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俳句手帖にある季語で一句 11月

冬(ふゆ)       火鉢には冬と言うのに五徳だけ
立冬(りっとう)    立冬や影長並ぶ朝の道
冬に入る(ふゆにいる) 冬に入るポケットが好き僕の手ぞ
冬来る(ふゆきたる)  新品の手袋出番冬来る
今朝の冬(けさのふゆ) 息白し影に映るや今朝の冬
初冬(はつふゆ)    初冬やボイラーバルブ鳴りて来る
十一月(じゅういちがつ) 布団からあまりの寒さ十一月
神無月(かんなづき)  神無月裏の神様ひっそりと
神去り月(かみさりづき) 宝くじ誰を頼るか神去り月
神有月(かみありづき) 神有月西風と来し寒さかな
初霜月(はつしもづき) 手もみして便りを待や初霜月
水始めて氷る(みずはじめてこおる) 水始めて氷る右から左吾子握る
小雪(しょうせつ)   小雪や浴衣を払い露天風呂
小春(こはる)     通らない静けさだけの小春かな
小六月(ころくがつ)  縁側に眠るじいじが小六月
小春空(こはるぞら)  小春空鍬を漉き込む芋があと
小春凪(こはるなぎ)  吾子の凧走れど落ちる小春凪
冬浅し(ふゆあさし)  冬浅し隣りの家は湯めぐりへ
冬めく(ふゆめく)   信楽焼冬めく朝も火鉢干す
冬日(ふゆび)     枯れ花や煙が昇る冬日かな
冬の朝(ふゆのあさ)  遅刻する母に怒鳴られ冬の朝
冬曙(ふゆあけぼの)  冬曙三度目覚める暗き部屋
日短(ひみじか)    テラス席日短な午後持つ仕草
暮早し(くれはやし)  売り出しやテレビが煽る暮早し
夜半の月(よわのつき) 夜半の月鋲が打てりアスファルト
霜夜(しもよ)     一ツ家へ霜夜の原が遠きかな
冷し(つめたし)    冷し手リコーダーテスト五時間目
寒し(さむし)     朝寒し母の力が蒲団剥ぐ
冬暖か(ふゆあたたか) 醤油絞り冬暖かし雫の音
冬晴(ふゆばれ)    冬晴の人影見えぬ棚田道
冬日和(ふゆびより)   冬日和右から左おうど掃く
冬青空(ふゆあおぞら) 冬青空葺き替え屋根草を剥ぎ
冬銀河(ふゆぎんが)  冬銀河靴音高く田舎道
冬の星(ふゆのほし)  名を知らぬここの場所から冬の星
御講凪(おこうなぎ)  提灯が街並みへ子ら御講凪
凩(こがらし)     凩や軽き体ぞ流されし
朔風(さくふう)    朔風や早くあたりたく竈の火
神渡し(かみわたし)  陽がかげる藪が騒ぐや神渡し
初時雨(はつしぐれ)  ぽつぽつと多くなる点初時雨
時雨(しぐれ)     楠木の葉より静かに時雨かな
朝時雨(あさしぐれ)  傘ささず走りいけるか朝時雨
北時雨(きたしぐれ)  暖簾揺れあてない客に北時雨
小夜時雨(さよしぐれ) 小夜時雨父は何時に帰るかと
片時雨(かたしぐれ)  虹かかる傘は開かず片時雨
初霰(はつあられ)   初霰音に誘われ窓辺より
初霜(はつしも)    初霜やおりた朝が寒さなり
露凝る(つゆこる)   透き通る露凝る朝の井戸の水
冬霞(ふゆがすみ)   我が町も隅々見せぬ冬霞
冬の霧(ふゆのきり)  冬の霧静かに街へ流れなり
冬の靄(ふゆのもや)  冬の靄突然現る帆掛け船
寒靄(かんあい)    寒の靄田んぼアートが株の址
冬の虹(ふゆのにじ)  青空の棚田を包む冬の虹
冬夕焼(ふゆゆうやけ) 障子が色冬夕焼が染にけり
冬茜(ふゆあかね)   辞表出すここの席にも冬茜
枯野(かれの)     サナトリューム目指して一人枯野ゆく
冬田(ふゆた)     にぎやかに穭も靡く冬田かな
