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俳句手帖にある季語で一句 2月

初春(しょしゅん)   我一人初春の海へ漕ぎださぬ
二月(にがつ)     二月には父は帰るか空いた席
二月早(にがつはや)  二月早旅に出る夢二度も見る
睦月(むつき)     寒さ溶け睦月に生まれこの名前
旧正月(きゅうしょうがつ) 旧正月着るものだけは出し揃え
節分(せつぶん)    節分や鬼女房の手へ豆を
寒明(かんあけ)    寒明を待ちて兎もひとまわり
寒終る(かんおわる)  寒終わる知らせなくとも出る畑
寒過ぎる(かんすぎる) 寒過ぎるいよいよ硬し霰餅
立春(りっしゅん)   立春を過ぎたら着るスプリングコート
春立つ(はるたつ)   カーテンを突き抜け照らす春立つ日
早春(そうしゅん)   早春に立つ帆柱や波静か
春浅し(はるあさし)  春浅し日差しを受けて染物屋
春早し(はるはやし)  春早し桶屋の土間は静かなり
春淡し(はるあわし)  春淡し草の上立つ我が庵
冴返る(さえかえる)  冴返る女医急ぎいる手術室
寒戻る(かんもどる)  寒戻る変換キーを再度打つ
凍返る(いてかえる)  凍返る納豆ごはんかき混ぜて
余寒(よかん)     留守電や胃全摘報告余寒かな
残る寒さ(のこるさむさ) 玄関や残る寒さに振るう朝
春寒(はるさむ)    春寒やジャスミン茶どつと淹れ
春遅し(はるおそし)  春遅し鯉が背鰭をくねらせし
春めく(はるめく)   春めく朝玄関に置く手袋ぞ
春動く(はるうごく)  頬紅を目尻に少し春動く
春きざす(はるきざす) 春きざす博物館の聯を問う
魚氷に上る(うおひにのぼる) 魚氷に上る郷土俳人個人展
雨水(うすい)     中田島風紋も消す雨水かな
二月尽(にがつじん)  あの笑窪あの歌手も逝く二月尽
二月果つ(にがつはつ) 最果ての写真が届く二月果つ
春時雨(はるしぐれ)  蛇の目傘どこか温きや春時雨
春の星(はるのほし)  子を送る子も見るだろう春の星
春の雪(はるのゆき)  ふわり舞うすぐに溶けぬか春の雪
春吹雪(はるふぶき)  けふも降る麦の畑に春吹雪
淡雪(あわゆき)    淡雪やあなたの地ではやさしかろ
牡丹雪(ぼたんゆき)  牡丹雪跳ねてよろこぶ初赴任
涅槃雪(ねはんゆき)  走りゆく列車の窓へ涅槃雪
春の霙(はるのみぞれ) 厳寒にふりこむ春の霙かな
春の霰(はるのあられ) 干す霰春の霰ぞ仕打がに
霞(かすみ)      富士山はけふも霞て山向こう
朝霞(あさがすみ)   朝霞白髪に杖の表れて
夕霞(ゆうがすみ)   ちさき犬メタボの祖母と夕霞
焼野(やけの)     舞いおりる灰も落ち着き焼野かな
焼原(やけはら)    焔なく焼原広くなりにけり
末黒(すぐろ)     風巻きぬ想定外が末黒なり
末黒野(すぐろの)   末黒野や薪の針金輪の形
水の春(みずのはる)  水盤へコップ一杯春の水
堅雪(かたゆき)    下駄の歯をかんと返すや雪堅し
雪泥(ゆきどろ)    雪泥を避けて通れぬ道の幅
薄氷(うすらい)    薄氷の漂う池を鳥の発つ
残る氷(のこるこおり) 吹く風や残る氷を押しにけり
春の氷(はるのこおり) 手で遊ぶ春の氷や薄きかな
春袷(はるあわせ)   浮き心裾も軽きや春袷
