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俳句手帖にある季語で一句 10月

白秋(はくしゅう)   静けさや白秋の夜聞く汽笛
錦秋(きんしゅう)   音もなく錦秋の苑葉ぞ光り
晩秋(ばんしゅう)   晩秋の一つ家集う筆自慢
十月(じゅうがつ)   十月や我が身に授く世の重き
長月(ながつき)    長月の半纏の裾ほつれけり
寒露(かんろ)     水鳥の潜りて食みし寒露の日
秋の暮れ(あきのくれ) 道ひかる草の実飛ばす秋の暮れ
秋の夜(あきのよる)  戸を閉めて一部屋集う秋の夜
身に入む(みにしむ)  父居ぬと夕餉身に入む席ひとつ
秋寒(あきさむ)    秋寒や雨戸を閉めるせわし音
そぞろ寒(そぞろさむ) 云わずとも布団がせかすそぞろ寒
漸寒(ややさむ)    漸寒しつるり滑るはだし下駄
うそ寒(うそさむ)   祭り間近床屋へ後がうそ寒し
肌寒(はださむ)    肌寒し十時の光よこになり
朝寒(あささむ)    朝寒や車の息も白くなり
夜寒(よさむ)     狭き部屋夜寒は火鉢各々が
霜降(そうこう)    息白し霜降る朝の固き砂利
秋の暮れ(あきのくれ) 道ひかる草の実飛ばす秋の暮れ
秋の夜(あきのよる)  戸を閉めて一部屋集う秋の夜
身に入む(みにしむ)  父居ぬと夕餉身に入む席はあり
秋寒(あきさむ)    秋寒や雨戸を閉めるせわし音
そぞろ寒(そぞろさむ) 云わずとも布団がせかすそぞろ寒
冷まじ(すさまじ)   冷まじきごいさぎが立つ水なき田
秋深し(あきふかし)  秋深し隣りの家が動く夜
行く秋(ゆくあき)   行く秋を追うが如くの落ちる柿
秋惜しむ(あきおしむ) 紅い花囲むスタジアム秋惜しむ
冬隣(ふゆどなり)   温暖化雲のかたさま冬隣
秋晴(あきはれ)    秋晴や運動会があと黙す
秋日和(あきびより)  秋日和子犬腹ばい庭を占め
秋の声(あきのこえ)  風静かくぐる草むら秋の声
秋の空(あきのそら)  声響く万国旗揺る秋の空
秋の雲(あきのくも)  いつ見ても明日を思わす秋の雲
鰯雲(いわしぐも)   豊漁の予感も空し鰯雲 
後の月(のちのつき)  約束を果たしてくれぬ後の月
十三夜(じゅうさんや) 明日よりと輝き上り十三夜
秋風(あきかぜ)    秋風や草の波立ち絮の舞う
色無き風(いろなきかぜ) 浜名湖や色無き風がわたる朝
爽籟(そうらい)     爽籟やウッドカーテンを上に揚げ
秋霖(しゅうりん)   秋霖や関所が跡で砂利の音
秋時雨(あきしぐれ)  秋時雨社映した水溜り
秋雪(秋雪)      不作にも秋雪の白青き嶺
露時雨(つゆしぐれ)  急ぐ足裾を濡らすか露時雨
露寒(つゆさむ)    露寒やカバン揺らして早歩き
露霜(つゆじも)    露霜を避けて通れぬ裏の道
秋の霜(あきのしも)  身震ひて微かに白し秋の霜
釣瓶落し(つるべおとし) 戯れて釣瓶落して水を汲む
秋の山(あきのやま)  収穫を見せびらかして秋の山
山装ふ(やまよそおふ) 温暖化山装ふ日バスは来ず
秋の野(あきのの)   忙し世としばし訪ぬ秋の野へ
秋園(しゅうえん)   秋園や鳥囀りぬ日笠さし
落とし水(おとしみず)  静けさや水琴如し落とし水
刈田(かりた)     待ちわびた刈田がベースホームラン
穭田(ひつじだ)    穭田や風に追われし靡きけり
秋の川(あきのかわ)  絹網をさして鮒待つ秋の川
秋の海(あきのうみ)  輸送船左へ静か秋の海
浅漬大根(あさづけだいこん) 浅漬大根つれあいが味懐かしき
菊膾(きくなます)   父が好き母残す味菊膾
