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俳句手帖にある季語で一句 4月

晩春(ばんしゅん)   晩春の水平線を右左
四月(しがつ)     二階よりレコード流る四月尽
弥生(やよい)     弥生の夜バカ殿様の白化粧
清明(せいめい)    清明の日風呂焚くたきぎ背において
春暁(しゅんぎょう)  春暁や通り急ぎし下駄の音
春昼(しゅんちゅう)  春昼や一瞬寝落ち巻き戻し
春の夕(はるのゆう)  五右衛門の炎見つめて春の夕
春の暮(はるのくれ)  春の暮おやじは何をお土産か
春の夜(はるのよ)   滲むインク温し春の夜寝落ちあと
麗か(うららか)    麗かな縁側に祖母ゆらゆらと
長閑(のどか)     犬は引く長閑な道の昼下り
日永(ひなが)     さざ波を数えて過ごす日永哉
遅日(ちじつ)     いつまでも遊び過ごすや遅日かな
花冷(はなびえ)    花冷や綴りたしこと多きペン
花時(はなどき)    花時や今宵の花が咲き具合
蛙の目借時(かえるのめかりどき) 向こうの娘バスやり過ごす目借時
穀雨(こくう)     詠み始む最終章は穀雨かな 
春深し(はるふかし)  春深し蜜の香りや虫が舞ふ
八十八夜(はちじゅうはちや) この匂い八十八夜排気筒
行く春(ゆくはる)   行く春や相輪が上雲もなく
春惜しむ(はるおしむ) 春惜しむみたらし団子列をなし
夏近し(なつちかし)  夏近しガラス触れあう音が来て
弥生尽(やよいじん)  弥生尽船ゆっくりと北へ向く
四月尽(しがつじん)  四月尽海に足入れ磨く舟
春の空(はるのそら)  柱背にひねもす眺む春の空
春の雲(はるのくも)  髪流る誰かに似てる春の雲
春の月(はるのつき)  草原をくまなく照らす春の月
朧(おぼろ)      朧夜や故郷かをる街の灯よ
春の闇(はるのやみ)  春の闇木の花かをる散歩道
春風(はるかぜ)    マフラーや暑く締めたる春の風 
春嵐(はるあらし)   場所取りのシート巻き上げ春嵐
風光る(かぜひかる)  サーファーの後ろの波も風光る
黄砂(こうさ)     ぼんやりと山は霞か黄砂かな
春塵(しゅんじん)   運動場鼻を塞ぎて春埃
菜種梅雨(なたねづゆ) 菜種梅雨一雨ごとの温さかな
春の雨(はるのあめ)  春の雨濡れたくもなき一人旅
別れ霜(わかれじも)  別れ霜茶畑に建つ扇風機
春の虹(はるのにじ)  春の虹東の空にいつもでて
春陰(しゅんいん)   春陰や煙出したる窯の跡
花曇(はなぐもり)   川静かごろごろ石が花曇
春の夕焼(はるのゆうやけ) 叶わぬゆめ春の夕焼浴び歩く
蜃気楼(しんきろう)  海の向こうコロナに惑う蜃気楼
フェーン        日本一風炎が郷佐久間なり
春の海(はるのうみ)  下り坂曲がれば臨む春の海
春潮(しゅんちょう)  春潮の浜をひたひた父のあと
春田(はるた)     手慣れてぬ叔父の鞭する春田かな
苗代(なえしろ)    ふわふわのカステラ如き苗代田
春の園(はるのその)  手のばして転がりの跡春の園
春の土(はるのつち)  ふわふわと今にも舞ひそ春の土
逃水(にげみず)    逃げ水に追ひつけないかこの新車
花衣(はなごろも)   花衣吾子の棺にそつと掛け
春服(しゅんぷく)   春服を纏ひて年をかくしたし
春帽子(はるぼうし)  艶やかな花弁多し春帽子
春日傘(はるひがさ)  ささまいか曇り空観る春日傘
花菜漬(はななづけ)  食べ頃と夕餉一皿花菜漬
