頬杖と文豪
「頬杖」の絵を描き始めたのは3年前。
自分のSNSのプロフィール画像用に、何かちょうどいいイラストでも描こうと思って。
顔だけ描くのも味気ないので、何かのポーズをしているのがいいなと考え、色々と描いてみた記憶がある。顔と手の組み合わせだ。
口の周りに拡げた手を添えて「ヤッホー」とやまびこを叫ばんばかりのポーズや、遠くを見る時におでこにちょっとした屋根みたいに手を添えるポーズ。テイトウワみたいに親指と人差し指で「L」の字を作って顎にあてるポーズなど、さまざまなフォームを作ってみた。
わかるかな?
このように「ポーズ」ってのはテキストで説明しようとしても、実際に見るビジュアルのように伝えるのはかなり難しい。
想像してほしい。赤塚不二夫のキャラクターのイヤミの「シェー」を文章で書き表すことの不毛さを。
というわけで、結局私が気に入ったポーズは「頬杖」である。
これは無作法で怠惰な態度にも見えるが、何かを考えているようにも見える。誰かと対話しているようにも見える。シリアスにもメランコリックにもラフにも見えるから、例えばこのポーズのポートレートに漫画みたいに吹き出しがあったら、結構どんな言葉でも合いそうかなと思う。ただ「謝罪」だけは合わないだろうな。不誠実に見えるかもしれない。
以前、「頬杖」という仕草について、海外でどう呼ばれているポーズなのかを調べてみたことがある。面白いことに、日本語の「頬杖」のような簡潔な固有の名称がまったくないということがわかった。
英語にもスペイン語にもポルトガル語にもフランス語にもイタリア語にもドイツ語にも中国語にも韓国語にもなかった。ひょっとしたらまだ見つけられてないだけで、アフリカやアマゾンのどこかにはあるかもしれない。
まあ、確かに何かに例えにくいポーズではあるし、このシーンで、この感情で使うポーズだ、というはっきりした用途もないように思う。だから名前がないのかもしれない。
そう思うと「頬杖」とはなかなかいい名前である。
最近、アメリカや韓国で太宰治の本が売れていると聞いた。なぜかは知らないが、なんでも起こり得る時代だしね、今まで伝わらなかっただけで、TikTokかなんかでバズって海外の若者が気づいたのだろうかね。
太宰治といえば、頬杖だ。
彼のポートレートはいつも頬杖。
アインシュタインがベロ出しなら太宰は頬杖というぐらいに太宰は頬杖、頬杖は太宰だ。
とにかく太宰治が世界コンテンツになりそうだ。ということで、先述の「頬杖」を「太宰治のポーズ」ということにしよう。
フォーム・オブ・ダザイ。
Form of DAZAI.
なかなか良い。
ということはバリエーションとして、頬杖ではなく顎を軽く摘むようなポーズでお馴染みの芥川龍之介もいける。
フォーム・オブ・アクタガワ。
Form of AKUTAGAWA.
よし、このポーズも描いてみようかな。
夏目漱石も特有のポーズがあるよな。1人掛けソファーで考え事、みたいなやつ。
なぜか文豪ばかりになってしまった。
文豪はポーズとりがち。