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「お金の見える化」と地域経済を支える基盤としての地域金融機関

実践から学ぶ地方創生と地域金融』に登場するのは、文字通り地域金融機関です。では、「地域金融機関」とはどのようなものなのか。みんながよく知っている銀行と何が違うのか。

多くの金融機関は、個人や企業からの預金をもとに融資やローンを行い、その金利を収益として事業を行っている組織です。また、振込や送金、口座振替といった代金支払いや金銭授受を行う「為替業務」があり、先にあげた「預金業務」「融資業務」と併せて金融機関の代表的な業務です。

そして、どの金融機関もほぼ同じような業務を行っています。そうすると、銀行、信用金庫、信用組合の違いはなにか。それは、簡単に言えば、株式会社としての銀行と、非営利組織としての信用金庫、信用組合という違いがあります。

巨大な収益規模や資本をもとに経済を動かす銀行

銀行のほとんどは株式会社であり(日銀や特殊銀行などは除く)、多くが上場し、株式を発行して資金を調達し経営を行っています。株式会社は株主への利益を追求する組織です。そのなかでも、多くの人が知る国内大手銀行は、統合・合併し巨大な収益規模や資金をもとに経営している「メガバンク」です。

メガバンククラスになると、取引先の多くは大手企業を中心に、融資金額なども数百億円になることも。グローバルに事業を展開し、国内経済、世界経済を動かす大企業を中心に取引先と関係をもち、彼らのビジネスを支えるために活動しています。

一方、地銀は同じ株式会社ではあるものの、本店所在府県などで最大規模の金融機関として活動し、メガバンクとのつながりももちながらも、主要な取引先が地元大企業への融資を行う銀行です。各都道府県内において強固な地盤とネットワークをもち、地元大企業を中心に地元産業を支える存在です。銀行としての一定規模の資金を動かしながら、個々の事業者支援のみならず、地域全域の産業を支え、時には産業振興を推進するという意味で、地域産業全体の柱である地域金融として活躍しています。

会員の相互扶助や地域の発展を第一に考える信金・信組

では、信用金庫(信金)、信用組合(信組)は何かというと、同じ金融組織ですが組織形態が違います。信金、信組は相互扶助を目的に、地域に暮らす個人や住民、事業者らが協同組織としての会員や組合員となることで、会員の発展を支える非営利組織の金融機関です。

株式会社である銀行と違い、株式発行による資金調達ではなく、地域の人たちから集めた出資金や預金を元手に運営しています。そのため、資金規模はメガバンクや地銀に比べると小さいです。また、非営利組織であるため、そこで得た利益は次の事業を資金を回し、地域内へ還元しながら地域活性を促すことを第一としています。資金使途があくまで地域の発展、地域貢献が主となっているのが特徴であると同時に、使命でもあります。

全国信用金庫協会のサイトには、こう書かれています。

金融サービスは同じでも、経営理念の違いで組織のあり方がそれぞれ異なります。
銀行は、株式会社であり、株主の利益が優先されます。また、大企業を含む全国の企業等との取引が可能です。
信用金庫は、地域の方々が利用者・会員となって互いに地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした協同組織の金融機関で、主な取引先は中小企業や個人です。利益第一主義ではなく、会員すなわち地域社会の利益が優先されます。さらに、営業地域は一定の地域に限定されており、お預かりした資金はその地域の発展に生かされている点も銀行と大きく異なります。
信用組合は、信用金庫と同じ協同組織の金融機関ですが、根拠法や会員(組合員)資格が異なります。また、預金の受入れについても、信用組合は原則として組合員が対象ですが、信用金庫は制限がないなど業務の範囲も異なります。
出典:一般社団法人全国信用金庫協会

根拠法や会員(組合員)資格に違いはありますが、基本は、各地の信金や信組は営業エリア内に住まう人、勤めている人、事業所を運営している事業者らが会員(組合員)となり、その会員(組合員)に対して融資を行うことができます。

逆にいえば、営業エリア外の地域に対しては基本的には活動ができないという意味で、地域との共存共栄、一蓮托生な組織でもあります。そのため、営業エリア内における地域密着を活動の柱にし、地域に根ざした事業を営む個人事業主や小規模事業者に対して手厚く、地元の企業を支援する「地域活性を促す銀行」という役割なのです。つまり、企業や個人から預かったお金は基本的にその営業地域内の事業者や個人にのみ貸付を行うため、預けたお金が地域活性に寄与するとも言えます。

全国信用協同組合連合会のサイト(全国の信用組合の中央組織)によると、欧米などでも信用組合は一般的で、特に、アメリカでは信用組合の数が全金融機関のほぼ半数を占めているとし、地域に根ざした動きが広がっているといえます。

