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俳句手帖にある季語で一句 12月

冬ざれ(ふゆざれ)
    冬ざれや欅箒が屋根の上
冬帝(とうてい) 
    冬帝の威厳に隠す陽の温み
厳冬(げんとう)
    厳冬の朝スチームバルブ鳴りて来る
冬将軍(ふゆしょうぐん)
    冬将軍今年も雪を引き連れし
玄冬(げんとう) 
    玄冬や一巡りくる木に花芽
暖冬(だんとう) 
    暖冬と云えども水は突き刺さり
仲冬(ちゅうとう)
    仲冬の本屋の古きグルメ地図
十二月(じゅうにがつ)
    白髪染め床屋忙し十二月
霜月(しもつき)
    霜月の色の褪せたる紅葉道
大雪(たいせつ)
    大雪やカレンダー来る忙し朝
冬至(とうじ)
    小屋の篭冬至の南瓜緋色なり
冬の日(ふゆのひ)
    縁側へ冬の日ほしく猫あくび
極月(ごきげつ)
    極月の闇の通りで買うは蟹
年の暮(としのくれ)
    年の暮柱時計を値引くかな
師走(しわす)
    乳飲み子を追いかけていく師走かな
年末(ねんまつ)
    年末はすること少し青き年
年果つる(としはつる)
    血糖値エラー表示年果つる
年の内(としのうち)
    急がない豊富な在庫年の内
数へ日(かぞえび)
    数へ日の岸辺に映る鵜の影よ
行く年(ゆくとし)
    行く年の水道水が洗車かな
年歩む(としあゆむ)
    年歩む手術の跡が一つ増え
小晦日(こつごもり)
    小晦日常識知らず訪ね来る
大晦日(おおみそか)
    大晦日けふばかりはと早くも寝
大年(おおどし)
    大年や宮の仕度がおいかけて
年惜しむ(としおしむ)
     年惜しむまた一つ増え手術跡
年越(としこし)
    年越へ氏子総代集まりぬ
年の夜(としのよる)
    年の夜や寝た子の頬を撫でにけり
除夜(じょや)
    時計買う除夜の時刻に帰り着く
凍つ(いつ)
    歯磨けど力まかせが凍つ釣瓶
冬空(ふゆぞら)
    冬空へ願い託すは今は無し
寒空(さむぞら)
    寒空に煌めく星もなかりけり
冬の雲(ふゆのくも)
    南方の西から流る冬の雲
寒雲(かんうん)
    寒雲や明日も寒かろ下着入れ
月冴ゆる(つきさゆる)
    月冴ゆる心も冴ゆる田舎道
星冴ゆる(ほしさゆる)
    きれいねと顎の先には星冴ゆる
荒星(あらぼし)
    荒星や最終列車家揺する
凍星(いてぼし)
    凍星や指差すように一本杉
冬北斗(ふゆほくと)
    さよならを言いたくなくて冬北斗
寒昴(かんすばる)
    三方原我行く先寒昴
寒波(かんぱ)
    我一人潜む家にも寒波来る
北風(きたかぜ)
    北風やスカートまるめゴム跳びて
空っ風(からっかぜ)
    空っ風書初めが舞う北廊下
北颪(きたおろし)
    北颪スパッと鋏髪短か
ならひ(ならい)
    ならひ吹く十年祭の墓場かな
虎落笛(もがりぶえ)
    空の稲架虎落笛聞く朝の道
鎌鼬(かまいたち)
    鎌鼬技伝えしや鈴之助
冬の雨(ふゆのあめ)
    似た人が窓の向こうに冬の雨
霰(あられ) 
    霰降る合格息子はしゃぎけり
霙(みぞれ)
    ハンドルの手を隠したし霙かな
霜(しも)  
    白い息霜降る朝の光かな
強霜(つよしも)
    強霜やワイパー固定冷える鍵
雪催(ゆきもよい)
    夕暮れに風の来る先雪催
初雪(はつゆき)
    初雪や新聞配達タイヤあと
雪(ゆき)
    雪降れば喜ぶ息子雪国へ
雪の声(ゆきのこえ)
    誰もゐぬ棚田の朝に雪の声
冬の雷(ふゆのらい)