氷頭膾(ひずなます)  氷頭膾色鮮やかも酸いと知り
柚餅子(ゆべし)    土産にはふるさとの味柚餅子あり
柚味噌(ゆみそ)     食欲を誘ふ香りが柚味噌かな
新蕎麦(しんそば)   新蕎麦や打つと招きし客二人
新米(しんまい)    新米を載せて自転車重きけり
新麹(しんこうじ)   切り溜めや花咲く香り新麹
夜食(やしょく)    夜食にも息子はマンガ読みふけり
零余子飯(むかごめし) 零余子飯語るふるさと家もなし
栗飯(くりめし)    行事とす栗飯の栗買いに行く
橡餅(とちもち)    橡餅を搗く石臼の重きこと
干柿(ほしがき)    待ちきれぬ甘き干し柿歯の裏へ
新酒(しんしゅ)    新酒でき知らす杉玉つるす朝
古酒(こしゅ)     古酒には古酒の趣き有ると知る
温め酒(ぬくめざけ)  野暮抜けぬ息子嗜む温め酒
菊枕(きくまくら)   野に摘みぬ母にもおくる菊枕
火恋し(ひこいし)   火恋しや鞄持つ手の冷たさよ
秋の炉(あきのろ)   きみしじま秋の炉囲む茶の香り
風炉名残(ふろなごり) 短冊の軸に替えたる風炉名残
冬支度(ふゆじたく)  父建てることり垣根や冬支度
松手入(まつていれ)  五之三と枝を払えと松手入
案山子(かかし)    稲のない田んぼに残る案山子かな
鳴子(なるこ)     鳴子鳴ろ俺が頭と紐引く童
鳥威(とりおどし)   作れども雀遊ぶや鳥威
脅し銃(おどしづつ)  目覚ましやけふは不要と威し銃
鹿火屋(かびや)    鹿火屋にて便りを書かぬ江戸の友
鹿垣(ししがき)    山の枝鹿垣作り刈り集め
稲刈り(いねかり)   稲刈りの三時に口へパンの味
稲架(はざ)      稲架作り藁より重き丸太かな
新藁(しんわら)    新藁に残れるぬくみ山と積む
藁塚(わらづか)    藁塚をラガー配置に積み上げて
夜なべ(よなべ)    オールナイト落すボリユーム夜なべかな
砧(きぬた)      力なく姉は振り上げ砧打つ
新煙草(しんたばこ)  棚の束光遮り新煙草
新綿(しんわた)    種ぽろり新綿ふわり母が繰る
新絹(しんきぬ)    あつあつと新絹の糸繰り出して
種採(たねとり)    種採りぬ根元に残り次の春
菜種蒔(なたねまく)  柔肌の如き畑地へ菜種蒔く
萩刈る(はぎかる)   萩刈りて見上げる山に雲もなく
菱取る(ひしとる)   波静か菱取り舟が跡伸びる
蘆刈(あしかり)    蘆刈を追いかけ鳥のせわしこと
葦火(あしび)     むこうにも葦火の煙立ち昇り
桑括る(くわくくる)  皮採りと桑括る束軽きかな
秋繭(あきまゆ)    農業祭秋繭を選り並ぶ卓
初猟(はつりょう)   初猟や散弾銃屋根を打つ
崩れ簗(くずれやな)  台風や時期を早めて崩れ簗
鮭打(さけうち)    鮭打の極意極めていくら食う
鮭番屋(さけばんや)  温し石あと少しなり鮭番屋
菊花展(きくかてん)  菊花展すぐに見つかる母の作
菊人形(きくにんぎょう) 菊人形顔に似合わぬ色使い
茸狩(きのこがり)   去年採りし根元荒らされ茸狩
紅葉狩(もみじがり)  紅葉狩せわしく歩き上を見ず
芋煮会(いもにかい)  庄内へ匂いかぎたし芋煮会
重陽(ちょうよう)   重陽の風母の自慢を倒しけり
登高(とうこう)    登高す汗の元なる水ぐびり
赤い羽根(あかいはね) 赤い羽根季節替わりを胸につけ
体育の日(たいいくのひ) 特異日を体育の日と決め五輪
鹿の角切(しかのつのきり) 麻酔銃鹿の角切静かなり
べったら市(べったらいち) 麹の香べったら市の帰りかな
鞍馬の火祭(くらまのひまつり) 火祭や汗照らしだす松明よ
