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プルーストとイカ 読書は脳をどのように変えるのか?

プルーストとイカ 読書は脳をどのように変えるのか?


非常に高度で専門的な内容であった本書。
著者は、7年という歳月をかけて歴史、文学、言語学、教育学、脳科学、あらゆる側面から「読むこと」を深く掘り下げている。
読み進めていて驚いたことは、著者自身の子どもがディスレクシアであること、そして、祖先から続くディスクレシアの遺伝的な家系であるということだ。

本書は、人類が歩んできた読字の歴史から始まる。そして、子どもがどのように読み方を覚え、その時に脳はどのように発達していくのか。また、熟練した読み手となった脳もまた、どのように変化していくのか。そこから脳が読み方を学習できない場合=ディスレクシアについて言及されている。最後は、本からインターネットへの時代の流れが何を失い、何を獲得するのかについて述べられている。

「読字発達に終わりは存在しない」(P.243)
文字を読み続けている限り、脳は変化し続ける。

ディスレクシアの長男を考える書籍としてだけでなく、「読むこと」がいかに大切なのか、本書からはそのことを学ばせてもらった。


以下、メモとして残したい。

5歳までの読み聞かせの重要性

言語面で恵まれていない家庭の子どもたちと言語の刺激を受ける機会が豊かな家庭の子どもたちが耳にする単語の数には、幼稚園に上がるまでに早くも3200万語の開きが生じると確認されている。

プルーストとイカ 読書は脳をどう変えるのか」P.89

著者は、幼児期の読み聞かせの重要性および家庭でのコミュニケーションが言語発達に与える影響と可能性について触れている。
生まれてから5歳になるまで、語彙力にどれほどの差が出るのかという点が非常に興味深かった。

早期に「読み」を覚えさせることの危険性

一方で、「早期に読ませること」についての危険性について言及している。

五歳で読み方の勉強を始めさせたヨーロッパの子どもたちの読字能力は七歳から始めた子どもたちに比べて劣ると確認された。この研究から導き出せる結論は、四、五歳に達する前から子どもに読み方を教えようといくら努力しても、多くの子どもたちにとっては生物学的に尚早であるどころか、逆効果を招くおそれさえあるというのだ。

プルーストとイカ 読書は脳をどう変えるのか」P.145

脳の発達段階から考えると、早期に読み書きを覚えさせることは逆効果にもなりうる。また、男女別でいえば、女児の方が流暢に読めるようになるのが早く、男児の中には特に遅い子がいるという。

[…略…]八歳頃までは、時間制限を設けた多くの課題を、女児が男児より速くこなしている。

プルーストとイカ 読書は脳をどう変えるのか」P.145


ディスレクシアや障がいから考える多様性

人類が読む能力を獲得した瞬間からディスレクシアが生まれた。
「読み書きを必要としない社会」であれば、ディスレクシアという障がいはなかった。社会のあり方が、障がい者をつくる。それは、ディスクレシアに限らず、すべての「障がい」に当てはまること。
だからこそ、社会は集団から生まれる特異に対して、様々なニーズを満たす方法を生み出すことができるし、その必要がある。そして、それはこれからも続く。
そのことを改めて考えさせられた。

「それから、ADHDーあなたは衝動的で、教室でもじっと座っていられない。これは戦場の反射神経よ。本当の闘いになったら、そのおかげで生き延びられるんだわ。注意障害はね、パーシー、ものが目に入らないからじゃなくて、何でも見えすぎてしまうから。あなたの五感は普通の人間よりも優れているの……現実を認めて。あなたは人間とポセイドンのハーフなのよ。」
                       ――リック・リオーダン

プルーストとイカ 読書は脳をどう変えるのか」P.291

[…略…]人間がさまざまなニーズを満たせる社会を形成できるのは、ひとえに、遺伝子が与えてくれる長所と短所が多様だからである。一見、遺伝子的な才能と文化的な弱点が乱雑に入り交じっているようなディスレクシアも、人間の多様性の一例だ。人間の文化があらゆる才能に恵まれているのも、この多様性のおかげである。

プルーストとイカ 読書は脳をどう変えるのか」P.332


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