    暗闇の光とどかぬ冬の雷
鰤起し(ぶりおこし)
    漁に出る合図一斉鰤起し
川涸る(かわかる) 
    川涸れて素足の鷺が探すとこ
沼涸る(ぬまかる)
    沼涸れて去年の倒木列をなし
涸滝(かれたき) 
    涸滝や果たせぬ夢や白い滝
冬景色(ふゆげしき)
    荒るる風川面削るも冬景色
冬の泉(ふゆのいずみ)
    陽を受けど冬の泉が粒尖る
冬の川(ふゆのかわ) 
    服のまま渡れそうなり冬の川
冬の海(ふゆのうみ)
    荒風や眺め居られぬ冬の海
寒潮(かんちょう)
    寒潮へ連絡船は今朝も出で
初氷(はつごおり)
    妹はしゃぐ初氷すべる丸い石
冬シャツ(ふゆしゃつ)
    一枚の冬シャツだけの床磨き
外套(がいとう)
    河原にてうすい外套風が押す
オーバーコート
     電柱横オーバーコートが襟を立て
綿入れ(わたいれ)
    綿入れを着込んで風邪をやり過ごし
蒲団(ふとん)
    打ち直し蒲団の海へ沈み込み
蒲団干す(ふとんほす)
 パンパンと蒲団干す音絶えてなく
毛布(もうふ)
    温度より蒲団に毛布さかしまに
角巻(かくまき)
    角巻で払うポストに内地行
膝掛(ひざがけ)
    膝掛けを抑える左廻す右
ちゃんちゃんこ
     お座りと躾の菓子はちゃんちゃんこ
ねんねこ 
    保育園へねんねこがない背が寒き
重ね着(かさねぎ)
    風通すセーターばかり重ね着て
着ぶくれ(きぶくれ)
    肥えてきた着ぶくれて見えこの鏡
毛皮(けがわ)
    毛皮ある成人式の銀きつね
アノラック
     アルバイト最初に買うはアノラック
冬帽子(ふゆぼうし)
    つけ始め取るに取れない冬帽子
マスク 
    見とれてるマスク美人の睫毛かな
襟巻(えりまき)
    風を背に襟巻拡げ帆駆け足
ショール
     ショール巻く婦人の裾も翻り
手袋(てぶくろ)
    手袋をしたままポケット探りけり
足袋(たび)
    洗いたて足袋のこはぜが爪を割る
樏(かんじき)
    樏を欲しいほど積もる棚田
毛糸編む(けいとあむ)
    胎動がリズム合わせし毛糸編む
春着縫う(はるぎぬう)
    春着縫う着丈あわせに背伸びして
乾鮭(からざけ)
    海風とあわす乾鮭鳴るリズム
塩鮭(しおざけ)
    塩鮭を担ぎ大叔父売り歩く
雑炊(ぞうすい)
    貧乏飯脱出変わる名雑炊へ
焼芋(やきいも)
    座敷に一つ焼芋中に籾火鉢
餅搗(もちつき)
    餅搗や重い石臼一仕事
霰餅(あられもち)
    霰餅乾ききれぬを盗み食い
蕪蒸(かぶらむし)
    蕪する何と蒸そうか蕪蒸
風呂吹(ふろたき)
    風呂焚きへ我先座る寒き夕
煮凝(にこごり)
    煮魚や煮凝りおもふ朝の鍋
冬籠(ふゆごもり)
    襖にも壁に絵もなく冬籠
冬館(ふゆやかた)
    塀越しに甍冷たき冬館
隙間風(すきまかぜ)
    傾きて防ぎきれない隙間風
雪囲( ゆきがこい)
    念入りにあつらえて待つ雪囲
雁木(がんぎ) 
    喫茶店雁木が柱匂いつく
雪掻(ゆきかき)
    貼り紙や雪掻仕事ありますと
雪下し(ゆきおろし)
    厚着脱ぎ汗かきするや雪下し
冬灯(ゆきともし)
    LED電球色が雪灯
冬座敷(ふゆざしき)
    我が庵火鉢ひとつの冬座敷
畳替(たたみがえ)
    庭に出る肘で糸引く畳替え
障子(しょうじ)
    霧吹けば突っ張る障子音もよし
襖(ふすま) 
    地震あと襖にできる隙間かな
屏風(びょうぶ) 
    あがりはな屏風がむこう気配あり
絨毯(じゅうたん)
    まるめれど絨毯長し収まらず