蕗味噌(ふきみそ)   蕗味噌や甘味加えし黒し指
木の芽和(きのめあえ) 誂えし器に盛るや木の芽和
木の芽味噌(きのめみそ) 酢を利かせ香り引き立つ木の芽味噌
山椒味噌(さんしょうみそ) 山椒味噌灯りの下にたつ緑
山椒和(さんしょうあえ) 山椒和終の棲家の夕餉かな
若布和(わかめあえ)  潮の香や蛸も喜ぶ若布和
田螺和(たにしあえ)  田を探り今夜のおかず若布和
蜆汁(しじみじる)   殻積もる閉じるものあり蜆汁
蜆採(しじみとり)   二俣の流れ静かな蜆採
蜆舟(しじみぶね)   天竜川帆揚げて上る蜆舟
青饅(あおぬた)    籠を見せ今夜の膳は青饅よ
鮒膾(ふななます)   川舟や瀬に乗り上げて鮒膾
胡葱膾(あさつきなます) 皮硬し胡葱膾知る虫歯
目刺(めざし)     七輪をだして遠火で目刺焼く
白子干(しらすぼし)  白子干けふは無いのと問うは妻
鶯餅(うぐいすもち)  鶯餅白あんが合ふ色と味
菜飯(なめし)     障子開け菜飯が自慢庄屋跡
白魚捕(しらおとり)  凪の朝軋む間隔白魚捕
白魚舟(しらおぶね)  日の出を背次々帰る白魚舟
白魚飯(しらおめし)  湯気挙げる茶碗一杯白魚飯
白魚鍋(しらおなべ)  ふるさとの潮の香偲ぶ白魚鍋
味噌豆煮る(みそまめにる) 音もなく味噌豆を煮る一斗釜
味噌玉(みそだま)   べちゃべちゃと味噌玉造る話好き
野焼(のやき)     雪ふれば野焼のトーチ戻しけり
野火(のび)      大室山黒く染まりて野火のあと
草焼く(くさやく)   山頂に黒し煙や草焼く日
丘焼く(おかやく)   丘焼くや長き棒持ち勢揃ひ
山焼く(やまやく)   おだやかに山焼く煙頂へ
山火(やまび)     奈良に来て花火で知るやけふ山火
畑焼く(はたやく)   畑焼くや運転席にむせる顔
畦焼く(あぜやく)   畦焼くやあらぬ方向火を追ひて
畦火(あぜび)     眺むれば黒縁続く畦火あと
芝焼く(しばやく)   父歩む芝焼くトーチごーごーと
芝火(しばび)     段ボール持てど滑れぬ芝火あと
麦踏(むぎふみ)    麦踏や左から右冷える頬
耕(たがやし)     耕やエンジン臭き耕運機
耕人(こうじん)    耕人や牛のうんこを踏みつけて
藍蒔く(あいまく)   風止みて藍蒔くせなに陽はぬくし
藍植う(あいうう) もくもくと藍植う男進みゆく
慈姑掘る(くわいほる) 慈姑掘る泥にまみれた太い指
若布刈る(わかめかる) 揺れる舟リズム合わせて若布刈る
若布刈竿(めかりざお) 若布刈竿探り当てたる根は太き
若布干す(わかめほす) 輸送船眺めてけふも若布干す
若布刈舟(めかりぶね) 網寄せる妻は操る若布刈舟
海苔掻(のりかき)   海苔掻や波の来襲背中の目
海苔粗朶(のりそだ)  干潮の海苔粗朶が碧いやまして
海苔簀(のりす)    陽を浴びて日長一日海苔簀干す
海苔舟(のりぶね)   海苔舟や櫓が音重く帰りきぬ
海苔干す(のりほす)  風が来る海苔干す浜が忙しく
海苔拾(のりひろい)  海苔拾赤く染めたる白い腕
鹿尾菜採(ひじきとり) 鎌を手に足に波寄席せ鹿尾菜採
石蓴採(あおさとり)  エンジン音ブラシが廻る石蓴採
魞挿す(えりさす)   鳥は見る魞挿す湖へ着水
磯竃(いそがま)    囲われて磯窯待つや浜女
