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ひとりを愉しむ大人たちが集う、珈琲とチョコレートの喫茶室 蔵前「蕪木」|#安心する場所でおやすみ

たぶん、このお店はここを目指してきた人でないと入りづらい。静かな住宅地、周りを歩く人もいない、分かるのは蕪木と書かれた表札だけ。でも、もし少しでも気になった人がいたら勇気をもって入ってみてほしい。

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蔵前にある、大人が集う珈琲喫茶「蕪木」

日本家屋を思わせる店構え。
1階は工房兼販売スペース、二階は喫茶となっている。

少し緊張しながら扉を開け、店員さんに喫茶を利用したい旨を話すと「さっきまで満席でして、ちょうど今お席が空いたんですよ。お二階へどうぞ」と案内してもらった。



店員さんの案内の後、喫茶のある二階には一人で向かう。

トン、トンと階段を登っていくごとに、次の空間への緊張と期待、外の世界から離れ、ひとりになっていくことへの孤独な心地よさが増していく。

階段を登りきると目の前にはまた扉が。

今の時代、多くのお店が自動ドアの中、自分でドアノブを引いて入るお店はどのくらい存在するだろう。しかも蕪木は入り口にひとつ、喫茶への入り口のふたつだ。

初めてのお店に来るとついつい内装に見入ってしまう癖がある私は、このドアを開けるという行為、またはドアを2つ付けるということにも何か意味があるのではと感じてしまう。外の世界と切り離すため、空間に集中させるため、単に設計上の理由なのか。ともかく、扉を開け、ひとりで階段を上り、また扉を開けるという行為が特別感を感じて素敵だなと思った。

開けた喫茶への扉は、従来の扉より少し背が低く、まるで武器を持っては入れないお茶室のにじり口を連想させた。



喫茶室の空間は照明が落とされていて比較的薄暗く、まだ昼間だということを忘れてしまいそうになる。自然光が入る明るい空間も好きだけれど、ひとりでゆっくり過ごすには間接照明のほの暗さがほっとする。

普段だと緊張して落ち着かないカウンター席も、この空間だったら居心地がいい。

席に座り渡されたお冷やを一口飲むと口当たりが良く、口内と変わらない温度感。あぁ、外が寒いからと水ではなく白湯を入れてくれたのか。(訪れたのは1月) 冷えた体にすっと馴染む白湯がとてもおいしく感じた。

飲み物が届くまで書き物をしようと小さなノートを取り出し書いていたら、隣に座っていた他のお客さんも本を取り出して読み始めた。そうすると頭上にある間接照明の明るさが上がったのがわかった。きっと私たち二人に気付いた店員さんが手元が見えやすいようにと光量をあげてくれたのだ。

もちろん飲食店には食事をする前提で入っていて、だけどこういうマニュアルではない心遣いに触れると、とても心が温かくなり、うれしい気持ちになる。

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店員さんの流れるようなうつくしい所作に見惚れながら待っていると、頼んだカフェオレとチョコレートが手元に届いた。金で縁取られたカップが印象的でとても綺麗。

一口飲むと最初に牛乳の旨味を感じ、後ろ盾をコーヒーがしっかりと支えているようなまろやかな味わいがおいしい。

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数種類あるチョコレートは、カカオ豆の調達から製造まで一貫して作られている自家製で、頼むと飲み物に合うものを店員さんが選んでくれる。温かいカフェオレに合うように選ばれたのはミルクチョコレートの「煉々(れんれん)」

飲み物で温かくなった口内に、ねっとりと密度の濃いチョコレートを一欠片を含めばまさに嗜好品、うっとりする甘美な甘さ。カフェオレのまろやかさにミルクチョコレートはよく合い、心までも甘く柔く溶かしていく。



店内を見渡すと、友人や恋人と2人で訪れている人もいるけれど1人で来ているお客さんの方が多いように見受けられる。

喋り声はほとんど聞こえず、聞こえるのは控えめにポロポロと流れるピアノの音楽と珈琲を入れる心地いい音だけ。そして感覚を研ぎ澄ますのは、部屋に立ち込めるコーヒーの香り。目の前の一杯に向き合う、静かで落ち着いた空間。

みんな思い思いにこの時間を大切にし、心地いい孤独を味わっているのだ。

もうそろそろ出ようかと店員さんに声を掛けると、小さな筒状に巻かれた伝票が渡された。反応こそ見せなかったものの、喫茶店でこんな伝票を渡されたのは初めてでおどろいてしまう。入り口でのさりげない会話、お冷やではなく白湯を出されたこと、中身が見えない筒状の伝票。決して押し付けがましくはない、全てが程よい距離感、けれど根底にしっかりとした意思が垣間見える接客と店づくり。

お店に入る時最初に感じた緊張はとっくに消えていて、帰る頃にはこのお店のことをもっと知りたいとまで思うようになっていた。



静かな場所へ行きたいとき、目の前の一杯に集中して飲みたい時。少し勇気を出して扉を開けて見てほしい。歳を重ねることに肯定的な意見をもったことはないけれど、こんなお店を知ることができるなら大人になるのも悪くはないかもしれない。

蕪木は上質な空間を愉しめる大人たちが集う、心地いい孤独を味わえる珈琲喫茶だ。







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