重たいテーマだからこそマンガの出番

柏木ハルコ先生のマンガ『健康で文化的な最低限度の生活』。

数あるマンガの中でもこの作品に対して私は強い思い入れがあり、アルのマンガライターとしていくつかの記事を書かせてもらいました。(⇓下記ページ内の紹介文章など)

マンガに関する記事を書く者として、さらには一人の人間として、この作品に強い魅力を感じています。

なぜこの作品に思い入れがあるのか?どんな点に魅力を感じるのか?
順を追って語らせてもらいます!

このマンガをどんな視点で読んでいいのかわからない!と思っている方の参考になれば嬉しいです。

とある本を手にしたことがきっかけ

このマンガを読もうと思った最初のきっかけは、『この国の不寛容の果てに』という本を読んだことがきっかけでした。

こちらの本は、2016年に起こった「相模原障害者施設殺傷事件」を扱った本です。悲惨な事件のため事件の詳細は省きます。

この本によると犯人は、「このままでは日本の借金が危ない!」という危機意識のもと犯行に及んだそうです。

そんな彼の主張に対してどのような反論ができるのか? そして、このような優生思想的な考えは、彼だけではなく現代社会を生きる我々も持ち合わせているのではないか? といったテーマで、筆者の雨宮氏が様々な論者と議論を交わす対談集です。

筆者は、「生産性」だけで人間の価値を判断するようになっている現代社会に対して、強い警鐘を鳴らしています。

「生産性至上主義」の行き着く先

確かに私自身も最近は、「いかにして自分の市場価値を高めるか?」みたいなことをすごく考えるようになりました。

このような考え方がダメだ!と言うつもりはないです。ただ、この考え方だけになってしまうと、「経済的な価値を産み出せない人は無価値だ!」なんていう考えに簡単に染まってしまいそうです。この「生産性至上主義」の行き着く先に犯人がいる気がして、ゾッとした恐怖を感じました。想像以上に近くにいる気がしたからです。

どんな反論ができるのだろう?

そんな恐怖を感じてからは、「彼の主張に対してどんな反論ができるのだろう?」さらには「自分が彼のようにならないためには、どうしたらいいだろう?」ということを考えるようになりました。

それっぽい言葉を並べた「あるべき論」ではなく、現実的に・身体的に納得できるような回答が欲しい。とはいえ、テーマが大きすぎて考えるのが難しい・・・。

そんなことを思う中で手に取ったマンガが『健康で文化的な最低限度の生活』でした。

『健康で文化的な最低限度の生活』で描かれるリアル

このマンガは、主人公のえみるが新人ケースワーカーとして生活保護受給者と向き合い続け、成長していく物語です。

様々な理由により働くことができない人々のリアルが描かれています。

この作品を読むことで、先ほどの疑問を考える糸口を見つけられるんじゃないかなと思いました。

最もグッときたシーン

数ある名シーンの中でも、一番感銘を受けたのは「子供の貧困編」のワンシーンです。生活保護を受給している女性が、子供を産むか否か悩む姿が描かれています。(8巻

主人公と同期の栗橋は、彼女に対してどのようなサポートができるのか?

栗橋の上司は産むことに反対します。「世間的に許されない」と。

妊娠している女性も批判を受けることが分かっているので、ためらいます。「もし産むとしても、人の手なんて借りない。」

そんな彼女の発言に対してケースワーカーの栗橋は、それは違うと断言します。

周囲に助けを求めることは、決して迷惑ではない。」と言い切るのです。

その発言を聞いた女性は産むことを決意。栗橋も力強くうなずきました。

当たり前なことを言い切ってくれることで確信がもてる

このシーンから受け取るメッセージはすごく当たり前な内容です。

「人の手を借りることは決して迷惑ではない。」
「自分の人生は自分でしか決められない。」

当たり前な内容なのですが、こんなにもハッキリと断言してくれたことで、頭の中でモヤモヤ考えていたことがストンと腹に落ちた気がしました。(うまく表現できないのですが、、)

登場人物が当たり前のことを言い切ってくれたことで、「そうだ。一人ひとり人生を生きる権利があるんじゃん。」と、当たり前のことに確信が持てたのです。

モヤモヤ考えていた私はなんだか救われた気がしました。

極論に行き着かないように

この作品を読んだことで、犯人の主張に対抗できるような確固たる反論が思いついたか?というとまだ答えは出せていません。

明確な答えは出せていないのですが、この作品を読んで登場人物たちと一緒に考え続けることで、自分が極論に行かないように食い止めてくれる気がします。だからこそ私はこの作品を読み続けようと思っています。

重たいテーマだからこそマンガの出番

この作品を読んだことのない方は、「重たい内容のマンガなんて読みたくない!」と思っているかもしれません。その気持ちも分かります。ですが、重たいテーマだからこそマンガの出番だと思うのです。

生活保護の問題について考えよう!といっても普段考える機会なんてほとんどありません。大切な問題だとは思うのですが、めんどくさがって別のことを考えたくなってしまいます。

そんな重たいテーマでも、娯楽であるマンガであればついつい読んでしまいます。気づいたらマンガの世界に入って登場人物と一緒になって考えているはずです。

マンガならば、重たいテーマでも読者の心と頭にリーチできる。だからこそ、マンガで描く意義があるのだと思います。この作品は、マンガの魅力の一つを私に教えてくれました。

もちろん重たい気分になるだけではありません!

感動したり、優しい気持ちになったり、はにかんでしまうシーンもたくさんあります!

読み方や考え方は人それぞれ。ぜひ一度読んでみてください!


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