時代祭(じだいまつり) 時代祭侍烏帽子傾きて 
菊供養(きくくよう)  くらがりに紛れゆきたく菊供養
去来忌(きょらいき)  去来忌や未だ渋柿ぞ混じりたり
ハロウィン       ハロウィンや昼は仮装が厚化粧
猪(いのしし)     触りたし猪が寝る軽トラに
馬肥ゆる(うまこゆる) 馬肥ゆる流鏑馬神事かりだされ
渡り鳥(わたりどり)  屋根覆い今年も来たか渡り鳥
鷹渡る(たかわたる)   鷹渡る門の木とまる鋭き目
坂鳥(さかどり)    坂鳥が来たと騙され朝仕度
稲雀(いなすずめ)   稲雀飛竜がごとし飛びまわり
鵯(ひよどり)     鵯や窓辺が枝へけふは来ず
鶫(つぐみ)      鶫鳴く霞網を張る林なり
連雀(れんじゃく)   冠毛やせわしく揺らし連雀よ
獦子鳥(あとり)    風揺らす獦子鳥さえずり葦の中
頭高(かしらだか)   武蔵野へ林を越して頭高
鴿(しめ)       鴿狙う空気銃は空を打つ
鶲(ひたき)      かちかちと鴿は何処屋敷跡
田雲雀(たひばり)   田雲雀や葦の河原も風強し
鵲(かささぎ)     鵲橋横風に耐え渡り切り
鴇(とき)       昼下り刈田に鴇ぞ舞降りぬ
雁(かり)       雨あいの月に入る雁一羽づつ
雁行(がんこう)    ドローン撮る雁行型にある我が家
初鴨(はつがも)     初鴨や湖の波たゆく眼を閉じぬ
鴨来る(かもきたる)  鴨来る水上に立ち羽ばたきぬ
鶴来る(つるきたる)  双眼鏡山のは彼方鶴来る
落鮒(おちぶな)    笹舟や落鮒すくう川下る
紅葉鮒(もみじぶな)  味噌にあうことこと煮込む紅葉鮒
木の葉山女(このはやめ) 浮かぶ葉をかき分け背鰭木の葉山女
落鰻(おちうなぎ)   すだれ屋根ベンチに埃落鰻
江鮭(あめのうお)   瀬田の堰満水染めし江鮭
江鮭(あきがつお)   江鮭夕日と染める浮御堂
秋鯖(あきさば)    酢にしめて秋鯖食わす里帰り
鰯(いわし)      料理下手鰯が刺身捌けなく
秋刀魚(さんま)    秋刀魚焼く味が左右塩加減
花咲蟹(はなさきがに) 閉じられぬ花咲蟹が子持ち腹
残る虫(のこるむし)  皆去れど余韻に浸る残る虫
蝗(いなご)      蝗捕るげてもの喰えず塵場行
浮塵子(うんか)    浮塵子よぶ灯りも絶えて田も暗く
蓑虫(みのむし)    絶命危惧種すでに蓑虫仲間入り
栗虫(くりむし)    栗の虫毬鬼渋に守られし
秋の蜂(あきのはち)  巣近し羽音さびしく秋の蜂
木犀(もくせい)    木犀の香障子むこう控え待ち
金木犀(きんもくせい) 金木犀の林七十七里むせかえる
銀木犀(ぎんもくせい) 銀木犀財布にしたし犀の肌
洎夫藍(サフラン)   洎夫藍や瓶に栓して売られおり
芙蓉の実(ふようのみ) 芙蓉の実咲し謳歌の面影よ
木瓜の実(ほけのみ)  木瓜の実や転がる先の坂きびし
水木の実(みずきのみ) 水木の実熟女が襟ほくろあり
椿の実(つばきのみ)  熟せどもけして落ちまい椿の実
枳橘の実(からたちのみ) 枳橘の実目立たぬように匂いけし
梔子の実(くちなしのみ) 梔子の実やまい癒して黄膨れて
藤の実(ふじのみ)   藤の実や棚から上が透かし彫り
秋果(しゅうか)    ただいまに留守番電話秋果あり
柿(かき)       柿食えど鐘も聞こえぬパチンコ屋
渋柿(しぶがき)    渋柿や季節が終り目出番なり
熟柿(じゅくし)    指先や熟女食らう熟柿かな
林檎(りんご)      籾探る林檎の色を指でみる
紅玉(こうぎょく)   紅玉や味の歴史に燦然と
無花果(いちじく)   フォーク染む無花果ケーキ喉をこし
