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誘うデザイン

魚釣りとマーケティングは似てる。と、検索してみると、結構たくさんの人がそういう記事を書いている。私もその意見に賛同する者の1人である。

魚釣りとマーケティング。
まず、自分がマーケターだとした場合、これらの違いは何かというと、相手が魚なのか人間なのか、というのが違う。「ターゲット」が違う。

私はマーケティングの仕事に携わっている。厳密にいうとWEBマーケティングというフィールドが主な仕事場だ。つまり私の仕事におけるターゲットは「インターネットユーザー」である。

これを魚釣りになぞらえると、インターネットという海でユーザーという魚群は多種多様ではあるが、時間帯や季節、浅いところや深いところ、ひと所に居着いていたり、広範囲を移動していたり、という具合にそれぞれの種ごとに特有の行動のパターンがある。人間様を魚に例えるなんてどうかしてるぞ、というご意見もわかりますがここは例え話なのでどうかひとつ。

魚釣りでは、「餌」で釣る方法と「ルアー」で釣る方法がある。
「餌」と「ルアー」の選択肢がある。ここが面白いところ。釣りの一番面白いところだ。これこそが、デザインとマーケティングを仕事にしてきた私が釣りにハマった理由であるし、「対象の行動を誘発する造形と仕掛け」という点において、魚釣りとマーケティングの両ジャンルがお互いに参照し合えるノウハウがあるのが面白い。

例えば魚を「餌」で釣るとする。これはルアーと比べたら高確率で釣れる。だって本物の食べ物だからだ。そりゃ食うでしょ、てなもんである。
これを例えばマーケティングで言うなら「割引」である。または「QUOカードプレゼント」あるいは「ポイント2倍」といった、お得でおびき寄せる集客プロモーションだ。そりゃ買うでしょ、お得なんだから、むしろ買わないと損、てなもんである。

あくまでも私見だし、個人的な意見なのだが、プロモーションにおける「価格訴求」「お得訴求」はダサい。値段を下げたり金券をバラ撒く事で人を集めるってのは、クリエイティブを諦めた時にやる事だと思うからだ。

魚を餌で釣るのも同じだ。と、思っている。
私は出来るだけ「餌」というお得訴求ではなく、クリエイティブで相手を誘いたいのだ。

しかし、どうしようもない時というのが人生にはある。
勝たなければいけない時がある。
そういう時はバラ撒いてしまう。
哀しい。情けない。これはブルースである。

ルアーというものがある。簡単にいうと「擬似餌」である。ニセ小魚、とでも言えば伝わるだろうか。このルアーだが、かなりたくさんの種類がある。ルアーのメーカーやブランドもたくさんある。釣具屋に行くとかなりのバリエーションに驚くだろう。私はそのルアーのデザインがとにかく好きである。ひとつ残らずすべてのルアーが「ターゲットを誘う」という目的で作られている。そしてそれぞれのルアーの誕生した経緯があり、デザインによるブラッシュアップを重ねるクリエイターいる。

魚釣りのルアーというのは、デザインにおいて特殊なジャンルだと思っている。「釣れる」という実益を期待されるプロダクトデザインでありつつ、その実益はターゲットを誘うという集客効果そのものである。なおかつそれを買うのは人間なので、人間に対しても「釣れそうだ」と思わせなければいけない。
なんという複雑なプロダクトなのだろう。

私は釣具屋のルアーの棚を眺める時、人間の感性で「かっこいい」とか「かわいい」と言って楽しんでいる反面、魚の気持ちになって「これは食っちゃうな」とか「これは無いな」とか言ったりもしている。釣具屋の店内で長い時間そんな事していると、頭がどうかしてくる。私は何をしているのだろうか。

デザインというのは奥が深くしかも多様だ。
しかし確実なことがある。すべてのデザインはそれに触れる者の行動を誘発する目的で作られる。
その相手が人でも魚でも。

〈DAY47#77〉

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