冬田道(ふゆたみち)  風が押すマフラーとける冬田道
冬の庭(ふゆのにわ)  つむじ風枯葉舞い上げ冬の庭
庭枯る(にわかる)   静かなる庭枯る夜の葉の騒ぎ
枯園(かれその)    枯園やビニール袋迷い込み
冬の園(ふゆのその)  松の下大き岩石冬の園
渇水期(かっすいき)  蓮田にも渇水期一本立ち守る
水涸る(みずかる)   雲低し藁舞い上がる水涸る田
冬の色(ふゆのいろ)  鳥も居ぬ誰も居ぬ先冬の色
冬の水(ふゆのみず)  動かない底まで見える冬の水
冬渚(ふゆなぎさ)   濡れまいと波を右目に冬渚
冬の浜(ふゆのはま)  風紋を崩さず流す冬の浜
霜柱(しもばしら)   霜柱踏み砕く音寒くとも
狐火(きつねび)    狐火や出ぬこと願ひ祠横
冬服(ふゆふく)    鼻水や冬服の袖かあばりて
冬着(ふゆぎ)     風吹けば寒がり坊ちゃん冬着着る
セーター        誕生祝セーター編めと毛糸かな
毛糸(けいと)     腕出せば腕はおろすな毛糸巻く
酢茎(すぐき)     年を経て味わうこと知る酢茎かな
千枚漬(せんまいづけ) 出張中千枚漬に寄り道を
沢庵漬(たくわんづけ) 空のはず沢庵漬へ風さらす
納豆(なっとう)    納豆に混ぜ訝しがられヨーグルト
味噌作る(みそつくる) 味噌作る道具は一つスマッシャー
生姜味噌(しょうがみそ) 豊作とぱくぱく食えぬ生姜味噌
雲腸(くもわた)    大海から我が胃へたどる雲腸
海鼠腸(このわた)   窘める海鼠腸が皿なめる癖
酢海鼠(すなまこ)   酢海鼠を隣りへ渡すさり気なく
甲羅煮(こうらに)   甲羅煮や椀からはみ出夕餉かな
蒸鮓(むしずし)    御馳走と蒸鮓仕度祭の夜
蕪鮓(かぶらずし)   作れない母が手際の蕪鮓
蕪汁(かぶらじる)   皮厚くへたそに見えし蕪汁
蒸饅頭(むしまんじゅう) 湯気話す蒸饅頭が旨いぞと
今川焼(いまがわやき) 行列が今川焼も今はなし
鯛焼(たいやき)    鯛焼や餡子かころも味左右
熱燗(あつかん)     熱燗を母へ教えし父の年
鰭酒(ひれざけ)    鰭酒や暖簾が香る宵の口
玉子酒(たまござけ)  玉子酒熱燗の汗冷める熱
生姜酒(しょうがざけ) 生姜酒喉に染み入る枕元
寝酒(ねざけ)     煙草もて寝酒ももてと酔うた父
葛湯(くずゆ)     口すぼめ母が差し出す葛湯かな
生姜湯(しょうがゆ)  生姜湯や喉元過ぎて香るかな
蕎麦湯(そばゆ)    判り出す蕎麦湯が味この店で
蕎麦掻(そばがき)   よく練れば蕎麦掻香る椀持つ手
夜鷹蕎麦(よたかそば) 発車ベル敢て立ち寄る夜鷹蕎麦
鍋焼(なべやき)    鍋焼うどん艶やかな色鍋つかみ
釜揚饂飩(かまあげうどん) テーブルへ載らぬ大きく釜揚饂飩
河豚汁(ふぐじる)   河豚汁は妻持つ疑問しびれない
葱鮪(ねぎま)     けふ知りて葱鮪の肉は鮪とは
三平汁(さんぺいじる) いれればいい三平汁を得意とす
薩摩汁(さつまじる)  湯気立つ鍋負けられぬ鶏薩摩汁
粕汁(かすじる)    純米吟醸旨味とコクが粕汁ぞ
けんちん汁(けんちんじる) 蒟蒻や細かく刻みけんちん汁
闇汁(やみじる)    若き日や白ネギだけが闇汁ぞ
鋤焼(すきやき)    鋤焼や牛肉を出す父の顔
桜鍋(さくらなべ)   妻ねだる手に入らぬが桜鍋
牡丹鍋(ぼたんなべ)  豚肉や猪より旨い牡丹鍋
成吉思汗鍋(じんぎすかんなべ) 成吉思汗鍋士幌の町の旨さかな
寄鍋(よせなべ)    寄せ鍋と具味変わらず水炊きと
ちり鍋(ちりなべ)   ちり鍋や長ネギたっぷり鱈の味
