。

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DOHO STYLEをみんなで学び、未来につなげる

株式会社グリーングラスの道法正徳さんが提唱しているDOHO STYLE。この独自の農法を学びに、3、4回通ったという松井さん。愛媛でも仲間を増やしたいと、YAMA Schoolを企画することになります。

DOHO STYLEとは?
https://www.dohostyle.com/doho
そもそもの出会いのきっかけは何だったのですか?

農業仲間が道法さんの農法を学ぶスクールを企画したので、それに参加したのですよ。でも、初めは、正直、あまりよく分からなかった。っていうか、果樹栽培自体がよく分かっていない時に聞いているので、余計分からないですよね。最近は、やっぱりすごいんやなって思いますね。


すごいというのは、どういうところがですか?

技術や知識がすごいです。もともと農薬を使っていた人が、無農薬に切り替えてつくり上げた技術なので、誰が聞いても分かりやすい根拠がある。実地で20年、30年、そういう栽培してきた園地を見させてもらうと、レモンでいえば実が綺麗で、すごい量がとれていて、成功している実例として目に見えるので、安心して取り組めますね

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道法さんの会社は広島なので、それを、通いながら学びに行くこともできたと思うのですが、道法さんを愛媛に呼んで開催しようとするのはなぜですか?

ワクワクしたのが一番ですかね(笑)
これやったら楽しいな、あれやったら楽しいなと、いつも妄想するのですよね。その中の一つが今回のスクールなのですけど。まあ、昔から性分として、1個のことを突き詰めてやるのがあまり好きではなくて、いろんなことをしたくなるタイプなのです。なので、農業でも、つくって売るだけではなくて、農業の中でいろいろ自分がやりたいことをやっていきたいっていう気持ちが一番の元ですね。


確かに、無肥料・無農薬での柑橘栽培と、半Xの生業を学べるというのは、他にないプログラムで、ワクワクしますね。
しかし、初の試みに、周囲からは「実現は無理だ。やめておけ」というような厳しい声があることも聞いています。それでも、松井さんが突き動かされる、その原動力は何なのでしょうか。

それは、これから5年以内に確実に担い手が極端に減り、荒れた山が増えることに危機感を持っているからです。そういう流れはだいぶ前からありましたが、事態は年々深刻になっている。そして、日本の中での農産物の生産量が少ないことや、生産していても環境にあまりよくないやり方でやっていること、それをなんとか切り替えて、いいものにしていきたいっていう大義名分ですよね。

まあ、タイミングなのかなと思って。この5年以内にこんなに離農者が増える中で、イベントで単発になってしまいがちとか、事業として確立されてないとか言ったところで、時間は迫ってくるんです。急いでやったっていう感じですかね。その代わり、めっちゃ不安ですよ。こんなに大々的に打ち出してしまったプレッシャーはすごいのですけど、まあ、それでも、やりたいっていうのと、やらねばっていう想いでやってます。そう、やるしかないんですよ。動くしかない!

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農業のまったなしの状況に立ち向かっているのですね。

結局、何が目的なのかなって、改めて考えた時に、農業をやっているのも、無肥料・無農薬で取り組むのも、こういう無肥料・無農薬で栽培する人を増やすスクールを開講しようとしているのも、すべては次の世代により良い環境をつなぎたいっていうのが目的やなっていうのが、自分のお腹の中に落ちたんです。まとめるとそこになる感じ。

そうしたことをやっていくプロセスの中で、人は食べ物でできているっていうことを、毎年深く実感しています。とは言っても、まあ、お菓子とかも食べるんですけど(笑)。

でも、安心安全な食がベースにあると、もしジャンクなお菓子とかを食べたとしても、排毒する力っていうのが体に多分あると思うのです。だから、そういう安心な食は一部の人だけのものでなく、当たり前にベースにある社会であってほしいと思っています。

石川県のJAはくいが、自然栽培のお米や野菜を学校給食に使ったことがニュースになっていましたけど、あれが日本全国で当たり前になるように、そして、もちろん愛媛でもっていうのは、今すごい希望というか願いです。自分にも子どもがいるので、給食の食材が全部そういうふうに切り替わるっていうのを一番に願って、農業もスクールもやっていますね。

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 YAMA Schoolってどんな学校?

他にはない半農×半Xを学べるスクールということですが、お勧めのポイントは?

①無肥料・無農薬栽培の農業技術を学び、独立をサポート

1番のポイントは、確立された、無肥料・無農薬栽培の技術を学んで、農業で独立した後、安定収入を得られる仕組みがあるということです。まだ完璧ではなく、流通先をこれからこちらがもっとつくっていかないといけないところがあるのですけど。

実は、普通の慣行栽培の農業では、独立できる支援体制が既にあって、実際に独立者を輩出しているところはいっぱいあるのですよ。どちらかというとそちらの方が実績があって、成功しています。でも、無肥料・無農薬で、果樹に特化して支援しているところは、探しましたが見つかりませんでした。こぢんまり小さくやっているところはあるかもしれないですけど。

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②半Xの、小さな芽から大きなプロジェクトまでサポート

もう一つは、自分がやりたかったことを実現していくきっかけになる場であるということです。募集のリリース後、多くの反響があったのですが、SNSで反応してくれている要素って、そこだと思うのですよね。やりたかったこと、実現したかったことが叶えられるかもしれない、という期待感から、シェアをいっぱいしてくれていると思うのです。

叶えるためには自身の努力はもちろん必要ですけど、外の力、すなわち支援も絶対的にいると思っています。そのために、企業と提携し、「WORKATORS」というプロジェクト化できる仕組みを使えるようにしています。やりたいことが見つかっている人は、それをプロジェクト化して、仕組みを使ってもらえばいいし、見つかっていない人は、3年間の座学の間、衣食住にまつわることで何か見つける、もしくは、衣食住でなくても、例えばITをどっぷりやってきた人がIT絡めて何かを生み出すとか、そんなことでもいいと思うのです。「WORKATORS」を使ってプロジェクト化して、実際に生業として実現させるというところが、多分、他にはないのかなと思います。


どんな人に受講してほしいですか?

自分がワクワクしたことを、実現したい人、叶えたい人、そして、その中に、農的暮らしを取り入れてくれる人ですね。
本当に半農×半Xを叶えたいと思ってくれる人に来てもらいたいです。

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<インタビューを終えて>
農業とスクールの広報でお忙しい中、お話いただき、ありがとうございました。
YAMA Schoolは、松井さんが農業の世界に入った経験の中で苦労したこと、現在、地域が直面している課題、そこを、仲間をつくり、一緒に良くしていきたいという想いが根底にあることが伝わってきました。
そして実習予定地の圃場が面白い! これまで、山の中や海に面したみかん畑を見てきましたが、松山市内が一望できる地にあり、松山城まで見えるというのは新鮮な風景。それだけ街と近い場所だからこそ、自然栽培に取り組み、人々に伝えていく拠点となる意義を感じました。
半Xの講師陣も、野草茶、染物、藁納豆、炭焼き、酵素ジュースなど、魅力的なラインナップです。松井さんがワクワクするのも納得。スクールが実現して、農業の担い手が増え、持続可能な社会への一歩に。そして自分のやりたいことも実現させながら幸せの輪を周りに広げていく。松井さんが描く世界を私も見たいと思います。

スクールの詳細についてはHPをご覧ください。そして、お申し込みや質問などは、お気軽に松井さんにお問い合わせください。


半農×半Xスタイルの次世代農業独立支援学校(YAMA School)


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