昭和時代のラーメン愛:令和のラーメンはヘルシー&ファミリーを望む
令和時代のラーメンは昔に比べて格段に進化しているが、私は昭和の中華料理店の「中華そば」の方が断然に美味しかった。
⇒令和のラーメン屋は失ってきたものが多すぎる。
昭和の中華料理店の風景
「中華飯店 王さん」
うっすらと油で汚れた赤い暖簾は小汚いというより歴史を感じた。入り口の前に積んであるビールケースも常連客が多い証拠だ。私は直感でこの店は美味いと感じた
今日はラーメンでも食べようか
ビールケースの隙間を通って扉を開けるとガランカランと音が鳴った。店はカウンターが10席、テーブル席が3つある小さい店だ。
お客は私一人だけであった。店主は奥の居間で背中を向けて競馬新聞を読んでくつろいた。
「あっ、い、いらっしゃい」
私が入ってくると、びっくりしたように振り向き、中華料理屋独特の白い帽子を取り出し、太ももとでバシッと叩いてから、髪の薄い頭に被って飛び出してきた。
大将は中年で小太り、油でテカテカした顔をして、グンゼのランニングシャツの上に白衣を着ている
休憩中だったのかな?私は少し申し訳ない気がした。
そんな私を察したのか、店主は満面の笑みで話し掛けてきた
「注文は何にしましょう?」
「五目チャーハンをお願いします」
「五目?アイヤー ナイナイ アルヨ」
あるのかないのかどっちだろう? 王さんは本場の人だからしかたないか
「なら、普通のチャーハンでいいですよ」
「アイヨー」
私はカウンターに座り、店内を観察した。
カウンターは赤いテーブルでビニールのシートが張られ、卓上にはコショウ、ラー油、割り箸、ラッキョウ、薄切りレモンの入った水がピッチャーで置かれており、水はワンカップ大関の空き瓶に入って出てきた。
棚には「ゴルゴ13」「鬼平犯科帳」「ドカベン」「週刊チャンピオン」の漫画と、スポーツ報知がある。
レジ近くのカウンター席で、店主の息子が学校の宿題をしており、私にちらっと顔を向けたが、特に気にする様子も無くまた宿題を始めだした。
店内の壁には子供の習字が張られていた
「希望の光 〇年〇組 佐藤我次郎」
生粋の日本人じゃないか。何で小芝居をやる必要があったんだ?
・・・しまった!正直悔しい
このネタはお約束で、常連になればツッコミできるくだりだったのか。私が店に入った瞬間に試されていた。
もう一度チャンスが欲しいから、また来ようと思わせる。このマーケティング手法はうちの会社でも取り入れるべきだ。
店長は私の葛藤を気にするわけでもなく、大きな中華鍋をリズムよく振っている。
「チャーハン お待ち」
これだ・・私の求めているチャーハンは。米粒はパサパサなのだが、表面はしっとりと油で濡れている。
ネギやチャーシューも程よい大きさで、咬むと肉汁と共に甘い香りがする。具材の味が米粒にしっかり染み込んでおり、口の中で心地よくほどけていく。中華鍋で大火力を操る技術が無いとないとこの味は出ない。
これはラーメンも期待できそうだ
「大将 中華そばもお願いできるかな」
「中華そばね アイヨー」
中華料理店のラーメンは醤油味しかない。竜の模様の描かれたラーメン鉢に定番の具材、黄金色の澄み切ったスープ。あっさりで毎日食べれる味だ。
トッピングや麺の硬さなどは指示しなくても、店主が一番うまい方法で作ってくれる。味のベースがぶれていないのでチャーハンとの相性は抜群だ。
店のTVでは野球のナイター中継が流れていた。
誰に気を使うことも、何かに気を取られることも無い。心地よい空間と味が提供されている。仕事の鬱憤も忘れて夢中で食べ続けた。
途中で店主の奥さんらしい人が買い物袋をぶら下げて帰って来た
「あら、お客さん いらっしゃい」
店主と奥さん子供の顔がクローンの様に同じだ。この細部に至る統一感へのこだわりは素晴らしい。
「ごちそうさん」
「またおこしください」店主と奥さんが笑顔で答えてくれた。子供は店のラッキョウをかじっていた。
美味かった。次は家族で「エビチリ」「餃子」でラーメンを食べてみよう。
昭和時代は家族で行ける飲食店は限られていた
デパートの屋上のレストラン(洋食)
中華料理店(中華)
旅館、ホテルの刺身や寿司(日本食)
ちびっ子が初めて本格的な食文化を学べる外食でのファーストコンタクトは重要だ。家族が揃ってくつろげる空間で食事を出来たかで、その後の好き嫌いが決まってしまうと言っても過言ではない。
