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俳句手帖にある季語で一句 3月

春(はる)       朝日受け春のスカート回り見せ
陽春(ようしゅん)   陽春や肥え桶担ぐ夫婦棒
仲春(ちゅうしゅん)  仲春やスマホにはひる吾子の頬
春なかば(はるなかば) 啼く鳥やはぐれ雲行く春なかば
三月(さんがつ)    三月や机を整理新ノート
如月(きさらぎ)旧暦二月 如月の笠追ひ越して雪は舞ふ
啓蟄(けいちつ)    啓蟄は既に過ぎしか木々目覚め
春分(しゅんぶん)   春分を迎ふ観音テント建つ
彼岸(ひがん)     お彼岸の水掛不動あたる杓
春の日(はるのひ)   春の日や落慶まぢか新瓦
朧月夜(おぼろづきよ) 想い出す朧月夜の別れ道
暖か(あたたか)    懐も暖かけふだけ散財
木の芽時(このめどき) すさむ顔やはりあの人木の芽時
芽立時(めだちどき)  天仰ぐ雲の形も芽立時
木の芽風(このめかぜ) 山の音谷の向こうの木の芽風
木の芽晴(このめばれ) 機織りのリズム途絶えぬ木の芽晴
三月尽(さんがつじん) 旅鞄コロナが制す三月尽
春日和(はるびより)  道行けば同級生が春日和
春光(しゅんこう)   春光や背広新し迎え門
春の色(はるのいろ)  磨崖仏頬を染めたる春の色
春三月(はるさんがつ) 春三月忠霊塔に光さす
朧月(おぼろづき)   一ツ家へ目指す五叉路朧月
東風(こち)      飛びたくも都は無理だ東風の風
貝寄風(かいよせ)   一円が貝寄風に舞う浜の店
涅槃西風(ねはんにし) 涅槃西風吹けばそのまま足袋の孔
彼岸西風(ひがんにし) 揺るお面テントおさえる彼岸西風
比良八荒(ひらはっこう) 比良八荒小舟は騒ぐ巻き結び
春一番(はるいちばん) 春一番おでこ雨粒彼女来て
春疾風(はるはやて)  春疾風ネクタイ肩へペダル踏む
春北風(はるきた)   春北風や札はばたばた準備中
春雨(はるさめ)    番傘や春雨が粋開く音
雪の果(ゆきのはて)  雪の果括られし山羊の一啼き
斑雪(はだれゆき)   斑雪水琴窟の音となり
春の雹(はるのひょう) 打つ音の硬いリズムや春の雹
春の霜(はるのしも)  春の霜振り上げる鍬濡れるかな
春の雷(はるのらい)  囲炉裏火の消えゆく時の春の雷(
虫出しの雷(むしだしのらい) なまけ癖虫出しの雷押し出さぬ
佐保姫(さおひめ)   佐保姫や扉開けば唐突に
霞の空(かすみのそら) 飛行機雲霞の空へ入り込み
霞の海(かすみのうみ) 水平線霞の海へ置き忘れ
昼霞(ひるがすみ)   道消える荒野横切る昼霞
遠霞(とおがすみ)   アルプスの雪が溶けあう遠霞
陽炎(かげろう)    遥か行く陽炎揺れる人も揺れ
糸遊(いとゆう)    糸遊や句碑たち並ぶ源長院
鳥曇(とりぐもり)   温き風羽ばたき試す鳥曇
鳥風(とりかぜ)    曇り空鳥風にのり一気消ゆ
春夕焼(はるゆうやけ) 孫とたつ春夕焼の遊園地
春の山(はるのやま)  訪ぬれば枯れ枝積り春の山
春嶺(しゅんれい)   春嶺の麓に一筋炭焼きて
山笑ふ(やまわらう)  山笑ふ人の笑ふも見るばかり
春の野(はるのの)   春の野のちさき花にも恵み来て
春郊(しゅんこう)   春郊の煙一筋三方原
春の水(はるのみず)  春の水流るる見れば音聞こゆ
水温む(みずぬるむ)  水温む絞る溜りがはねる音
春の川(はるのかわ)  陸揚げしボート一艇春の川
春江(しゅんこう)   春江や見あぐるビルの反射光