さらに、ここでいう信用組合は「地域信用組合」という地域コミュニティを主体としたもので、他にも、「業域信用組合」(特定の業種の関係者で構成されたもの)や「職域信用組合」(同じ職場の従業員などで構成されたもの)があります。信用組合とは、それぞれのコミュニティに寄り添いながら、組合員が預けた預金をもとに、地域経済や組合員の生活レベルを向上させるための金融事業を営む組織ということです。

他にも、組合でいえば「生活協同組合」(生協)や「全国労働者共済生活協同組合連合会」(全労済)があります。生協は、市民が集まって日々の生活を営むために物品を共同購入するもので、全労済の「共済」とはいわゆる保険の別名のようなもので、事故や入院といった交通事故や住宅災害などの時に組合員相互扶助のもとに、保険の仕組みで保障をするものです。

地域金融は、地域のお金の見える化をつくり出す

つまり、「地域金融」とは、地銀や信用金庫、信用組合といった、地元の人たちを中心とした人たちのお金を預かり、それを地元企業を中心とする個人事業主や事業者への融資や支援を積極的に行う金融機関のことを指します。また、地域金融にお金を預けるということは、預けたお金が地元の商店や飲食店、個人商店を営む人たちの資金需要の支えとなることが見えやすいということでもあります。いわば、地域金融とは「お金の見える化」を生み出しやすい金融機関といえるでしょう。

また、融資や金融商品の提供だけでなく、創業支援やビジネスマッチングなどによる販路開拓や事業連携支援、時には事業再生や事業承継といった取り組みも積極的に行う地域金融も増えてきました。地元経済を活性化し、エコシステムをつくり出す基盤としての地域金融の役割を見いだしながら、日々活動しているのが地域金融であり、『実践から学ぶ地方創生と地域金融』で書かれている事例は、そうした地域金融による活動を主体としてまとめた内容となっています。

自分が預けたお金が、確実に地元に還元されていく。それによって、地域活性や地元産業が盛り上がっていく。お金をどこに預けるかという行為一つでも地域活性に寄与できますし、会員や組合員として、地域金融に対して「もっとこういうところに融資をして」とフィードバックすれば地域金融機関も動いてくれる可能性もあります。「域内経済循環率」を高める一つとして、地域金融へのローカルインベストメントを行うことによって、持続可能な地域へと推進していけるのです。


過去の歴史から学び、新たな挑戦を行う地域金融

これまでの歴史を振り返ると、地域金融機関もグローバルな影響による金融財政危機を受け、経営難に陥り、組織改革を行う金融機関も多くありました。また、融資判断を円滑に行うために事業者の財務情報を活用し企業を格付けし、客観的で定量的な情報をもとに融資審査を行うということを行ってきた反面、時に機械的に融資判断をしてしまったことによる問題点なども浮上してきました。

「預貸率」の低下による課題も浮き彫りになりました。「預貸率」とは、預金残高に対する貸出残高の比率で、集めた預金がどれだけ貸出されているかという比率であり、それが低くければ地元に資金が還元されていない、ということでもあります。そうした金融組織全体としてのあり方を振り返り、金融機関そのものが組織として新たなチャレンジをし、新たなあり方を模索しようとする中から、地元産業を興したり地元経済を回復させようと積極的に取り組む地域金融が増えてきました。

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実践から学ぶ地方創生と地域金融』では、まさにそうした地域金融としての新たなチャレンジをまとめた内容になっています。登場する地域金融として、地銀が3つ、信金が3つ、信組が4つ、広域の地域金融の連合体が1つと、信金、信組の事例が多いのが特徴です。また、地域別に見ると、東北3つ、東京2つ、中部信越3つ、関西1つ、中国・四国1つ、九州1つと、比較的地方の事例が多いことが分かります。

狙ってこういった構成にしたのではなく、色々と事例や各地の課題などと照らし合わせながら本書の構成や取材先を考える中で、結果としてこうした構成となりました。

それはつまり、ここに上げた地域それぞれが地域課題が喫緊に迫っており、かつ、地域と共存共栄しなければいけない地域金融にとって、地域課題は自分たち金融機関としての生存にも関わる問題であり、だからこそ、金融的なアプローチから地域課題を解決しながら、地域経済を持続的に循環させていこうとする取り組みやスキーム作りが重要になってくることが理解いただけるかと思います。

そして、信金、信組にとって地域とともに活動しなければならないからこそ、地元の問題をより深く理解し、そのために自分たちは何ができるのか、を向き合い、考えようとしたことの一つの表れなのだと思います。

地方創生、地域経済開発における地域金融の役割は、今後ますます求められてくるはずです。『実践から学ぶ地方創生と地域金融』の事例やスキームを読み込みながら、自分たちの地域でできる地域経済の循環について具体的な取り組みを推進する教材になれば、と思っています。


今後の執筆活動や取材、リサーチ活動として使わせていただきます。