子供の頃に中華料理店に行くのはごちそうだった。少し小奇麗な服を着せてもらって家族でお出かけだ。
入る前に食品サンプルを眺めて何を食べようかと迷ったり、目の前で鮮やかな食材が中華鍋で踊っている様子に見とれたり、親の食べている料理をつまみ食いして大人の味を憶えたりするのも楽しい。
中華料理店の小さいテーブルで、親と一緒にワクワクしながら「ラーメン」の基礎を学ぶ。
昔は子供が寿司屋に行くには敷居が高かったが、回転ずしのおかげで、小さい子供でも寿司を楽しむことができる様になる。
しかし、ラーメンだけは違う進化をしてしまった。
雨後の竹の子の様にラーメン専門店が乱立し、油まみれのギトギトスープ、頑固やこだわりと称した謎のルール、黒装束の従業員の威圧感、回転率重視で家族や子供を排除するようになっていった。
令和のラーメン専門店の特徴
(1)黒Tシャツに白タオル
私はラーメン屋での黒い服装は汚らしい、いかにも素人としか感じない。現に黒い服装は汚れても目立たないためだ。
雑誌の紹介記事で、黒いTシャツに白タオルを巻いて腕組みをして睨んでいる写真が貼ってあり、「頑固」「妥協のないこだわり」「愚直に一生懸命」などのキャッチフレーズが並んでいる。
洋食店、華料理店、寿司屋の料理人は白いコックコートが基本で、黒いコックコートを着ている人はいない。
何年か前にラーメン屋に入った時、黒ずくめでヤギ髭を生やしている店長が出てきたので、すぐに出て行った。
店は小綺麗にしていたが、料理人が不潔感を漂わせる店では食べる気が起こらない。 衛生面の疑念をお客に抱かせたらダメだ。頑固よりも安全に食べられることが最も重要のはずだ。
(2)面倒くさい店がある
頑固なラーメン店では謎ルールがあり、守らないものは即退場となってしまう
<頑固なラーメン屋の謎ルール>
一口目はスープを飲まないと退場
携帯電話をいじると退場
先に水を飲むと退場 ・私語で退場
トッピングの注文を間違えると退場
子供は入店禁止 ・スープも飲み干せ
15分以上は強制退場
初見殺しで、知らないと店主から怒鳴られた挙句、チャーハン顔の常連たちから鼻で笑われ、強制退場させられる。
店内は常に高菜のようにピリピリしており、初めて入った客は怯えながら食べるしかない。
お客側からすれば不条理ルールではあるが、店側にとっては合理的なルールである。 「俺様が作ったラーメンを有難く頂戴しろ、食ったらサッサと返れ」ということだろう。
(3)みつを文字が情報過多で疲れる
私は店内の壁やメニューにみつを文字が目に入ると、情報過多で目と頭が疲れてしまう。みつを文学は短文で味があるのに、ラーメン屋のみつを文字のウンチクは長い上に読みにくい。
内容は様々だが、文字数に反比例してラーメンの味はそれほどでもないことが多い。まともに読んでいる人はいるのだろうか?
代々の味や秘伝の味など、いかにも歴史と伝統があるウンチクが多いが、日本のラーメンの歴史はそんなに深いものなのか?
頑固は勝手に名乗っても良いが、ラーメン専門店に至っては老舗でも30~40年程度で秘伝や伝統の味と名乗れるのは1割にも満たないだろう。
(4)ラーメンの種類とトッピングが多すぎて中途半端
豚骨、塩、醤油、味噌、つけ麺、牛骨など、魚粉など、ラーメンの種類が多い店は何を注文すればよいのか迷ってしまう。
「おすすめは何ですか?」と聞こうものなら「オラァ!うちは全ておすすめだ!ゴリャ!」と怒鳴られそうだ。
ラーメンの種類と味は反比例することが多く、結局はどれを選んでも中途半端な味で出てくる。
そのため、麺の硬さ、麺の種類、トッピングもいちいち選んで、卓上にある胡椒、高菜、キムチ、ラーメンダシ、辛子味噌で味を調整しないと満足できるものにならない。
自由度は高いと言えるが、未完成なラーメンを出していると思う。味付けは任せているので、不味いのはお客の責任だとしている気がしてならない。
(5)味が濃い、油でギトギト
令和のラーメンは、昭和のラーメンよりも味が濃くなってきている。更に味付けとして背油、ニンニク、ラード、ラー油などの香辛料も付いてくる。私は特に「おでん」のような味が濃いラーメンは苦手だ。
数分経つと油が凝固していき、箸が立ってしまうようなラーメンもある。
どう考えても体に悪いだろう。子供には食べさせたくない。美味しいかもしれないが、一度食べたらやみつきではなく、3ヶ月以上は行きたくない。
