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麦との出会いが作家活動の原動力 ヒンメリ作家・山本眞希

こんにちは!note更新担当のたぬ子です。

皆さん、ヒンメリを知っていますか?
ヒンメリは、ストロー状のパーツに糸を通して幾何学形を作るフィンランド発祥のオーナメントで、天や空を意味するスウェーデン語のhimmelが語源となっているそうです。

今回は、東温市でヒンメリ作家として活躍されているStraw Lyrics 山本やまもと眞希まきさんに、作家として活動を始めたきっかけや、材料への想いについてお伺いしました。
屋号の『Straw Lyrics』は、麦畑で麦が揺れている様子がうたを歌ってるように見えたことから名付けたそうで、なんと山本さん、ご自身で材料となるライ麦を育てられているのだとか!どんなお話を伺えるのか楽しみですね。

[プロフィール]
■氏名
 Straw Lyrics 山本眞希(やまもと まき) 
■ジャンル
 工芸/HIMMELI(ヒンメリ)
■連絡先
 Mail:maki.yamamoto01@gmail.com
■経歴
 高知県出身、東温市在住。京都嵯峨芸術大学短期大学混合表現科卒業。
 幼少期より物づくりが好きで、高校生の頃美術部に入部、美大を目指す。在籍中はカメラ、油絵、アニメーションなど、様々な表現方法を学ぶ。卒業後、書店員をしながら創作活動を続ける。
 結婚出産を経て、転勤で訪れた愛媛で初めて麦畑を見て衝撃を受ける。麦の茎を使った工芸ががあることを知り、2019年からヒンメリを作り始める。
■SNS
 ・Instagram(@straw_lyrics

ものづくりの光が差した麦畑

― 麦と糸のみを使って、どうやって立体にしているのか気になっていたので、今回アトリエに伺わせていただくのを楽しみにしていました。

 どうやって作るのか分からないから「やってみたい」という方が多いんです。まず、12本のパーツで作る正八面体が基本の形なんですけど、11本までは一筆書きのように平面で作って、最後の1本で立体にするんですよ。

― 最後の1本までは平面なのですね。展開図が想像できないです!最初に作られたヒンメリは、このアトリエにあるのですか。

 第一号は、ここにありません。引っ越しと共に壊れてしまって…。
 でも、来年一緒にフィンランドに行く子と、高松のフィンランド展で作ったヒンメリは飾っています。

― ヒンメリを勉強するために、フィンランドへ行かれるのですか。

 フィンランドには、世界的に有名なヒンメリ作家さんがいるので、その方のところへヒンメリを習いに行こうと思っています。
 私、美大出身なんですけど、そこは様々な表現方法を学んで、最終的に”自分の表現方法はこれだ”というもので卒業制作を作る学校だったんですね。でも、見つからなくて。卒業後もずっと探し続けて、ヒンメリに出会いました。
 だけど、どうしてここまで自分がヒンメリに夢中になっているのかが分からないんです。なのでその方に、どうしてヒンメリを作ろうと思ったのか、どういう考えで活動されてれるのかを直接お会いして聞いてみたいと思って、フィンランドへ行こうと決めました。

― どういった経緯でヒンメリに出会われたのですか。

 愛媛で麦畑を初めて見てすごく衝撃を受けて、麦という素材自体にものすごく感動したんです。そこから麦のことを調べていた時に、ヒンメリという工芸品があることを知りました。

― 「ヒンメリはしめ縄に近い存在」と雑誌で答えられていましたが、どのようなところに近さを感じられるのですか。

 ヒンメリは、元々ライ麦を収穫したあとの冬に、その年のライ麦を使って作るので、豊作だとそれだけ大きなヒンメリができるんですね。フィンランドでは「ヒンメリを飾るところには幸せが来る」と言われているので、家族がたくさん集まる食卓やベビーベッド、寝室に飾る風習があります。そうして、1年間飾られたヒンメリは、次の年の夏至の時期に燃やして、その灰を畑に撒いて土に戻すんです。そういう循環しているところもすごく好きで。
 そのお話を聞いた時に、材料もしめ縄と同じで主食にしている植物の茎ですし、家に飾っているというところも似ているなと思って「しめ縄に近いもの」として解釈をしています。 

よし!麦を育ててみよう!

写真提供:Straw Lyrics 山本眞希

― 作家として活動しようと思ったきっかけを教えてください。

 友人に自分が作ったものをプレゼントした時に、喜んでもらえたことが大きかったですね。
 令和2年度に、東温市の「SAKURA select」に選定いただいた時、会議委員の方から「物語のある作品を作ってください」とアドバイスをいただきました。そこから「どんな作品が物語のある作品になるんだろう」と考えて、材料の麦を自分で育ててみたら、自分の中に物語ができるんじゃないかと思い「作家になろう!」と決意しました。

― 作家になることを決意されたと同時に畑も始められたのですか。

 半年後に畑が見つかりました。
 友人がハーブを育てて、それをブレンドしてオリジナルの野草茶を作っているんですけど、その友人が「うちに畑が余っているから、実験だと思ってやってみればいいんだよ」と言ってくれて、そこから畑を始めました。