磯焚火(いそたきび)  サーファーや浜女のごとし磯焚火
梅見(うめみ)     耐えかねて梅見の頃と口出して
観梅(かんばい)    寒梅と行けど梅園更地なり
梅見茶屋(うめみぢゃや) 最盛期ジャム漬物と梅見茶屋
春スキー(はるすきー) 連れだせりマドンナ隣り春スキー
凧(たこ)       凧はゆく糸従えて安房の国
鶯笛(うぐいすぶえ)  唄いきる鶯笛か枝は枯れ
雲雀笛(ひばりぶえ)  湿原を越して聞こゆや雲雀笛
入学試験(にゅうがくしけん) いつせいに入学試験捲る音
受験子(じゅけんし)  受検子に言いてはならぬ禁句とけ
大試験(だいしけん)  暁の門を目指して大試験
バレンタインデー    手に持ちしバレンタインデー入門書
追儺(ついな)     恐れつつ追儺が列を追うは子ら
豆撒(まめまき)    豆撒きや膨らむ袋子ら抱え
柊挿す(ひいらぎさす) 棘棘の庭の柊挿すは母
建国記念の日(けんこくきねんのひ) 建国記念の日素直に祝ふいつのこと
建国祭(けんこくさい) 日の丸や神社は揚げる建国祭
絵踏(ふみえ)     浮気ばれ絵踏代わりがスマホなり
初午(はつうま)    初午や思い出す味稲荷寿し
一の午(いちのうま)  稲荷屋へ行列長し一の午
二の午(にのうま)   二の午や闇が境内白く咲く
三の午(さんのうま)  三の午テントばたつく出店だけ
二月礼者(にがつれいじゃ) 酒粕を匂はせ二月礼者かな
針供養(はりくよう)  洋裁学校けふは喋らず針供養
針祭(はりまつり)   まつしろき豆腐の角や針祭
針納(はりおさめ)   風吹けど揺れぬ豆腐へ針納
菜種御供(なたねごく) 稚児の列画像の記憶菜種御供
祈年祭(きねんさい)  御簾揺らす風も柔らか祈年祭
春祭(はるまつり)   皺と滲み幟があがる春祭
摩耶詣(まやもうで)  この馬と今年が最後摩耶詣
涅槃会(ねはんえ)   涅槃会や声掛け静か庫裏準備
涅槃像(ねはんぞう)  目尻より雫が跡や涅槃像
涅槃図(ねはんず)   レーザーポインター涅槃図指すや僧がいて
涅槃寺(ねはんでら)  鬼瓦倒れしままの涅槃寺
梵天(ぼんてん)    梵天や先を競いて鳥居ぬけ
良寛忌(りょうかんき) 手鞠つく直す参道良寛忌
夕霧忌(ゆうぎりき)  三味線の流るる小路夕霧忌
実朝忌(さねともき)  大銀杏今は葉も無き実朝忌
かの子忌(かのこき)  かの子忌や華やぎし頃思い出す
鳴雪忌(めいせつき)  この年で迷い惑わさる鳴雪忌
多喜二忌(たきじき)  シベリアより舟を背にして多喜二の忌
茂吉忌(もきちき)   鳥海山裾野も白き茂吉の忌
逍遥忌(しょうようき) 雲なくて雪がちらちら逍遥忌
猫の恋(ねこのこい)  表から裏へと回り猫の恋
浮かれ猫(うかれねこ) よろけまい塀の幅視る浮かれ猫
孕み猫(はらみねこ)  身重でも身軽に跳びて孕み猫
鱵(さより)      焼きすぎず皮ごと喰らふ鱵かな
白魚(しらうお)    皿に盛る白魚よりも惚れた指
公魚(わかさぎ)    公魚や釣り糸避けて群れ泳ぐ
飯蛸(いいだこ)    飯蛸や蒸されて赤し日間賀島
蜷(にな)       橋の下砂利の数より蜷の数
蜆(しじみ)      おそれつつ買ひし蜆を味噌汁へ
大蜆(おおしじみ)   大蜆バカ貝の子と戻されて
田螺(たにし)     俯きて雲風もなき田螺捕り
