冷静に見極める必要があるウクライナ情勢

冷静に見極める必要があるウクライナ情勢  2022年2月23日に掲載

 プーチン大統領は21日(日本時間22日未明)、ロシア系住民の多いウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州のロシア国境に接する地域の独立を承認した。「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」となった両国代表からの平和維持軍派遣要請に応えて、所属不明としているがロシア軍を派遣している。ただウクライナ東部のロシア系住民がウクライナ軍から攻撃されているとの主張は怪しい。

 実際には危機感が一気に高まり欧米諸国のマスコミは「プーチン批判」の嵐であるが、ここで日本は「中国の出方」も含めて情勢を冷静に見極めなければ大局を見失い、国策を誤る。とくに岸田政権が「親中」として警戒されているところに15日に「親中の代表である」林外相がロシアとの経済協力について担当大臣と会談したため(もちろん岸田首相も承認していたが、あとで得意の「聞いていなかった」が出そうである)、米英諜報機関からの情報が「はっきりと制限」されている。

 日本時間22日夜、緊急のG7外相電話会議が行われたが、当然に重要な情報は提供されていない。林外相は「ロシアに厳しい対応を」と主張したそうであるが、失笑を買ったはずである。こうして国益が損なわれていくのである。

 別にプーチンの肩を持つつもりはないが、ロシアによるウクライナ侵攻は以前から繰り返しているように、戦争をビジネスチャンスにするネオコン(米軍事産業とそれに癒着する大物政治家)がNATOの東方拡大でプーチンを挑発したものである。2003年に「大量破壊兵器がある」と出鱈目をでっち上げてイラク戦争を開始した状況と同じである。当時はブッシュ(息子)政権のチェイニー副大統領がネオコンそのもので、フセインが「仮想敵」に仕立て上げられた。「フェア・ゲーム」という2010年の米国映画が正確に描いている。

 当時の「大量破壊兵器」を「(無垢の?)ウクライナへの侵攻」、フセインをプーチン、チェイニーを「オバマ政権時のヒラリー国務長官直系のブリンケンとサリバン」と読み替えればよい。とくに不動産業界出身のトランプ前大統領はネオコンと関係がなく、その任期中は新たな戦争がなくネオコンは干上がっていたこともある。

 それに人気が低迷するバイデン(自身もネオコンであるが末席)、同じく失政続きのジョンソン英首相、4~5月の大統領選挙で「落選確実」のマクロン、メルケルと比べて全くパッとしないショルツ独首相らが「人気取り」に利用している構造でしかない。

 もちろんプーチンもそれらの状況を「しっかりと」利用して自身の地盤と勢力を拡大させようとしている。プーチンはウクライナがNATOに加盟することと、ロシアと国境を接する国に大量の米軍と核兵器が配備されることだけを排除できればよい。究極のケースでは豊かな穀倉地帯で地下資源や兵器を含む重工業産業が揃うウクライナを併合することも視野に入れているはずであるが、それはまだまだ先の話である。当面は親ロシア政権を誕生させる工作を水面下で続けるはずである。

 つまり「現時点」でもプーチンはウクライナ全土に侵攻するとは思えず、出来るだけ欧米を挑発して自身とロシアの立場を有利にすることが「当面の目的」と考える。

 そもそもウクライナこそロシア人(ルーシ人)発祥の地であり、旧ソ連時代にウクライナ出身のフルシチョフとブレジネフが(自身の勢力基盤とするために)自治を認めたため、旧ソ連の崩壊と同時に辺境にある諸国と共に独立してしまった経緯がある。これはプーチンがテレビ会見でロシア国民に語り掛けていた通りである。

 プーチンは2014年に親ロシアのヤヌコビッチ政権が市民運動で倒れた瞬間にウクライナに侵攻し、ロシア唯一の不凍港であるセバストポリ(ここはロシア海軍が租借していた)を含むクリミア半島を併合し、今回「独立した」東部2州を実行支配していた。どちらもロシア系住民が多く、クリミアは今回と同じくクリミア州政府(当時)の要請を受けて平和維持軍を派遣し、国民投票を経て併合している。繰り返しであるがプーチンに「今すぐ」ウクライナ全土の侵攻するメリットは少ない。

 それでは、先述の「ネオコンの思惑を逆に利用して自身の地盤と勢力を拡大する」以外の、プーチンのウクライナ東部独立承認の背景は何か? いくつかポイントがあるが2つだけ挙げておく。

 まず20日にホワイトハウスが「ロシアがウクライナを侵攻しない限り米ロ首脳会に応じる用意がある」と上目線で発表したことがある。「功を焦る」マクロンの仲介である。今回の「独立国」は、理屈の上ではウクライナではなくなるためロシア軍を派遣してもウクライナ侵攻とはならない。バイデンは自分の「人気回復」だけが目的であるため、ここで米ロ首脳会談を取りやめて経済制裁を発動することは難しい。当分の間ロシアとの交渉窓口が閉まり「またバイデンの失政」となるからである。実際にバイデンは「独立国」への投資とビジネスを禁止する大統領令に署名しただけである。完全にプーチンに見透かされている。

 次に「原油、天然ガスなどエネルギー価格をさらに高値で安定させるため」が考えられる。2014年のクリミア併合以来、資源価格とくに原油などエネルギー価格の長期低迷と欧米諸国の経済制裁でロシア経済はボロボロになった。最近の原油など資源価格の高騰でようやくロシア経済は息を吹き返していた。今回の独立承認で原油価格はその2014年以来の高値となっている。

 そこに「産油国」の米国がバイデンのフラッキング制限でシェール産油量が伸び悩み、何よりも欧州諸国(とくにドイツ)が行き過ぎた代替エネルギー化でロシア産天然ガスに依存せざるを得なくなっているなど、危機感でさらにエネルギー価格が上昇する需給関係である。またルーブル安もロシアの貿易構造から有利に働く。日本の円安と逆である。

 ドイツのショルツ首相などは天然ガスの海底パイプライン「ノルドストリーム2(もう完成している)」の使用開始手続きを中断させたが(使用開始の中断ではない)、そんな強気を続けられる国内エネルギー事情ではない。とくに天然ガスはスポット価格が1年前の10倍になっているが、実際は大半が長期契約で欧州諸国はスポット価格より「かなり安く」輸入している。経済制裁でロシア産天然ガスの輸入を止めてしまったら、困るのは欧州諸国である。ちなみに資源国のウクライナも天然ガスはロシアから輸入している。

 最後に日本の取るべき方法は何か? 外務省幹部は「ウクライナは遠い(だから心配はない)」と自民党の部会で平然と言い放ったそうである。一事が万事であるが、1853年のクリミア戦争が同年のペリー来航を招いたように(ペリーは抜け駆けだったが、間もなく英仏ロ軍艦も来航している)必ず東アジアの動きが激しくなる。少し前からであるが日本近海で中国とロシアが共同作戦に出ているが、さらに強化されることは間違いない。米軍は(ネオコンは)中国との「正面衝突」は望まない。だから中国との関連が少ない(実際はそうではないが)ウクライナに戦略を集中させている。

 日本は独力で中国にもロシアにも対峙しなければならない。少なくとも岸田政権はその覚悟を見せなければならないが、どう考えても絶望的である。このままだと今回のウクライナ騒動の最大の被害国が日本となる。

2022年2月23日に掲載