― 初めから麦は順調に育ちましたか。

 育ちました!インターネットで調べたんですけど、ライ麦の先祖は雑草らしくて。だから、フィンランドのような寒い国でも生き延びれたんでしょうね。
 ただ農業未経験だったので、種まきの適量が分からなくて、春になってものすごい量が生えてきて!嬉しかったんですけど「収穫どうしよう!」と逆に困りました(笑)

― 全て収穫されたのですか。

 収穫しました!あまりに大量で、物干し竿にしていた竹が真ん中で折れちゃうぐらいでした。

― 収穫した麦の使用期限はあるのですか。

 期限はないんですけど、麦は植物なので湿気にとても弱くて、少しずつ柔らかくなってしまうんですよね。柔らかいと麦の中に糸を通して、糸と糸を結ぶ時に端がピリッと繊維に沿って縦に裂けていっちゃうんです。
 なので1年ぐらいがベストだと思います。

麦の個性を生かす作品づくり

― 麦は植物ですので、茎は穂先が細く根本に近付くほど太いのですね。

 そうです。私は細い麦でヒンメリを作っているので、基本穂先から1つ目の関節までを使います。 私が使っている部分は、穂が実ると重さで穂が垂れて曲がってしまう部分なんですよね。ヒンメリを作るには真っ直ぐの茎が必要なので、穂が熟してない時に収穫しているんですよ。

 でも、そもそもヒンメリは実を食べて、残った茎で作られていたんだよなあと思って、今年は一部穂が熟すのを待って収穫しました。そうしたら、とても立派で重さのある麦が収穫できて、一般的なヒンメリがなぜあの太さの麦を使っているのか納得できました。熟すまで待つと、真っ直ぐの茎の部分って根本部分だけなんですね。やってみて初めて気づきました。

― 乾燥させるうちに麦の色が変化するのですか。

 そうなんです。なるべく直射日光に当てないように、収穫してすぐに家の中で乾燥させるんですけど、割とすぐに薄い抹茶色にはなります。1年ほどはまだ緑のままなんですけど、1年以上経つと色が変わってしまいますね。

― では、購入された方は色の変化も合わせて楽しめるのですね。

 すごく楽しめます。わざと色の違う麦を混ぜたヒンメリを作って、だんだんと本当のお星さまの色に変わっていく過程を、楽しんでいただけるようにしています。一緒に過ごす時間が長くなると、だんだん飴色に変わっていくので味が出てくるんですよ。

― 紫色の麦も同じ品種なんですか。

 同じ品種で同じ日に蒔いたんですけど、ライ麦は背が高いので風で倒れてしまうんですね。そして、倒れた麦は自分で起き上がって来ようとするんですよ。その起き上がって来ようと頑張った部分が、紫色になるんです。
 紫色の麦は、わざと模様を付けたいところに使っていますね。

無駄にせず、感謝を込めて編み進める

― 作品制作中に大切にされていることを教えてください。

 無駄にしないことですね。麦の余った部分も畑に撒けば肥料になるんです。糸も蚕を育てて作っているので、より大切に使わないとという思いがあって、とにかく丁寧に丁寧に作っていくことを大切にしています。

― 素材から栽培しているから出てくる言葉ですね。

 「ありがたいなあ」といつも思うんですよね。
 ご自身で麦を育てたいけれど、畑がないという作家さんもいらっしゃいますし。私は、人に恵まれてここまで来れたと思っているので、材料もですが、今こうして活動できる環境にも感謝をしながら「丁寧にやっていかないとな」と思っています。

― 材料から丁寧に選ばれているのですね。

写真提供:Straw Lyrics 山本眞希

 初めは普通の木綿糸を使っていたのですが、山本家のご先祖様が蚕を育てていたという話を思い出して、ふと「糸って愛媛で作られてるのかな?」と思ったんです。それで調べてみたら、三間町で作っていることが分かって、その週末にシルク博物館へ行って見学と、伊予生糸の販売をしてもらいました。
 基本、夜中にデスクライトの明かりで作っているんですけど、伊予生糸は糸が光って見えるんですよ。美しい生糸と、美しい麦でヒンメリを編んでいるのが、ものすごく楽しくて。そこから「糸は伊予生糸にしよう」と決めましたね。
 でも、伊予生糸は撚っていないので、焦っていると毛羽立って麦の中を通らなかったり、麦を裂いてしまうんです。だから本当に気持ちが落ち着いてる時でないと作れなくて、それが自分の戒めになるというか。自分との闘いですね。
 糸は麦の中に入ってしまって見えなくなるので、もったいないなと思うこともありますが、ヒンメリとしてお客様の手元に来るまでの工程が、作品のストーリーとしてお客様に伝わると嬉しいです。

砥部焼のような青いヒンメリ

ー 今後、愛媛でやりたいことを教えてください。

 砥部焼や大洲和紙、野村町の伊予生糸など、愛媛でずっと手仕事として残ってるものとコラボして、愛媛だけの、愛媛でしか生まれない、愛媛のヒンメリを作りたいです。

絵しりとり 輪ゴム ⇒ む○

運命的に!!ヒンメリにぴったりな文字からバトンをもらい、素敵な絵を描いていただきました。ヒンメリと言えば、これ!ですよ。


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