暖房(だんぼう)
    顔溶ける暖房の部屋次は手を
ストーブ(すとーぶ)
    母いぬ子ストーブの横授業中
炭(すみ)
    炭を立て火を強くして部屋温し
埋火(うずみび)
    埋火を掻き出し追加菊花炭
懐炉(かいろ)
    ベンジンが香る懐炉を納む腰
榾(ほた)
    榾たして釜戸が煙あまり出る
湯気立つる(ゆげたつる)
    湯気立つる牛のしょんべん越す朝日
蒟蒻掘る(こんにゃくほる)
    細葉陰蒟蒻を掘る母の鍬
牡蠣剥く(かきむく)
    牡蠣剥くや殻の内側美しき
牡蠣船(かきぶね)
    牡蠣船や山盛りに積む青い線
炭焼(すみやき)
    炭焼が煙が昇る山の午後
年木樵(としきこり)
    年木樵谷の向こうに人らしき 
寒柝(かんたく)
    たわむれに寒柝鳴らす玄関
火事(かじ)
    火事の声先ず走り探すや炎
消防車(しょうぼうしゃ)
    サイレンと鐘を鳴らして消防車
夜咄(よばなし)
    夜咄や息深くもつ手燭かな
縄飛(なわとび)
    埃たて縄飛続くぴゅんぴゅんと
竹馬(たけうま)
    まず十センチ竹馬高く父縛る
押しくら饅頭(おしくらまんじゅう)
    押しくら饅頭遅れ来る子を待つ間
ラグビー 
    新興宗教ラグビーの彼のめり込み
湯ざめ(ゆざめ)
    早く寝なゆざめきにして母急かす
風邪(かぜ)
    風邪ひけば枕元には欲しきもの
咳(せき)
    咳出れば肺から痰が治りかけ
水洟(みずばな)
   キーボード水洟一滴落にけり
くさめ
     畑鋤くくさめ一発響きけり
息白し(いきしろし)
    通学路朝日を受ける息白し
懐手(ふところで)
    井戸端やくだまく叔母ら懐手
日向ぼこ(ひなたぼこ)
    部屋よりも足袋も脱ぎたし日向ぼこ
年末賞与(ねんまつしょうよ)
    年末賞与それより多き買う予定
年用意(としようい)
    今年こそ思えど減らぬ年用意
煤払い(すすはらい)
    天気よい手拭巻いて煤払い
社会鍋(しゃかいなべ)
    風強し少なし揺れる社会鍋
歳暮(せいぼ)
    石鹸とあかずと答ふ歳暮かな
賀状書く(がじょうかく)
    除夜の鐘墨をすりつつ賀状書く
日記買ふ(にっきかう)
    今年こそ日記買ふおもひ三日まで
古日記(ふるにっき)
    ベストセラー越す物語古日記 
暦売(こよみうり)
    大売出し暦売場が広くなり
古暦(ふるごよみ)
    子年くる亥は駆け抜ける古暦
門松立つ(かどまつたつ)
    慌ただし門松立つとなお忙し
注連飾る(しめかざる)
    注連飾るあとはせぬまい思えども
御用納(ごようおさめ)
    見切りつけ御用納の午前中
年忘(としわすれ)
    クリスマスせぬ父やれと年忘
冬休(ふゆやすみ)
    宿題を忘れそうなる冬休
顔見世(かおみせ)
    はやきもの顔見世幟あがるかな
ぼろ市(ぼろいち)
    ぼろ市や人の頭を品比べ
年の市(としのいち)
    整えど心せき立つ年の市
羽子板市(はごいたいち)
    羽子板市我が家には無し飾る場所
飾売(かざりうり)
    リヤカーへ仕立て運ぶや飾売
柚子湯(ゆずゆ)
    豊作と底の見えない柚子湯かな
晦日蕎麦(みそかそば)
    どんなものうちはうどんや晦日蕎麦
秩父夜祭(ちちぶよまつり)
    秩父夜祭冷えた夜空へ花火咲く
大根焚(だいこんたき)
    大根焚寺それぞれの汁の味
義士会(ぎしかい)
    義士会や提灯掲げ雪を踏み
神楽(かぐら)
    つき歩く面白くない神楽かな
里神楽(さとかぐら)
    獅子頭なかに顔あり里神楽
除夜詣(じょやもうで)
    越えかける甘酒いかが除夜詣