鮟鱇鍋(あんこうなべ) 鮟鱇鍋つるりと少し腹八分
石狩鍋(いしかりなべ) 腕自慢鮭が入れば石狩鍋
薬喰(くすりぐい)   薬喰言わず食べたし肉の味
おでん         大根や見ればメニューぞおでんなり
湯豆腐(ゆどうふ)   湯豆腐や年取り判る苦汁加減
冬構(ふゆがまえ)   風が吹く急かされ縛る冬構
北窓塞ぐ(きたまどふさぐ)  この景色北窓塞ぐ味気なき
目貼(めばり)     目貼せど隙間ぞ多き我が庵
霜除(しもよけ)    このあたり霜除はがし芋を掘り
風除(かぜよけ)    風除や新聞押さえ昼下がり
藪巻(やぶまき)    藪巻や未だ新しき縄の色
雪吊(ゆきつり)    雪吊や広がり渡る縄投げる
炬燵(こたつ)     炬燵より出る気が湧かぬテレビかな
火鉢(ひばち)     股火鉢信楽焼が鼻を曲げ
湯湯婆(ゆたんぽ)   湯湯婆湯や母は温もりそっと入れ
炉開(ろびらき)    炉開や去年が匂いにはやる気よ
囲炉裏開く(いろりひらく) 囲炉裏開くお昼が前に一仕事
敷松葉(しきまつば)  石灯籠強き葉香り敷松葉
口切(くちきり)    お茶壷道中口切役へ渡し終え
口切茶事(くちきりちゃじ) 口切茶事先ずは拝見床の壺
橇(そり)       暦より遅れてけふは橇おろす
冬耕(とうこう)    冬耕や父振り上げる四本鍬
蕎麦刈(そばかり)   静けさや蕎麦刈る音が切れ切れに
大根引(だいこんひき) 北風に追われる如く大根引
大根干す(だいこんほす) 大根干す笛を鳴らすや稲架の竹
切干(きりぼし)    切干や母が味する銀杏切り
蕪引(かぶひき)    長靴や孫の手伝い蕪引き
干菜(ほしな)     漬け終りほどかず吊るす干菜かな
蓮根掘る(はすねほる) 蓮根掘る水の冷たきポンプかな
麦蒔(むぎまき)    ふわふわの畝に麦蒔き暮れゆけり
フレーム        胡蝶蘭フレーム占めて連なりぬ
狩(かり)       猪狩や草に纏われ声も出ず
猟期(りょうき)    鉄砲と派手なベストが猟期なり
猟夫(さつお)     夕暮れや鋭眼もどす猟夫かな
猟犬(りょうけん)   猟犬をほーいとほーい木霊呼ぶ
網代(あじろ)     さざ波とながれ任せる網代かな
竹瓮(たっぺ)      竹瓮浮く大石探す砂利が底
泥鰌掘る(どじょうほる) 逃さぬと羊羹の如泥鰌掘る
棕櫚剥ぐ(しゅろはぐ) 背が伸びた棕櫚剥ぐ力生かしけり
馬下げる(うまさげる) 馬下げる厩が温度馬の息
紙漉き(かみすき)   ちゃぷちゃぷとけふの音聴き紙漉きぬ
紙干場(かみほしば)  陽に当たる白さ冴えたり紙干場
紙漉女(かみすきめ)  華奢な腕リズム崩さず紙漉女
楮晒す(こうぞさらす) 楮晒す冷たき風の棘の如
焚火(たきび)     温もりは手のひらよりと焚火かな
落葉焚(おちばたき)  白い煙だんだん黄なる落葉焚
木の葉髪(このはがみ) 仕事より恋を邪魔せし木の葉髪
文化の日(ぶんかのひ) 憲法より勲章が記事文化の日
勤労感謝の日(きんろうかんしゃのひ) 勤労感謝の日我働きて誰の日ぞ
十日夜(おおかんや)  十日夜我が家の神は酔いつぶれ
七五三(しちごさん)  子の丈や糸をほじきて七五三
千歳飴(ちとせあめ)  ぶら下げる膝の高さに千歳飴
牡丹焚火(ぼたんたきび) 炭の山牡丹焚火が香る宵
神の旅(かみのたび)  寒そうとフリース詰めて神の旅
神迎へ(かみむかえ)  鴨居の上供え甲斐あり神迎へ
恵比須講(えびすこう) 絹網ですくいし鮒や恵比須講
酉の市(とりのいち)   縁のない遠くの神社酉の市
一の酉(いちのとり)  熊手持ち通り賑やか一の酉