桜漬(さくらづけ)   桜湯を口にし初めし姉の宴
桜餅(さくらもち)   枝手折りかをる葉っぱが桜餅
春灯(しゅんとう)   浮き心今宵は春灯並べたく
春ともし(はるともし) 心込め鞄の手紙春ともし
羊の毛剪る(ひつじのけきる) 疾走す羊の毛剪る荒い息
霜除けとる(しもよけとる) 差し込む陽霜除けをとる跳ねる色
草餅(くさもち)    道の駅草餅試食それなりで
鶯餅(うぐいすもち)  季節もの料理教室鶯餅
種浸し(たねひたし)  種浸ししいなが浮かぶ塩加減
種俵(たねだわら)   少しでも南京袋種俵
種案山子(たねかがし) 白糸や縦横斜め種案山子
田打(たうち)     日曜日親父の田打秘密基地
朝顔蒔く(あさがおまく) 朝顔蒔く鉢は大きく数足りぬ
霜くすべ(しもくすべ) スーパームーン煙で隠す霜くすべ
茶摘(ちゃつみ)    遠くからリズムちゃきちゃき茶摘かな
桑摘(くわつみ)    想い出は桑摘の日雨に会い
畦塗(あぜぬり)    鏡富士またいで父ぞ畦を塗り
鮎汲(あゆくみ)    石のけて流れも澄みて鮎を汲み
上り簗(のぼりやな)  時機到来行きつく先や上り簗
鯛網(たいあみ)    跳ねる鯛網に捕らわれ客のもと
海女(あま)      海女衣飛び込む開く海の中
汐干狩(しおひがり)  汐干狩けふは何時と問いかけり
観潮(かんちょう)   観潮や船尾の泡は慌ただし
壺焼(つぼやき)    壺焼の極意忘れて肝逃がす
遠足(えんそく)    遠足や卵の黄身は鯉にやり
花見(はなみ)     行きたくて花見が名所話す君
花疲(はなづかれ)   庭の隅掃いても積もる花疲
ボートレース(ぼーとれーす) ボートレース横の車が遅きなり
猟期終る(りょうきおわる) 小心は猟期終われど鍵を掛け
風船(ふうせん)    武生より赤い風船風に載り
風車(かざぐるま)   乳母車静かに眠る風車
石鹸玉(しゃぼんだま) 虹色がくるくる廻る石鹸玉
ぶらんこ        ぶらんこや手招きしたし歩きたし
朝寝(あさね)     節穴の光線示す朝寝かな
春眠(しゅんみん)   春眠を新聞配りかき破り
春愁(しゅんしゅう)  春愁や遠きにありて近き人
春の夢(はるのゆめ)  あの笑顔ふつと現る春の夢
入学(にゅうがく)   入学にとコードバンは雨に濡れ
新社員(しんにゅうしゃいん) 門前の新社員白カード
四月馬鹿(しがつばか) 朝寒し何を企て四月馬鹿
義士祭(ぎしさい)   大石と出会う義士祭出す色紙
十三詣(じゅうさんまいり) 大人よと十三詣裾の丈
嵯峨念仏(さがねんぶつ) 二十番嵯峨念仏ひとり観て
春祭(はるまつり)   笙聞こゆ歩き早まる春祭
開帳(かいちょう)   手を合わす青空のもと御開帳
遍路(へんろ)     菜の花や行く先示す遍路道
仏生会(ぶっしょうえ) 幼子や杓子届かぬ仏生会
花祭(はままつり)   指を指し吾子真似をする花祭
甘茶(あまちゃ)    我先と甘茶を注ぐ稚児の列
花御堂(はなみどう)  空晴れる持つ手渡す手花御堂
虚子忌(きょしき)   談笑や人憚らず虚子忌かな
復活祭(ふっかつさい) 金色で卵を包む復活祭
仔馬(こうま)     立ち上がり乳房求めし仔馬かな
孕み鹿(はらみじか)  赤信号最後尾にて孕み鹿
落し角(おとしづの)  若草山二つ揃えて落し角
仔猫(こねこ)     真白き汚れも知らぬ仔猫かな
亀鳴く(かめなく)   亀鳴くや向こうの岸に夢御堂
蝌蚪(かと)      温き水花火の如し蝌蚪開く
お玉杓子(おたまじゃくし) 頭振りお玉杓子は数センチ