春の瀬(はるのせ)   春の瀬や根元現わる江戸の杭
春の海(はるのうみ)  峠道霞も消えて春の海
春の湖(はるのうみ)  春の湖波だけたてて浅利舟
春の磯(はるのいそ)  春の磯人の活気が鯛が舞う
春の波(はるのなみ)  砂に立つ新しボード春の波
春の潮()はるのしお)  春潮の伸び来る長さ中田島
彼岸潮(ひがんじお)  朝夕の砂浜の長き彼岸潮
春田(はるた) 陽を浴びて春田の畦を直したり
春の園(はるのその)  春の園モデルの指やてふ誘ふ
春の土(はるのつち)  振り上げる鍬入れ易き春の土
土匂ふ(つちにおう)  土匂ふ砂利道を行く新聞屋
春泥(しゅんでい)   春泥に記念が栞舞ひ落ちて
残雪(ざんせつ)    北の山残雪に似て去りし人
雪間(ゆきま)     うさぎ跳び足跡残す雪間かな
雪崩(なだれ)     返事待つ雪崩の音が響く胸
雪解(ゆきげ)     雪解して樹の情熱や描く円
雪解水(ゆきげみず)  砂利道やあくまで清し雪解水
雪解川(ゆきげがわ)  大雪を溶かして早し雪解川
雪しろ(ゆきしろ)   雪しろや湯気立ち昇る牛が尿
雪濁り(ゆきにごり)  雪濁り渡し場が跡杭の首
春出水(はるでみず)  春出水葦の葉先が消えゆかん
凍解(いてどけ)    凍解や強きスコップ掘り進み
氷解く(こおりとく)  氷解くまわりまわって友の家
氷消ゆ(こおりきゆ)  氷消ゆ水車まわるじわじわと
流氷(りゅうひょう)  消える流氷帰る父田が動く
春衣(はるごろも)   春衣合わせて靴も花の色
春コート(はるこーと) 春コート裏地花よと翻す
春ショール(はるしょーる) 春ショール風も吹かぬが抑える手
春セーター(はるせーたー) 春セーター胸の膨らみ眩しくて
春手袋(はるてぶくろ) 春手袋色鮮やかに取っ手かな
山葵漬(わさびづけ)  粕の香に隠れし辛さ山葵漬
木の芽漬(きのめづけ) 汲み交わす肴ふるさと木の芽漬
田楽(でんがく)    串に刺す厚き田楽香る味噌
木の芽田楽(きのめでんがく) 嫌だった木の芽田楽この香よき
子持膾(こもちなます) 土皿盛る子持膾が山の宿
蒸鰈(むしがれい)   蒸鰈ともに運ばん風の色
干鰈(ほしがれい)   罪も無き逆さ吊りなり干鰈
壺焼(つぼやき)    壺焼や煙にむせび炭を足す
焼栄螺(やきさざえ)  焼栄螺楊枝刺し出す味は肝
蕨餅(わらびもち)   蕨餅プルプル揺れる白磁皿
草餅(くさもち)    裏山や草餅搗けと伸び始む
菱餅(ひしもち)    ビニールで包まれ食えぬ菱餅よ
雛あられ(ひなあられ) 雛あられ豆撒き如く溢したり
白酒(しろざけ)    白酒を親父うまそう口寄せる
五加飯(うこぎめし)  炊き立ての釜に混ぜ込み五加飯
嫁菜飯(よめなめし)  ブザーなる鮮やかなあお嫁菜飯
枸杞飯(くこめし)   孫子守枸杞飯を炊く夕餉迄
春障子(はるしょうじ) 客みえるらんごくないと春障子
春の炉(はるのろ)   春の炉や影絵を揺らす小火かな
春炬燵(はるごたつ)  誰もゐぬ座敷占めたる春の炉
春暖炉(はるだんろ)  埃つく物置と化す春暖炉
北窓開く(きたまどひらく) コロナには北窓開く換気かな
雪囲とる(ゆきがこいとる) 物音や雪囲とる眩し朝
雪吊解く(ゆきつりとく) ニュースなく雪吊を解く時期知らず
農具市(のうぐいち)  人いきれ外はあれてる農具市
種売(たねうり)    種売場壁一面に花模様
物種蒔く(ものだねまく) 花種蒔く一歩進みて小さき穴
苗床(なえどこ)    苗床や触れれば崩れ振るいかけ
苗札(なえふだ)    達筆の花の苗札艶やかか
