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1ヶ月って思ってたより長い


カタカタカタカタカタ…

20××年2月14日_

今日もいつもと何ら変化のない平日だ。

…俺にとっては。


そう、ただの平日!

客観的に見てモテなさそうで、実際モテないただのサラリーマンにとって、

お菓子会社がチョコレート市場を盛り上げるために作った乙女向けイベント
※諸説あります(?)

に過ぎない。

クリスマスもおひとり様として有意義に過ごした俺には全く縁遠いイベントだ。

つまり、チョコをくれる当てもない俺の今日のミッションはそう!

如何に平静を装うか!!

よし、冷静になれ、俺。
今のところおかしな動きはしていないはずだ…。

カタカタカタカタカタ…

ガサガサッ

カタカタカタカタカタ…


隣の席で同期の長江和子がパソコンから目を離さないままアーモンドチョコを摘んでいる。

キーボードの音とアーモンドチョコの箱を開けたらチョコの上面に乗ってるアレがガサガサいっている音が響く。

というより耳につく。
耳につくなぁ、おい。

和子が仕事をしながらアーモンドチョコを食べるのはいつもの事。
なのに、なんだこれ、耳につくぞ。

ほしいのか?
俺、ほしいのか?
今日がそういう日だからか?
期待してんのか?

いやいやいや、まてまてまて、
てか甘いもの好きじゃないし、
昼食ったばっかりで腹減ってないし、
ただのコンビニで売ってるアーモンドチョコだし、
和子だし。

てか俺!
恥ずかしいすぎるだろ、
何この脳内ナレーションみたいなやつ、
こんなこと考えてるのバレたら
恥ずかしいことこの上ないよね?


「ん。」

和子がいつものように
俺には一瞥もくれずアーモンドチョコを箱ごと差し出してきた。

そう、これはいつものこと、いつもの…

「…っお、あ、ありがとう。」
「え、なにそのリアクション?
バレンタインだからって意識しちゃった?」

そう言いながら和子は
相変わらず俺に一瞥もくれないまま
からかうように笑う。

「…いつもこんなもんだろ。」
「そんなことないわよ。いつものあんたは、こう。『おっ、サンキュー!』」
「今ちょっとモノマネ入れただろ。」
「似てたでしょ?」
「全っ然似てねー。」

「そういうお前はどうなんだよ。」
「何が?」
「本命。渡す相手いるのかよ。」
「私、興味ないのよ、そういうの。」
「お、モテないからって見栄はらなくてもいいんじゃないですか〜?」
ここぞとばかりに、ニヤついてやった。

「余計なお世話!いやでもモテないのは事実…。27歳でこんなことに悩んでるなんて10代の頃は想像してなかったわ…。やっぱ名前のせいだと思わない?絶対そう!平成生まれで和子って!!!」

お喋り和子モードが走り出してしまった…。
こうなるともう俺には追いつけない停められない。

「ギリギリ平成な。」
「ギリギリだろうと平成生まれは平成生まれよ!だって和子って身近で被ったことないし!クラスに『かな』とか『かほ』とかいっぱいいたけど、」
「いたな。」
「和子は1度も出会ったことない!同世代で!」
「まあまあ、モテないのを親のせいにする前に、チョコ渡す相手探したらどうだ?」

「いいの、私は普段から気持ちを形にしてるから。ほら。」
そう言って俺と和子の間に置いてあるアーモンドチョコの箱を「ほれ、もう一個食え」って感じで指さしている。

「そりゃどうも。」

俺は和子の方を見れなかった。


…18:00。
和子が身支度をはじめた。
カバンの隙間にホワイトチョコが見えた。
ふと、昔のことを思い出した。


確か、入社当初。
「ん。たべる?」
そう言って和子が差し出してきたのはホワイトチョコだ。
「ん〜甘いのは、ちょっとなあ。」
「えー!おいしいのに。じゃあこっちは?」
「アーモンドなら、いただこっかな。」




和子が身支度を終えて席を立った。

「和子、もしかして、」
「あ、ごめん、聞こえなかった。なに?」
「いや…、なんでもない。」
「なにそれ。じゃあ、お先〜。」
「おう、…お疲れ。」


3月14日。
俺はコンビニのチョココーナーの前に立っていた。
そう、ホワイトチョコの目の前に。


続…?

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