二の酉(にのとり)   二の酉や熊手にビニール夜の雨
三の酉(さんのとり)  餃子屋が二階に集う三の酉
熊手(くまで)     枯葉舞う熊手担いで婿が庭
十夜(じゅうや)    僧の嫁幾度も運ぶ十夜粥
芭蕉忌(ばしょうき)  桜庭や紅く染まりて蛤塚忌
白秋忌(はくしゅうき) あの歌を口ずさみたき白秋忌
波郷忌(はきょうき)  波郷忌や悩み持つ友訪ね来る
一葉忌(いちようき)  詠み終えて焼くやステーキ一葉忌
冬眠(とうみん)    冬眠の熊がゐるぞと山にいる
熊穴に入る(くまあなにいる) 熊打ちや熊穴に入る山に入る
隼(はやぶさ)     隼や影と競ひて江戸に着く
鷲(わし)       音もなく鷲が羽搏き飛びたてり
木菟(みみずく)    木菟や今宵の茶の間に入り込み
柳葉魚(ししゃも)   炭弱火あれこれ云ひて柳葉魚焼
蟷螂枯る(とうろうかる) 蟷螂枯る景色になじむ色になり
冬の虫(ふゆのむし)  冬の虫何処に潜む鳴きてみよ
帰り花(かえりばな)  帰り花おぼしき花が多き森
侘助(わびすけ)    妻の母床壺に活く侘助ぞ
山茶花(さざんか)   刈り込まれ山茶花縮み咲く垣根
八手の花(やつでのはな) 天狗持つ八手の花が白きなり
柊の花(ひいらぎのはな) 刺々し柊の花寄せつけぬ
茶の花(ちゃのはな)  見つけるは寒き夕方お茶の花
枯芙蓉(かれふよう)  枯芙蓉風のリズムがからからと
青木の実(あおきのみ) 青木の実紅がほんのり夕間暮れ
蜜柑(みかん)     寒さ増し蜜柑の甘さ増しにけり
仏手柑(ぶしゅかん)  仏手柑や幸運招く黄色かな
橙(だいだい)     橙や新旧まぜて生りにけり
朱欒(ザボン)     厚い皮いと剥き易き朱欒かな
冬紅葉(ふゆもみじ)  息切らす階段半ば冬紅葉
紅葉散る(もみじちる) 紅葉散る瞬間狙い待つ時間
落葉松散る(からまつちる) 落葉松散る下駄で階段下る朝
木の葉(このは)    木の葉舞う風の下より掃けぬ暮
落葉(おちば)     落葉より木の実を探す子供栗鼠
朴落葉(ほおおちば)  朴落葉筆をしたため切手貼る
銀杏落葉(いちょうおちば) フィナーレと銀杏落葉舞い散りて
冬枯(ふゆがれ)    冬枯れやサナトリウムへ道一人
冬苺(ふゆいちご)   冬苺供えさびしや吾子の墓
冬葵(ふゆあおい)   冬葵母が躾の糸を切り
カトレア        カトレアと撮りて鏡を磨きけり
枯菊(かれぎく)    枯菊や匂ひ放ちて焚き終えぬ
枯蓮(かれはす)    枯蓮や茎の鋭き水に伏す
枯芭蕉(かればしょう) 草を食む首を垂らして枯芭蕉
白菜(はくさい)    白菜が上赤鮮やかな鳳来肉
芽キャベツ(めきゃべつ) 店頭へ芽キャベツ見つけ苗を買え
葱(ねぎ)       葱ぱらり彩大事みそ汁へ
大根(だいこん)    大根や夜の寒さに白々と
蕪(かぶ)       味噌汁へ煮たてずさつと香る蕪
セロリ         年ととも慣れか失せたかセロリの香
カリフラワー      カリフラワーブロッコリーとは異なるぞ
ブロッコリー      ブロッコリーあれにはなれぬ色失せど
寒竹の子(かんちくのこ) 寒竹の子末は釣り竿傘の柄か
麦の芽(むぎのめ)    谷挟み丘へと続く麦の芽よ
石蕗の花(つわのはな) 荒れ草や主なき屋敷石蕗の花
新海苔(しんのり)   新海苔や舟に一杯飛沫あぶ
榎茸(えのきだけ)   繊維質今朝の味噌汁榎茸

NHK俳句附録 俳句手帖より

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