苗木市(なえきいち)  誘われて何も買わない苗木市
(かぼちゃまく)    ふわふわの床にあなあけ南瓜蒔く
桑植う(くわうう)   日曜の人手も多く桑植うる
剪定(せんてい)    闇雲な剪定技術なれのはて
接木(つぎき)     戯れに柿の木に桃を接木して
挿木(さしき)     多彩色増やす挿木やひとつ色
根分(ねわけ)     根分けせず庵の萩や自生なり
菊根分(きくねわけ)  咲きし日を思い描きて菊根分
萩根分(はぎねわけ)  萩根分筋肉痛が文机
牧開(まきびらき)   牧開一斉牛や駆けだして
桑解く(くわとく)   主ゐぬここはいつの日桑解くか
磯開(いそびらき)   あやし雲祝詞短く磯開
磯菜摘(いそなつみ)  灯台を見上げて続く磯菜摘
磯遊(いそあそび)   干潮と道具も持たず磯遊
木流し(きながし)   木流しの堰に響くや杣の声
初筏(はついかだ)   初筏巨岩の上も満開に
摘草(つみくさ)    泡白き摘草の手を染めにけり
蕨狩(わらびがり)   切通し捩り昇りて蕨狩
春の風邪(はるのかぜ) 濃厚接触避けねばならぬ春の風邪
落第(らくだい)    昔はいた落第生は今はゐぬ
卒業(そつぎょう)   いまはもう卒業をするものがない
春休(はるやすみ)   待ち望む吟行にゆく春休
進級(しんきゅう)   スタンプ押す祝進級と通信簿
春分の日(しゅんぶんのひ) 坊主行く春分の日はけさのまま
雛市(ひないち)    雛市や妻は全品立ち止まり
桃の節句(もものせっく) 桃の節句菱餅の味青い黴
雛祭(ひなまつり)   男だから庭から覘く雛祭
雛納め(ひなおさめ)  窓を開け午前にひとり雛納め
雛流し(ひなながし)  冷たいと水押しやりて雛流し
雁風呂(がんぶろ)   雁風呂や五右衛門を焚く星降る夜
春場所(はるばしょ)  マスクして春場所迎う桟敷席
三月場所(さんがつばしょ) 三月場所大取り組に客はゐず
若狭のお水送(わかさのおみずおくり)若狭のお水送火の粉が映る鵜の瀬から
修二会(しゅにえ)   商談すむ修二会の火の粉影の上
お水取(おみずとり)  大きな影廊下を走るお水取
彼岸会(ひがんえ)   富士山を彼岸会おえて僧眺む
遍路(へんろ)     受ける波ごろ石続く遍路道
西行忌(さいぎょうき) 温暖化花咲乱る西行忌
利休忌(りきゅうき)  花一輪壺にさしたる利休の忌
大石忌(おおいしき)  山科に花は咲いたか大石忌
犀星忌(さいせいき)  ぬくとさに蕾剥きだす犀星忌
春の鹿(はるのしか)  若草山草喰い尽くす春の鹿
蟇穴を出づ(ひきあなをいず) 蟇穴を出づ去年と世間は変わりなく
蛇穴を出づ(へびあなをいず) 蛇穴を出づ待つ子らおおき石を持つ
春の鳥(はるのとり)  谷を越え響く鳴き声春の鳥
雉(きじ)       飛び逃げる大きく広げ雉の羽根
雲雀(ひばり)     羽音立て雲雀上より威嚇かな
燕(つばめ)      短くも燕も浴びる水溜り
引鶴(ひずる)     山の上引鶴が群れ徐々に消え
白鳥帰る(はくちょうかえる) 白鳥帰る湖畔に残す羽根ひとつ
帰雁(きがん)     上過ぎる帰雁の足や後ろ指す
引鴨(ひきがも)    引鴨や子らの初旅風にのり
鳥雲に入る(とりくもにいる) 昼の鐘鳥雲に入る一羽ずつ
囀(さえずり)     草原の囀を上背が寒し
鳥の巣(とりのす)   鳥の巣を掛ける木々にも子らの名が
諸子(もろこ)     鮒よりも諸子を待ちて網の竿
桜貝(さくらがい)   海岸を捜し歩いて桜貝
