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療育の効果 ―近年の研究から―

今回は,発達障害など困り感のある子どもに対し療育で早期介入することにはどんな意義があるのかについてご説明します.児童発達支援をしている保育所やデイサービスなどに子どもを通わせても結局何も変化がないのなら通わせる意味はありません.ですが,発達障害への関心の高まりとともに実践例も増えてきており,様々な研究がおこなわれています.そのうちのいくつかをご紹介します.

医療機関から見た,発達障害児への療育介入


 発達障害の認知が広まる中,総務省が平成29年に行った調査では発達障害児を診療する専門的医療機関のうち,半数以上が初診待機日数3~6か月で,最長10か月の例もあることが分かっています.つまり,子どもの発達に不安を持っても,(特に乳幼児~幼児期の数か月は成長にとって非常に重要であるにもかかわらず,)アセスメントと支援への接続に長い時間がかかってしまうということです.そこで,この研究では療育が専門ではない医療機関の介入だが,そうした介入がどのような効果を生むのか,その課題は何かを考察しています.
下のグラフは厚労省の「発達障害児者の初診待機等の医療的な課題と対応に関する調査」報告書で示された分布ですが,中央値は3か月で同様の結果が示されています.

ある県での初診待機日数の分布


 自閉症スペクトラムやADHDと診断された児童に対し,プレイルームや診察室で診察・助言を行い,理学療法士や作業療法士,言語聴覚士によるリハビリテーションも実施し,その効果を検証しています.結果,1年以上継続して通院した子ども185名のうち中断したのは30名のみで,適切なサポートの効果を感じて利用し続ける人が多いと考えられ,また1年未満で中断した人の中で個別の支援が必要だった子どもは30%で,支援の必要がなく中断した人が多いということでしょう.

参考論文より


 一方,やはり医療機関だけの対応は難しいことも指摘しています.アセスメントから支援全てを医療機関が担うことは人的・時間的制約が厳しく,医療と福祉的サービスが連携していくことの重要さが伺い知れます.それに,発達障害などによる困り感は園などで周囲の子どもと生活する中で表出しやすく,そこで気づき,適切な診断と支援を行う重要さからも療育機関での支援が今後ますます必要とされるであろうことが分かると思います.

参考:発達障害児に対する領域介入の現状と課題 ―療育専門機関ではない医療機関の視点から―,脳と発達 2019;51;380-5

作業療法士による発達障害児への療育の効果


 この研究では,実際に現場で行われている認知行動療法とその効果について紹介しています.
 児童発達支援センターに通う4歳の男児は自閉症スペクトラムの診断を受けており,普段友達の持っているおもちゃを引っ張ったり叩いたりして奪うという課題感がありました.このことを応用行動分析で使われる三項随伴性(どんな状況で・どんな行動によって・どんな結果になったか)で考えると,「他人のおもちゃが欲しいときに」「暴力的な行動で」「無理やり奪う/失敗する」となり,他人からどのように物をもらえばいいのかが未学習であると想定されます.そこで,「『ん~ん』と言って手を出す」という適応行動を身につけるための支援を行ったところ,問題行動は大きく減少し,周囲とうまくやりとりができるようになっていきました.



 次の事例は放課後等デイサービスに通う4年生の女児で自閉症スペクトラムの診断を受けている子どもの事例です.友達が本を読んでいる際に「貸して」と声をかけることはできます.しかし,断られた際にイライラしてしまい,時々叩くといった行動も見られます.先ほどの例と比べると,欲しいということを他人に言葉で伝えることはできますが,その人が本を読んでいて譲りたくない状況であることへの理解ができていないと考えられます.そこで要求を断られるような状況を想定してロールプレイを実施し,相手の状況を観察して行動選択ができるように支援を行いました.その結果,同様の場面でイライラすることが減り,適切なコミュニケーションが促されました.

 適切なアセスメントがされないと「友達のこと叩いちゃダメでしょ!」「他のおもちゃで遊びなさい」「読んでるんだから貸してもらえないのは当たり前でしょ」と言われて終わってしまうような状況も,専門的な支援によって改善される可能性があります.未だ障害の原因や介入方法は完全に解明されているわけではありませんが,支援については研究が進んでいます.常に新しい情報を取り入れ,実践していくことが重要です.

参考:児童発達支援事業と放課後等デイサービスにおける発達障害児に対する支援効果 桜美林大学研究紀要 人文学研究 第2号

ここまでお読みいただきありがとうございます.今回は療育の効果についての研究をご紹介しました.専門的な介入を行っていくことによって普段の生活での困り感を軽減し,楽しく周囲の友達と過ごすことが出来るようになることができます.そのために近年ではニーズの増加とともに医療機関や支援施設も増えて支援の在り方も多様になってきています.是非一度ご相談ください.

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