梅(うめ)       闇道や梅ほころびて道が見え
野梅(やばい)     主いぬ野梅となりぬ栄華あと
飛梅(とびうめ)    飛梅の宮からお札宅配で
白梅(しろうめ)    白梅を散らすこの風清しかな
紅梅(こうばい)    紅梅や荒む園咲くただ一つ
里の梅(さとのうめ)  峠越し一本咲けり里の梅
盆梅(ぼんばい)    盆梅を飾るすきまが文机
梅が香(うめがか)   マスクとる闇の小路に梅が香よ
梅林(ばいりん)    香が誘う梅林散歩緩くなり
牡丹の芽(ぼたんのめ) 冷える日々未だ出らず牡丹の芽
薔薇の芽(ばらのめ)  薔薇の芽を守るがごとし棘三つ
山茱萸の花(さんしゅのはな) 入口へ山茱萸の花が陣をとり
黄梅(おうばい)    黄梅と語る校長色忘れ
ミモザ         フラワーアレンジメント下にミモザを玄関へ
金縷梅(まんさく)   記事頼り金縷梅咲く地レンタカー
猫柳(ねこやなぎ)   戦争ごっこ草で隠すや猫柳
えのころやなぎ     管をまくえのころやなぎ芽吹く下
スノードロップ     スノードロップ一角を占め咲きにけり
クロッカス       石だらけ丈の短きクロッカス
ヒヤシンス       ガラス鉢根元ぼんやりヒヤシンス
風信子(ふうしんし)  美容室窓辺に並べ風信子
菠薐草(ほうれんそう) 和らぐ風菠薐草に鍬を母
如月菜(きさらぎな)  白粥やけふも入れたり如月菜
水菜(みずな)     歯ごたえて筋あり嫌ふ如月菜かな
京菜(きょうな)    京菜洗ふ母の手の色戻りけり
壬生菜(みぶな)    ざつくりと母の刃物や壬生菜かな
糸菜(いとな)     ふるさと市糸菜一束手にとりて
芥菜(からしな)    芥菜や湯気の中なり今出さぬ
三葉芹(みつばぜり)  ちょっと待って摘みて添えるは三葉芹
春菊(しゅんぎく)   春菊のかき玉うどん早きなり
山椒の芽(さんしょうのめ) 山椒の芽庭から摘まむひつまぶし
蕗の花(ふきのはな)  外の庭片隅に咲く蕗の花
春の蕗(はるのふき)  青々と地面を見せない春の蕗
蓬(よもぎ)      風を避け堤の下に蓬摘む
餅草(もちぐさ)    陽の下で餅草を摘むこの場所で
雀の帷子(すずめのかたびら) 雀の帷子縛りて罠に遠きこと
片栗の花(かたくりのはな) 木漏れ日や片栗の花一面に
春椎茸(はるしいたけ) ずる休み春椎茸を持ってきて
若布(わかめ)     潮の香や若布を配る冷える朝
鳴門若布(なるとわかめ)  水ぬるむ鳴門若布はしがみつき
出雲若布(いずもわかめ) 乾いても出雲若布や姿なす
搗布(かじめ)     べちゃくちゃと搗布並べる浜の朝
黒布(くろめ)     箱メガネ鎌で一息黒布浮き
鹿尾菜(ひじき)    掻きまわす豆腐に潜る鹿尾菜和え
海雲(もずく) 黒酢あえトンガの海雲青き海
石蓴(あおさ) 刈る石蓴跳び乗る岩に波を見て
海苔(のり) エンジン音海苔摘み舟や大山盛
流れ海苔(ながれのり) 波をやり跳びつく岩の流れ海苔
篊海苔(ひびのり) 篊海苔や風に揺れ待つ満る潮
岩海苔(いわのり) 岩海苔掻く浜の女が黙し時
青海苔(あおのり) 青海苔やまみれた網をまくり上げ
海髪(うご) 陽が昇る波の音静か海髪を干す

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