除夜の鐘(じょやのかね)
    寺男碁石を並べ除夜の鐘
クリスマス
    魅せられしカードの色がクリスマス
一茶忌(いっさき)
    句をはじめ一茶忌初めて迎えたり
近松忌(ちかまつき)
    心中を推して量らん近松忌
漱石忌(そうせきき)
    草枕するには寒し漱石忌
石鼎忌(せきていき)
    葉脈紅し窓に貼りつく石鼎忌
熊(くま)
    谷越えて雪の木のぼる熊を見ゆ
冬の鹿(ふゆのしか)
    ジャンプして雪駆け抜けり冬の鹿
狸(たぬき)
    ヘッドライトは毛をふわふわ狸かな
兎(うさぎ)
    川わたる風を背にして兎の餌
鷹(たか)
    鷹が追う鴉再び戻り来て
冬の鷺(ふゆのさぎ)
    動かない餌も動かぬ冬の鷺
冬の鵙(ふゆのもず)
    誰もゐぬ公園にこゑ冬の鵙
冬雲雀(ふゆひばり)
    雲低く野原を低く冬雲雀
水鳥(みずとり)
    水鳥の足元泳ぐ土鯉かな
鴨(かも)
    鴨来れば鷺は一羽で離れたり
千鳥(ちどり)
    堤道先ゆく千鳥追い描けて
田鳧(たげり)
    風避けて冠羽繕う田鳧かな
都鳥(みやこどり)
    舞いおりて水面白くす都鳥
冬鷗(ふゆかもめ)
    冬鷗足を短く縮めたり
鶴(つる)
    餌あれど越されぬ山が鶴は来ぬ
白鳥(はくちょう)
    白鳥や奪われし餌鴨の中
鯨(くじら)
    水平線潮吹く鯨けふも見ず
鱈(たら)
    鱈ちりと母が重たき土鍋かな
鰤(ぶり)
    鰤大根養殖よりも氷見の味
鮟鱇(あんこう)
    どこにある鮟鱇鍋は汁のみぞ
河豚(ふぐ)
    忘年会幹事頑張り河豚づくし
牡蠣(かき)
    波打てど音だけ残す牡蠣の殻
冬の蝶(ふゆのちょう)
    隠れたし繁る葉捜す冬の蝶
冬の蠅(ふゆのはえ)
    じつと待つ主いる部屋冬の蠅
室咲(むろざき)
    テレビの上室咲の花温めし
冬薔薇(ふゆばら)
    咲き出せば短き命冬の薔薇
ポインセチア
    ラップの色ポインセチアは透ける紙
千両(せんりょう)
    花生ける赤き千両裏も占め
万両(まんりょう)
    覚えなき万両増えし庭掃除
南天の実(なんてんのみ)
    南天の実真っ赤な色は色褪せず
冬林檎(ふゆりんご)
    ナイフ入れ蜜の多くに冬林檎
枇杷の花(びわのはな)
    陽を受けて蜜の香流る枇杷の花
枯葉(かれは)
    枯葉舞う田舎の道もパリ気分
冬木立(ふゆこだち)
    句が詠めぬ本を抱えて冬木立
寒林(かんりん)
    日をとおす寒林が上すべて空
枯木(かれき)
    流されし河原の枯木いずくんか
枯柳(かれやなぎ)
    揺すぶれど波長合わせぬ枯柳
枯桑(かれくわ)
    リヤカーや枯桑くくる老夫婦
冬枯(ふゆがれ)
    冬枯れて野原やひとつ低くなり
冬芽(ふゆめ)
    温暖化冬芽も早き太さなり
寒菊(かんぎく)
    寒菊を無粋な男切り刻む
冬菊(ふゆぎく)
    冬菊を鉢一杯に写真前
人参(にんじん)
    人参を炒めて甘しカレーかな
冬草(ふゆくさ)
    冬草や日毎の丈が導なり
枯葦(かれあし)
    枯葦が向こうに響く水車小屋
枯尾花(かれおばな)
    風に耐え岸辺に残り枯尾花
枯芝(かれしば)
    枯芝に寝転ぶ誘う陽の温さ
枯葎(かれむぐら)
    枯葎躊躇させるやかくれんぼ
藪柑子(やぶこうじ)
    積もる古葉そこだけみどり藪柑子
竜の玉(りゅうのたま)
    細葉下青く光るや竜の玉

NHK俳句附録 季語手帖より

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