地虫穴を出づ(じむしあなをいず) 地虫穴を出づ待ち構えしやコロナなり
初蝶(はつちょう)   初蝶や何処に仲間探し舞ふ
蝶生る(ちょううまる) まだ寒き緑が野原蝶生る
紋白蝶(もんしろちょう) 手を出せば紋白蝶が舞ひおりて
蜂(はち)       花畑恐れを知らす鉢もゐて
蜂の巣(はちのす)   蜂の巣や枝を切り詰め場所もなく
椿(つばき)      椿咲くフォークダンスが廻る昼
彼岸桜(ひがんざくら) まず先に彼岸桜や我ありと
辛夷(こぶし)     辛夷咲く隣りの庭も賑やかに
三椏の花(みつまたのはな) 美しき香三椏の花包む紙
沈丁花(じんちょうげ) 沈丁花屋敷抜け出しかをるかな
連翹(れんぎょう)   連翹や胸抱く希望門に咲き
土佐水木(とさみずき) 吊連ね黄鮮やかなり土佐水木
木蓮(もくれん)    木蓮や白く膨らみ子らを見て
アザレア(あざれあ)  アザレアや根元ふくらみ植木鉢
芽吹く(めぶく)    洗面器垣根が芽吹く日が眩し
木の芽(このめ)    気配れどやはりあの娘は木の芽時
春林(しゅんりん)   春林や去年の葉が舞ふきらきらと
柳の芽(やなぎのめ)  柳の芽剥きだしたくて背伸びして
楤の芽(たらのめ)   崖つぷち楤の芽をもぐ帰り道
五加木(うこぎ)    昼飯に頂き物の五加木味噌
枸杞(くこ)      枸杞飯や湯治の帰り摘みしとは
赤楊の花(はんのきのはな) 窓向こう赤楊の花満開に
木五倍子の花(きぶしのはな) にわか雨木五倍子の花も輝けり
柳絮(りゅうじゅ)   山並みや棚田に光る柳絮舞ふ
柳の花(やなぎのはな) 柳の花濃紫色慎ましく
柏落葉(かしわおちば) 柏落葉一歩進みて一休み
黄水仙(きずいせん)  斜面覆う風にも強し黄水仙
喇叭水仙(らっぱすいせん) お辞儀する喇叭水仙首重し
花簪(はなかんざし)  吾子の髪花簪を編み飾り
諸喝菜(しょかっさい) 道なりへ間隔揃え諸喝菜
君子蘭(くんしらん)  我が家にも大きな葉振り君子蘭
菊の苗(きくのなえ)  母の手が浅く挿し植え菊の苗
茎立(くくたち)    茎立のキャベツが花は伸ぶ黄色
春菜(はるな)     金魚ごと子ら引き連れて春菜摘む
春大根(はるだいこん) 薹が立つ畑一角春大根
韮(にら)       レバ韮が今夜のメニュー湯気の中
浅葱(あさつき)    楽天に浅葱のあり新しか
分葱(わけぎ)     うどんより青くて長い分葱あり
雪間草(ゆきまぐさ)  尾瀬ヶ原先争いて雪間草
双葉(ふたば)     風一陣双葉なめらか撫で過ぎぬ
菫(すみれ)      側溝とわずかな土に菫咲く
薺の花(なずなのはな) 薺の花終りを待ちてぺんぺんと
蒲公英(たんぽぽ)   草の影隠れていても蒲公英よ
土筆(つくし)     待ち人へ荒れ地に群れし土筆撮り
蕨(わらび)      誘われど蕨狩ほどつまらなさ
薇(ぜんまい)     薇やほどいてくれと首ひとつ
春蘭(しゅんらん)   春蘭やひび走らせて破壊力
一人静(ひとりしずか) 一人静咲く峠越し恋したし
二人静(ふたりしずか) 吾子は逝く二人静な一年忌
嫁菜(よめな)     包丁の切り刻む音嫁菜飯
茅花(つばな)     耐え忍ぶ銀色茅花分離帯
水草生ふ(みずくさおう) 舟ゆらり波紋ひろがる水草生ふ
蘆の角(あしのつめ)  波しぶき鯉はかきわけ蘆の角
紫雲英(げんげ)    紫雲英原蜜吸いたしと白き紙

山笑ふ人も笑ふも人のこと

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