蛙(かわず)      足音や蛙人蹴り向こう岸
囀(さえずり)     庄屋跡囀一羽森深し
鳥交る(とりさかる)  歓喜の舞前に後ろに鳥の恋
百千鳥(ももちどり)  若返る鎮守の森へ百千鳥
鶯(うぐいす)     障子越し鶯啼きてランドセル
春の雁(はるのかり)  シルエット仲間見送る春の雁
残る鴨(のこるかも)  ゆつたりと湖面を滑る残る鴨
古巣(ふるす)     今年も来た古巣繕ふ嬉々如し
燕の巣(つばめのす)  二階から眠気眼に燕の巣
桜鯛(さくらだい)   桜鯛大きいからか釣り落とし
魚島(うおじま)    魚島に挑む指先流る潮
鰊(にしん)      グーグルに跡形もなく鰊小屋
鰆(さわら)      白波を蹴立てて競う鰆船
鯥五郎(むつごろう)  引き潮やダンスを披露鯥五郎
鮊子(いかなご)    鮊子に混じり一本五寸釘
乗込鮒(のっこみぶな) 大将や乗込鮒の先陣を
蛍烏賊(ほたるいか)  網の目のありかを示す蛍烏賊
蛤(はまぐり)     お吸い物蛤開く葱入れり
桜貝(さくらがい)   大波の一片あとに桜貝
栄螺(さざえ)     素潜り手袋一杯栄螺かな
浅蜊(あさり)     砂の中浅蜊が住処当てる指
桜蝦(さくらえび)   定刻に桜蝦舟白波を
汐招き(しおまねき)  誘われて時間忘れて汐招き
寄居虫(やどかり)   寄居虫や元に戻れぬ去年の家
磯巾着(いそぎんちゃく) 潮は引く磯巾着も一休み
海胆・雲丹(うに)   売り切れし雲丹のふりかけアマゾンも
蝶(ちょう)      伸びきりしかんらんの花舞ふは蝶
春の蚊(はるのか)   温暖化春の蚊刺すややわき肌
虻(あぶ)       虻群れる湯気立ち昇る牛の尿(しと)
春の蠅(はるのはえ)  とぐろまく友の野糞や春の蠅
蠅生る(はえうまる)  金色が羽根何処で蠅生る
蚕(かいこ)      無双窓こぼれる光蚕かな
春蝉(はるせみ)    春蝉や坂の途中に蜆塚
松毟鳥(まつむしり)  松毟鳥いたよ来たよと妻が声
初桜(はつさくら)   校庭を一巡りせど初桜
桜(さくら)      曲がらない終り見えない桜坂
花盛り(はなさかり)  花盛り過ぎて衣装ぞ狂い咲き
山桜(やまざくら)   咲き誇る葉っぱ追い越す山桜
八重桜(やえざくら)  ぼったりと枝は折れぬか八重桜
遅桜(おそざくら)   そろそろと退院を待つ遅桜
落花(らっか)     掃く女落花楽しむ粋もなし
残花(ざんか)     残花散る緑一色戻る山
桜蕊降る(さくらしべふる) 色変わり桜蕊降る朝の庭
沈丁花(じんちょうげ) 風にのりにほひ届し沈丁花
辛夷(こぶし)     帰れない郷は今頃辛夷咲く
紫荊(はなずおう)   玄関へ大きな花瓶紫荊
海棠(かいどう)    海棠を抜いて抜け道裏の畑
ライラック       ライラック花覆われて時計台
山桜桃の花(ゆずらのはな) 列造り園児が頬へ山桜桃かな
青木の花(あおきのはな) 久々の夫婦で愛でる花青木
満点星の花(どうだんのはな) 満点星の花くぐり花嫁振り返り
馬酔木の花(あせびのはな) ぼんやりと馬酔木の花が夕まぐれ
躑躅(つつじ)     来年もと鋏を入れし躑躅かな
小紛団の花(こでまりのはな) 小紛団の吹雪を浴びて車椅子
雪柳(ゆきやなぎ)   雪柳一陣の風一纏め
藤(ふじ)       藤棚や朝一番に絨毯
山吹(やまぶき)    山吹や何処に咲くや武蔵野か
桃の花(もものはな)  八重しだれ重い花弁桃の花
李の花(すもものはな) 李の花白き小さき寄りあいて
