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教育格差を乗り越えるには小2が大事。
10年ほど前に教育ジャーナリストとして活動していたころ、Wordpressで「教育レポート/edurepo」というブログで、出版社や雑誌が受け付けてくれない「教育格差」に関する取材記事や体験レポートを書いていた。
今は大阪市の一区長として、インスタやTwitterをやってはいるが、長文でしっかり伝えたいこともあるのでnoteを始めてみることにした。
『教育格差―階層・地域・学歴』は必読。
この本を、区内の校長や他の区長に推しまくっている。学校現場や教育施策を作る人たちの間で感覚的に語られていたことが、容赦なくデータで描かれている。必読・必携。
塾講師時代からずっと「経済格差が教育格差になる理不尽」をどうにかしたいとジタバタし、教育ジャーナリストから小学校の民間人校長になり、教育委員会に呼ばれ、どうにもできず「結局は入り口と出口=福祉&保育と就労支援をやらんとあかん」と悟って区長になって3年目。
今は、大阪市の教育施策に関わりつつ、区内の公立小中学校を「区担当教育次長」としてフォローする立場となった。今は、年に一度の学校まわりの真っ最中、19小学校と8中学校を巡回し、校長先生と1時間ほど面談している。
『教育格差』を読んだ時、隣の天王寺区や阿倍野区から環状線の内側に入った瞬間、一部の小学校を除きガクッと下がる全国学力テストの結果とすぐに結びついた。
どの学校も2極化が激しく、下位層は小6にして「学び」からすでに降りてしまっている。中学に入り、新しい制服に身を包んでしばらくはやる気を見せるが、すぐに壁にぶつかる。
「四則計算」に固まる中学一年生
「正の数・負の数」の考え方やルールは理解できる。でも、小数・分数の交じった四則計算そのものが、すでにできない。
小4から中3までを教える塾講師(担当は国語)だったので、よく知っている。「中1の1学期中間テスト」は、最も簡単で点が取りやすい。みんなが高得点を取る中、小学校で習得すべき基礎学力がついていない子が、中学校生活における「学び」を本格的に諦めはじめる。
中学校を訪問すると、教室を回らせてもらう。不登校も多い。寝ている子も目立つ。教師が起こさない理由は「来ているだけでスゴイ」「邪魔しないでくれているだけマシ」など、それなりにある。
塾講師時代の私なら、憤ったと思う。生徒を寝かせたままにしている、教師の怠慢に対して。でも、今は違う。公教育の現場の「学び以前」の奮闘を3年間体験してしまうと、それぞれの生徒の事情を聴かないうちは、何も決めつけられない。
小学校の民間人校長を3年間やった。預かった1年生をまっすぐ伸ばせば、確かな学力をつけて可能性が開くと信じていたからだ。今も信じてはいる。ただ、それほど簡単なことではなかった。
小学校の「自転車操業」の実態
1年生は、まさにピッカピカだ。『教育格差』では「就学前にすでに差がついている」という指摘もあるが、小1~3年生までに乗り越える可能性はまだ残されている。学ぶ意欲に満ちあふれ、先生の言うことを懸命に聞き、前向きだ。
学校も1年生の担任にはベテランや、しっかりした先生を充てることが多い。幼児から小学生にするための、大事な時期だから。(公立小学校の集団教育や規律を守らせようとするやり方の是非は今は置いておく。)また、保護者も不安な時期なので、対応ができる教員をあてたり、複数クラスあれば学年にしっかりした先生を入れて体制をつくる。
これが、小2・小3となるとかなり校内体制は厳しくなる。若手教員が増えすぎて、指導できる教員も少ない。
40代、20年で半分以下 公立小教諭のいびつな年齢構成 教員間暴力の背景か https://t.co/oL08AEfSiO そりゃあ試験が厳しかったもの。「加害行為を主導したとされる男性教員2人は、ともに30代ながら学校運営でも中核的な立場を与えられ、校内で一定の力を得ていた」。