胡桃(くるみ)     胡桃パン試食の残りバイト先
鬼胡桃(おにぐるみ)  細動に耐え握りしめ鬼胡桃
沢胡桃(さわぐるみ)  登り着く食べられぬとは沢胡桃
酢橘(すだち)     薬指昨日刺されし酢橘棘
柚子(ゆず)      豊作と柚子の隙間にはいる風呂
柑子蜜柑(こうじみかん) 久々の照日一杯柑子摘む
金柑(きんかん)    金柑の皮の旨さが年ごとに
オリーブの実(オリーブのみ) オリーブの実あれどこの木は何の木か
檸檬(レモン)     みかん畑片隅一本檸檬かな
榲桲(マルメロ)    葉が落ちて榲桲並木丸い影
榠樝の実(かりんのみ) 流行の風邪を止めるか榠樝の実
茘枝(れいし)     中華料理冷凍茘枝がじゃりじゃりと
冬瓜(とうがん)    種まかぬうちの冬瓜木を登り
紅葉(もみじ)     ひとはみな紅葉背にしてはいポーズ
照葉(てりは)     照葉染め紅いセーター色増して
照紅葉(てりもみじ)  築山と石橋染める照紅葉
紅葉かつ散る(もみじかつちる) 夕並木紅葉かつ散るボンネット
黄落(こうらく)    黄落や五十路迎えた友が逝く
雑木紅葉(ぞうきもみじ) 森林公園雑木紅葉を踏み散歩
楓紅葉(かえでもみじ) 古寺まもる楓紅葉が鐘の脇
漆紅葉(うるしもみじ) かぶれると漆紅葉が毒々し
櫨紅葉(はぜもみじ)  櫨紅葉疲れ目休め轆轤繰る
銀杏黄葉(いちょうもみじ) 銀杏黄葉麓いきたし窓をこし
柞紅葉(ははそもみじ) 柞紅葉ハンドルは向く仕事すて
柿紅葉(かきもみじ)  柿紅葉永久の別れあから顔
七竈(ななかまど)   七竈葉を脱ぎ全て赤を見せ
銀杏散る(いちょうちる) 銀杏散る車も速度上げ抜けぬ
名の木散る(なのきちる) 抗へど押し寄せる年名の木散る
色変えぬまつ(いろかえぬまつ) 色変えぬまつ私も変えず来るをまつ
新松子(しんちぢり)  主なき庭にも青く新松子
五倍子(ふし)     大雨と崖崩れあと木五倍子咲く
木の実(このみ)    真夜中や寝間の庇に木の実落つ
団栗(どんぐり)    団栗や袴をやにわ外す昼
椎の実(しいのみ)   誰見せる缶の椎の実一人っ子
菩提子(ぼだいし)   菩提子の実翼に載りて遠き地へ
榧の実(かやのみ)   榧の実や将棋勝負駒の音
無患子(むくろじ)   声かける無患子が音羽根と飛び
銀杏(ぎんなん)    境内の自販機の下銀杏あり
紫式部(むらさきしきぶ) 上品に紫式部実を熟し
破芭蕉(やればしょう) 廃寺へ誰ぞ植えしか破芭蕉
残菊(ざんぎく)    皆枯れど色度いよいよ残菊
落穂(おちぼ)     誰も居ぬ落穂拾いが風に負け
落花生(らっかせい)  振り落とす土に混じらぬ落花生
敗荷(やれはす)    敗荷や曲がり葉先は地につかず
末枯(うらがれ)    末枯の野一つ家があり歩く先
萱(かや)       萱をさす趣きも無き我が庵
郁子(むべ)      郁子みつけ身をほぐしつつ登る山
美男葛(びなんかずら) 美男葛雌花雄花が出合い待つ
牛膝(いのこずち)   野原ゆく足を離さじ牛膝
草虱(くさじらみ)   草虱赤い手甲にハート型
吾亦紅(われもこう)  想い出す顔も忘れし吾亦紅
烏瓜(からすうり)   照らし出す夕日が紅く烏瓜
茸(きのこ)      五種まぜてけふは特別茸飯
松茸(まつたけ)    松茸や杉の葉の上寝そべりし
湿地(しめじ)     ばらばらと湿地ほぐして鍋の湯気
椎茸(しいたけ)    こんこんと椎茸菌が打ち込まれ

NHK俳句附録 俳句手帖より

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