梨の花(なしのはな)  陽を受けて受粉作業や梨の花
杏の花(あんずのはな) 杏の花グランドゴルフボールかな
林檎の花(りんごのはな) 何処までも林檎の花の続く窓
榠樝の花(かりんのはな) 我ありと榠樝の花も咲きにけり
ネーブル         ネーブルをどさり一杯朝届き
伊予柑(いよかん)    伊予柑や旨さ育てし伊予の海
八朔柑(はっさくかん)  八朔柑にやり豊作父採りぬ
三宝柑(さんぽうかん)  三宝柑へそが邪魔する選別機
糵(ひこばえ)      山道を招くがごとく糵ゆる
若緑(わかみどり)    なまけ癖庭手入れせく若緑
桑(くわ)        山盛りの桑籠背負う軽さかな
柳(やなぎ)       あの笑顔柳の揺れに見え隠れ
木瓜の花(ぼけのはな)  門先へ父植え遺す緋木瓜かな
松の花(まつのはな)   築山を黄色く染める松の花
杉の花(すぎのはな)   この世では嫌われ物と杉の花
楓の花(かえでのはな)  楓の花葉の色に勝て紅の色
白樺の花(しらかばのはな) 白樺の花黄色く穂垂る靄の朝
枸橘の花(くちなしのはな) 枸橘の花指輪も抜けぬ太い幹
樒の花(しきみのはな)  樒の花見られぬ笑顔偲ばせり
鈴懸の花(すずかけのはな) 鈴懸の花庭の真ん中たちにけり
通草の花(あけびのはな) 通草の花覆う花弁停留所
郁子の花(むべのはな)  絡み付き主を覆う郁子の花
竹の秋(たけのあき)   髪をすく襟足払ふ竹の秋
春落葉(はるおちば)   鮮やかな色を残して春落葉
三色菫(さんしきすみれ) 校庭の三色菫待つ生徒
金盞花(きんせんか)   花終えて暑さを知るや金盞花
アネモネ         アネモネや我植え初めし花となり
シネラリア        眼帯解く鮮やかな色シネラリア
フリージア        風にのり届くかをりやフリージア
チューリップ       花鉢へ三本揃ふチューリップ
エリカ          呼んでみるエリカが咲きし花園で
霞草(かすみそう)    通り雨傘に入れたい霞草
都忘れ(みやこわすれ)  一本道都忘れが我が家へ
菜の花(なのはな)    菜の花や月を背にして西の空
大根の花(だいこんのはな) 大根の花来年こそはあなたの胃
豆の花(まめのはな)   愛でせども摘みたし摘めぬ豆の花
葱坊主(ねぎぼうず)   陽は高し今にはじけん葱坊主
独活(うど)       独活育つ室の灯や真っ直ぐに
茗荷竹(みょうがだけ)  茗荷竹父の教えが邪魔をして
山葵(わさび)      生産地山葵のつうは鼻がきく
芥菜(からしな)     もう一品芥菜のサラダ素早さよ
若草(わかくさ)     柵の中若草を食む若き牛
柳絮(りゅうじょ)    傾斜地の角度をつけて柳絮かな
杉菜(すぎな)      柔らかく築山覆うふ杉菜かな
一輪草(いちりんそう)  一輪草一茎一花凛として
苧環(おだまき)     苧環や人目を避けど人目引き
二輪草(にりんそう)   山の端にペアーが群れる二輪草
熊谷草(くまがいそう)  人目避け咲く深き谷熊谷草
若布(わかめ)      産地偽装若布辿れど海の中
鹿尾菜(ひじき)     もう一品鹿尾菜白和え夕餉かな
角叉(つのまた)     角叉干す島の女が籠背負う
海雲(もずく)      3パック迷わず籠へ海雲かな
雨髪(うご)       透きとほる潮の揺れるや雨髪の揺れ

NHK俳句附録 俳句手帖より

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