— 舞田敏彦 (@tmaita77) November 24, 2019
生野区内には単学級を持つ小学校が13校ある。担任が倒れ、校長室に入ると「6年の授業の予習をやってるんです」と教材を広げていた。管理職が教室に入らないと、学校が回らない。以前は新任は単学級には来なかったが、今は隣のクラスが無い心細さの中で、学年主任を兼ねている。
区内に限らず知り合いの校長は多いので、こんな話をよく聞く。
「5・6年が荒れてる学校は、いい先生をそこに送るしかない。小1も力のある先生を入れる。そうすると、大事だとわかっていても小2・小3に若い教員や力の弱い先生をあてざるを得ない。そこで学校に慣れてきた小2が、やんちゃしはじめる。さらに、家庭も1年生の時ほど気にかけなくなってくる。
そのうち、学習内容も難しくなってきて勉強がわからなくなると、面白くなくなって暴れ出す。小3になると、ギャングエイジに入ってくる。力の弱い先生だと抑えきれないまま、その子たちが高学年になる。結局、荒れた高学年に力のある先生を入れるしかなくなる……と、自転車操業なんですよ。」
今、全国で小2や小3の担任をしている教職員が全員そうではないし、各学年ごとに経験何年の教員が担任しているのか、エビデンスを得る働きかけはしている。
ただ、全体的に若い教員が増えていることは事実であり、多忙の中でこどもに向き合う余裕が無くなっている、成長に使う時間や環境が不足しているのはすでに知られている通り。
学校批判より、若い教師をどう育てるか、多忙な学校をどう支援するかにエネルギーを使ってほしい。
少しでも、できることをやるしかない
毎月、区内の小中学校の校長先生に「教育だより」と共にメールを送っている。その中で『教育格差』を紹介し、このリンク先だけでも読んでほしいと送った。
そして、鍵は低学年のフォローにあるとも伝え、今の教職員の年齢構成で「すべてのクラスに力のある先生を入れる」ことがどうしても難しいのは理解しているけれども、習熟度別クラスの担当者や少人数指導にベテランを入れたり、科目によっては専科講師を入れたりして、校内体制で補完してほしいというメッセージを送っている。
放課後の学習支援に取り組む学校も多いが、高学年が対象のこともある。私も校長時代に5・6年生対象の個別指導をLearning for Allと連携して導入したが、長期的な視点でいけば低学年にもフォローが必要だったかもしれない。
校長当時のブログをそのまま残してある。この塾で格差を乗り越えた子を知っている。学校との連携ができたから、効果が高かった。塾講師の経験から行くと、高学年も中学生も決して手遅れではないと、今も自分では信じている。
でも、やはり低学年それも「小学校2年生」がカギだと、現場でうっすら感じていたことを『教育格差』のデータで見せつけられ、校長や教職員のヒアリングも重ねてそう確信している。
この本を読み、区担当教育次長として私がやるべきことは「教員の働き方改革と学校再編」、区長としては「家庭への啓発と『まちの教育力』の向上」だと確認した。
シンプルに教員がもっと授業に向き合えるように支援したいし、提言も続けたい。学校再編は、数年前までは「単学級・少人数ではこどもの教育環境として適正でない」という理由がメインだったが、今は強く「隣のクラスもない中で若手教員は育たない」と訴えたい。専科講師を置く、習熟度別クラスを低学年から機能させるには、複数クラスにして人員に余裕を持たせないと厳しい。
※校長先生たちには『こどもの貧困に学校は何ができるか?』を特集したこの号をおすすめしたい。
学校だけに責任を押し付けるのではないけれど、公立小学校がセーフティネットになってしまっている現状も知っている。家庭への啓発や「まちの教育力」とは何ぞや、そもそも日本の公教育はこれでいいのか問題など、この話はいくらでも取っ散らかることができるので、今日はひとまず「小2めっちゃ大事やで!」と伝えて終わっておきたい。