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俳句 ブギウギ 十一月

競り市場軍歌流るる師走かな
冬の虹スポットライトタップの音
役割や目立ちたがりの冬最中
冬の風睫毛の長く歌の揺れ
芸磨く周りを変えて冬めく日

ブラボーや年の名残の金モール
お座敷の冬至の踊友の待ち
焼き鳥屋ビールの暖簾かき分けて
もう見れぬ母の歓び年の暮れ
末の冬信じられぬことありとは

お別れ会遺す乳飲み子抱き冬至
玄関に喪服脱ぎ置き年の暮れ
栓抜くも泡のたたない年暮るる
年歩む育てたように子は育ち
寒がはり別れ公演つけまつげ

心地よき春暖の銭湯のタイル
春動く窓の額縁富士の山
春まけて早口の部屋案内ぞ
箸の出ぬ東京おでん黒々と
春の夜の朝待ちきれぬせっせっせ

下宿から曲がれば広し風光る
春疾風新人を待ち会議室
夏近し期待の溢る顔合わせ
春霞自己紹介の目は虚ろ
とっかかりおでんは竹輪選ぶ癖

五月来る練習室のピアノ鳴り
楽しさとジャズ説くリズム夏立つ日
光りさす初夏の踊り場チョコレート
夏きざす恋はチョコ味キスの味
ガード下月の明かりの唄さらい

(スリーツーワン)
321卯月の稽古繰り返し
愉しいか君のその唄夏近し
歌え今きみはきみをと夏始
若夏や歌のレッスン家族飯
あいの手と歌ふ通い路夏の宵

春の風歩きつ唄ふ稽古室
君作り君の舞台の春の服
花吹雪拍手が揺らしつけまつげ
番台の主の伏して芽吹く朝
春デビュー振舞寿司の父誇り

春の宵出待ちの群の揺れ揺れて
堅雪や黙し女王のライバル視
飯食わず窓に腰掛け春の月
唯一のおでこのキッス桜散る
春兆す紅茶の添えの内緒ごと

引き抜きの好条件や春ショール
春帽子返事は三日悩む日々
義理と恋おでんは熱し息見えず
認めらる甲種合格春景色
板挟み春外套の天気地図

噛み飲めば契約破棄の夏の陣
二階から飛び降る覚悟麦畑
妻有る身別れブルース聴かす初夏
どさくさの告白空し土用前
紗のドレス浮かれ幼稚の身の曝し
新曲の出来て二人の夏始

若緑陽気なリズム五線譜へ
散る桜鏡のきみと決む別れ
弓張月物干し台の歌ひ初め
大阪へおでん大盛り別れ唄
桜散る屋台の二人騒ぎたて

春今宵娘へ便り短くて
朧夜の新聞記事のエピソード
オンシジューム弟子賑やかな春の宵
眠られず春にも一度せっせっせ
春暁や汽車のリズムのタップ踏み
君は西舞台成功花月夜

戦争の影押し寄せて下冬の夜
寒前や目立たず目立ち濃き化粧/222
ジャズが好き秋夜の紅茶の渋さよ
番台の母の代りの年の暮
赤紙に認めらる冬の夕焼け

栗の毬母に差し出し枕元
云ひ淀む秋の窓辺の医師の言
野の錦肩の筋肉子は育つ
金木犀万歳の声床の母
街灯や十夜の小路弟のゐて

久方の二人の夕餉今年米
秋の果ここへ戻れぬ赤紙ぞ
そぞろ寒む出征前夜死の恐怖
朝冷や永遠に会えぬと姿消ゆ
母逝くや舞台つとめて秋の夜

駆け付けぬ夜汽車の揺れに秋の朝
今生の頬触れ合ひて秋夕日
桃喰えば今はの際の一働き
ギャラ高し枕辺の唄夕月夜
透き通り母の見送り野辺の花
秋の夜の唄聞き終へて天の星

秋深し骨壺の妻賑やかに
湯気立たぬ銭湯の水秋の色
母の絵の結ぶ再会秋の晴
妻のゐぬ番台寂し秋の雛
逝く秋や難波を後に東京へ

スタンドの暗し机に夏始
フォトフレーム浴衣の妻の笑顔拭き
サマードレス三尺四方の唄踊り
汗拭ひ二度と漬けれぬつけまつげ
夏服の髭厳めしく揺るぎなき

梅雨じめり囲みの中の歌歌う
封切れば北の大地の夏の風
ついり前青いドレスの戦闘服
付け睫毛鏡の映す半夏生
田舎出の弟子志願の娘梅雨に入る

雨戸開くステテコの皺浮きて朝
芒種の節赤紙届け隣席
薔薇かをる褌畳み出ていきぬ
暮の夏だんだん減りぬ客の足
父の日の母偲ぶ父大欠伸

朝凪や二階の家賃値上げへと
幼子と双六巡り夏戦地
汗臭う残る珈琲流行り歌
楽団の解散言葉夏終わる
唄うこと止める止めない水澄

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