(6)店の雰囲気が世紀末
私は正直、何と戦っているのかわからない。 入店すると「イ、イラっマセーーセェェェ!イッツヒィ~~~!」怒鳴り声のような挨拶。
何かの罰を受けているのか、黙々と食べ続けているお客。 店主は厨房で腕組みをしながらお客を監視して、従業員を大声で叱咤する。
<近所の商店街に鴨南蛮そばの店があった>
鴨南蛮は美味しく、天ぷらの味も絶品ではあったが、鴨南蛮そば1杯で1000円の強気の価格設定が裏目に出て1年で潰れてしまった。
その後1年程度は空き店舗になっていたが、暫くして「味噌ラーメン」のド派手なラーメン屋ができた。
店の前には炎?のオブジェがあり、「こだわりぬいた素材」「~ランキング」みつを文字だらけの張り紙が何枚も貼られていた。
一度は食べてみようと入店すると、あの鴨南蛮そばの店主が黒Tシャツ、白タオルで「いらっじぁいいー」と出迎えて驚いた。
店主は私の顔は覚えていないようであったが、味噌ラーメンを食べている時にどうしても抑えきれずに「店主の天ぷら美味しかったよ。また食べたいな」と声を掛けると、「うちは味噌しかやってないんで!」と怒鳴られてしまった。
ケチを付けるつもりで言ったわけでは無いのに、何か悲しくなった。そそくさと食べて会計を終わらせて店を出た。もう2度と行かないだろうと、後ろを振り返ると「営業中」の看板が「只今勝負中」になっていた。
令和美味しいラーメン屋とは?
私の独断と偏見なのだが、以下の条件に当てはまるラーメン屋は美味しいかった経験がある
チャーハンが美味しい
黒衣装ではない
みつお文字を多用していない
ラーメンの種類が少ない
面倒くさいルールがない
店が10年以上続いている
ゴルゴ13が置いてある
令和で家族でラーメンを食べにいくなら
今流行りのラーメン専門店が悪いというわけでは無い。変化の無いところには進化も無い。ラーメンの味も格段に良くなっており、私が若く独身なら喜んで食べに行ったと思う。
しかし、家族ができてからは「何を食べるか」より、「誰と食べるか」「みんなで食べて楽しい所」を優先的に考える様になった。
ラーメンだけを食べるだけなら、インスタント、冷凍ラーメンで良い。
しかし、子供にも私が小さかった頃と同じように、ワクワクしながらラーメンを食べてほしい。今は昔のような楽しみ方ができないのだろうか?
ショッピングモールのフードコート一択
ショッピングモールのフードコートには、有名な飲食店のテナントが入っている。ラーメン、洋食、うどん、ハンバーガー等どれを選ぶか迷ってしまう夢のような場所だ。
関西では「神座」や「長崎ちゃんぽん」「天下一品」を家族でゆっくりと食べることができる。ラーメンだけでなく他のテナントに行けばタコ焼き、ハンバーガー等のサイドメニューやデザートが有名店の味で楽しめる。
フードコートは広い敷地で子供の用の椅子も用意されており、場所によってはソファ席でゆっくりと食事をすることも可能だ。
昭和時代、小奇麗な服を着て中華料理やデパートのレストランに行くあの感覚。まさに食のアミューズメントパークである。
これからのラーメン店の展望
ラーメンが好きだからこそ、これからのラーメン店に期待すること
1)ラーメン店をセルフ式にする
丸亀製麺がセルフ式でも大勢のお客さんで賑わっている。ラーメン専門店が回転率にこだわるのなら、セルフ式にすれば良いと思う。
細かいトッピングを客が自由に選べるなら従業員の数も減らせるし、お客が食べきれないで残すこともなくなるだろう。
2)脱コッテリ、ヘルシー志向にする
少子高齢化が進む中、コッテリ系のラーメンは先細ってくる。
これからは若い人向けだけではなく、ご高齢の方や糖尿病や高血圧に悩んでいる人、ダイエット中の人にでも食べれるようなラーメンの需要が高まってくる
経済産業省が目指す「カーボンニュートラル」と同様に、脱コッテリ社会の実現を目指すべきだ
例えば2050年度迄、令和ラーメンにおける「コッテリニュートラル」の工程表として以下が望ましい
こんやく麺、カロリーOFF麺導入の義務化
にんじん、青汁、かぼちゃ等を練り込んだヘルシー野菜麺を採用
スープの透明度は50%以上、総カロリーは500cal以下とする
化学調味料は10g以下にする
みつお文字の50%削減
黒装束廃止、但し、白黒のゼブラ柄は可
「ゴルゴ13」から「ミナミの帝王」への置き換え