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9割の人が知らない「持ち家VS賃貸論争」の盲点

 衣食足りて礼節を知るという言葉がある。では住居が足りると私たちは何を知れるのだろうか。私は持ち家率日本トップのとある県に住んでいる。しかしながら住宅を所有することにあまり私自身は大義も意義も意味も感じていない。

 持ち家か賃貸かという論争は本当に昔から展開されている。およそ100年前である大正五年(西暦1916年)に経済雑誌『実業之日本』で特集記事が組まれているほどだ。

 このような二項対立を考える一つの方策として、それぞれの極論に振って考えてみよう。例えば、20年後に購入した元の値段で売却できることが確定している好立地の住居を3000万円の価格かつ固定の低金利ローンで購入できるのであれば、私は購入を前向きに検討するだろう。逆にターミナル駅近く・3LDK・築浅の物件が敷金礼金無しで月3万円で借りられるならば、その物件を借り、住宅購入に充てるはずだった資金は別の投資に回す選択を採るだろう。

 これをお読みのあなたも「この条件だったら迷わず家買うな」「この条件だったらこの賃貸で暮らすな」の2つを考えてみてほしい。それぞれに答えが見つかるはずだ。そう、持ち家・賃貸論争には大事な前提が思いっきり抜けているのだ。世の中には各人にとって「適正な賃貸」「適正な持ち家」「適正でない賃貸」「適正でない持ち家」が入り混じっているのである。そして、ある人にとって適正であっても別の人にとっては不適正である物件も存在するのである。

 持ち家であれば、購入する持ち家が資産として本当に適切なものであるかどうか。賃貸であれば、賃貸し続けることによる費用対効果が適正かどうか。そしてどちらの場合においても、収支状況やリスクへの備えに問題がないかどうかが大事なのである。適正かつ問題なければどちらでもいいのだ。

 大枠として、「収支状況・リスク対策・資産価値・費用対効果が適正であればどちらでもいい」という結論に至るわけだが、それを踏まえたうえで、もう少し話を掘っていこう。上記4点において、持ち家よりも賃貸の方が把握や調整が楽だと個人的には思っている。

 日本における持ち家に関するリスクは非常に大きい。西日本の豪雨被害が毎年のように報道されているし、台風や地震や火災により多くの建造物がおしゃかとなっている。さらに言えば、大きな災害がなくとも老朽化は進んでいく。高温多湿の日本では、住宅を傷める湿気やカビを完封することは現代の技術をもってしても未だ難しい。修繕費もどれくらいの金額がいつかかるか全くわからない。欧州などは築100年の住宅が現役として住宅市場で価値を持つという話もあるが、その国土における気候と建築資源による部分が非常に大きく、日本の住宅は日本の卵と同様、大変賞味期限が短いと言っていい。(アメリカなどでは生食ではなく加熱調理を前提としているため、卵の賞味期限は日本の卵より長めに設定されている)

 転勤や事業再編により住宅を移らざるを得ない事態に陥る恐れがあるのも持ち家のリスクの一つと言える。「持ち家派」の方々はそんな場合、購入した住宅を賃貸に回せばいいと簡単に仰るが、空室のまま店子が入らない、いわゆる「空室リスク」もあることを忘れてはならない。売却するにも買い手を見つけるまでに時間がかかる。不動産は資産の中でも特に売却に時間がかかるということは覚えておいたほうがいいだろう。

 さらに、不動産には固定資産税がとられる。固定資産税はまあいいとしても、私が最も理解に苦しむのは購入時はさらに消費税がかかることである。土地は非課税だが、建物の家が2000万円すれば200万円が持っていかれる。住宅って資産じゃないの?消費なの?馬鹿なの?何も悪いことをしたわけでもないのに持ってかれるわけだ。子供のために家を買うという理屈ならその200万円を運用しておいて教育に充てたほうが子供のためになりはしないだろうか。

 破産事件及び個人再生事件記録調査という資料によれば、破綻した負債の原因の1位は「生活苦・低収入」2番目は「住宅購入」となっている。一応、住宅ローンによる税金の控除があるが、住宅取得支援がらみの給付金と合わせてようやくギリギリ消費税分である住宅価格の10%がチャラになるかどうかの額くらいしか戻ってこない。マイホームの夢で目を眩ませて徴税をごまかしているように感じるのである。(個人の感想です)

 一方で賃貸の家賃は非課税である。賃貸物件に住んでいる方々のほとんどはなんとなく家賃を払っていると思うが、そこに消費税はない。急な転勤や転職や失業に対する機動力は賃貸の方が圧倒的に強い。新型コロナウイルスの感染拡大でも顕現したように、予想しなかった収入減の影響に対してだって、賃貸であれば住まいを変え、固定費を削減する策をとることだって可能だ。

 さらに人間の特性として、金額の割安か割高かの判断は最初に提示された価格が基準になってしまうという癖がある。心理学などでは「アンカー効果」・「アンカリング」と呼ばれている。具体例を挙げれば1000万円単位の買い物をする際、10万円のオプションをつけることにあまり躊躇しなくなるのだ。普段の生活において10万円というのは破格の出費である。私の普段の支出の約1か月分だ。ただし基準点が1000万円になったとたん大した金額でない様に脳みそが錯覚してしまう。住宅の購入にはこういった魔が潜んでいる。

 持ち家は資産とセールストークされるが、売りつけられるその住宅は資産に値する持ち家なのかは綿密に精査し熟考しなければならない。
 しかし、現実として大半の家、特に現代日本において庶民が購入できるような家は、資産と呼ぶには力不足なのである。耐久消費財と呼んだ方がふさわしい。消費税はかかるし、価値は減っていくし、修繕が必要な個所は増えていく。「一国一城の主」「家を持って人間は一人前」なんてのは前時代の戯言。賞与に税金が課されず、消費税も無く、社会保険料も非常に軽かった時代を生きることができた古い人間の妄想に過ぎないと思うわけだ。(個人の感想です)

 我々は持ち家か賃貸かの二択を選んでから住居を選ぶのではなく、それぞれにとって適正かつ相応しい住居を持ち家・賃貸すべての可能性を含めた選択肢から選ばなければならないのである。

参考文献
◎『会社苦いかしょっぱいか』パオロ・マッツァリーノ 著
◎『マンガでわかるシンプルで正しいお金の増やし方』山崎元 著・飛永宏之 作画
◎『正直不動産』大谷アキラ 著・夏原武 原案・水野光博 脚本
◎『2017年破産事件及び個人再生事件記録調査(2)【データ編】破産事件記録調査』日本弁護士連合会
◎『予想通りに不合理』ダン・アリエリー著・熊谷淳子訳

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