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有事の際の自衛隊指揮権はどこにある?  【2回目】

有事の際の自衛隊指揮権はどこにある?  【2回目】


 前回は在日米軍の権限強化による(ほとんど指摘されていない)自衛隊のリスク、ひいては日本のリスクについて解説した。すべて「憲法改正による自衛隊の国軍化」「日米安保条約のさらなる深化」「日本の軍需産業の強化」「非核三原則の修正による核シェアリング」などを推進する立場に基づいての主張である。

 今回は2回目として(どう転んでも)日本にとって脅威でしかない中国共産党と傘下の人民解放軍について、差し迫るリスクとともに解説する。

 日本では9月27日に自民党総裁選があり米国でも11月5日に大統領選があるため、現時点では外交面に不確的要素が多い。そこで今回は習近平(中国共産党)と人民解放軍の「混乱」を中心に解説する。混乱すれば日本への脅威が増すからである。

 中国共産党は日本の中枢を含む「ありとあらゆるところ」に深く入り込んでおり、今回の自民党総裁選にも影響を与えている。だから「有力」総裁候補の大半が親中議員であり、そうでない少数の候補は徹底的に無視されている。つまり中国に「全くモノが言えなかった」岸田政権が終わっても、「もっとモノが言えない(言いなりの)」政権が誕生してしまうことになる。

 中国は日本の主要都市および米軍基地に向けて約2000発のミサイル照準を合わせており、その中には核弾頭が搭載されているものもあるはずである。実際にペロシ下院議長らが訪台した2023年8月には、そこから9発のミサイルが発射され、うち5発が沖縄・先島諸島のEEZ 内に着弾した。「いくらなんでも実際に発射しないだろう」が全く通用しないのが中国である。


その1  習近平の人民解放軍に対する「異常な」決定


 7月15~18日に、予定から大幅に遅れていた中国共産党の重要会議である第20期中央委員会第3回全体会議(以下、3中全会)が北京で開催された。

 3中全会は主に中長期的な経済政策の方向性を議論する場所であるが目新しいものはなかった。しかしそこで李尚福・前国防部長、李玉超・前人民解放軍ロケット軍司令、魏鳳和・元国防部長の3名の党籍を「重大な法律・規律違反」で剥奪したと公表した。これは明確に「汚職による処分」である。ここで部長は大臣、司令はその軍のトップである。

 李尚福は昨年(2023年)8月下旬から行方不明となっており、同10月には国防部長と中央軍事委員会委員を解任され、6月27日には党籍剥奪も決まっていた。また李玉超は昨年7月にロケット軍司令を解任され中央軍事委員会規律検査委員会の調査を受けており、魏鳳和は昨年3月に国防部長を退任していたが行方不明となっていた。

 3中全会で、この3名の党籍剥奪を「正式発表」したことになる。3中全会は中国共産党の意思決定会合でもある。

 人民解放軍では昨年夏以降、この3名以外にも多数の幹部(最高位の上将や中将クラス)が処分されているが、その大半がロケット軍と装備発展部の最上級幹部である。ロケット軍は2015年に第二砲兵部隊を改組した核弾頭や巡航ミサイルなどを管理・運営する重要軍種で、党籍剥奪された魏鳳和はその初代トップ(司令)だった。

 また2016年に総装備部が発展してできた装備発展部は人民解放軍すべての軍備・兵站等を統括する「利権の塊」であり、同じく党籍剥奪された李尚福は2017年8月から国防部長就任の2023年3月まで5年半もの間、この装備発展部のトップ(部長)だった。

 さらに3中全会後には、人民解放軍の5大戦区(後述する)のうち3戦区でトップの司令が交代しており、そのうち北部戦区司令だった王強と、南部戦区司令だった王秀斌(おうしゅうひん)は解任された後に行方が分からなくなっている。王強も王秀斌も習近平のお気に入りで、重要戦区トップに抜擢されていたはずである。

 また不思議なことに3中全会では、昨年6月から行方不明となっていた秦剛・前外交部長は解任でも党籍剥奪でもなく「辞表受理」となっている。こちらは汚職ではなくスパイ容疑で、人民解放軍とは無関係だったからとしか思えない。

 これらが如何に「異常な」決定であるかは歴代の共産党トップと人民解放軍の複雑な関係と、その中でもとくに複雑な習近平と人民解放軍の関係を理解すれば分かってくるはずである。

 言うまでもないが現在の人民解放軍トップは、習近平・中央軍事委員会主席である。共産党トップは総書記・国家主席・中央軍事委員会主席を兼ねるが、この中で「実質的」に最重要ポストが中央軍事委員会主席である。

 2022年10月の共産党大会で改選された時点の中央軍事委員会メンバー(7名)は、主席の習近平だけが軍人(人民解放軍所属)ではなく、実質的に人民解放軍トップの副主席に張又俠(ちょうゆうきょう)上将が再任され、新たに何衛東(かえいとう)上将が抜擢された。ともに中国共産党トップ25に入る政治局員である。

 東部戦区トップの指令だった何衛東は、常に台湾と対峙し、また日本に標準を合わせるミサイルを管理・運営してきたため、台湾有事でも日本有事でも「最も頼りになる軍人」として異例の抜擢となった。ここからも中国は台湾有事も日本有事も「本気で準備」していることが分かる。

 その他の中央軍事委員会委員は、李尚福・上将(2023年に国防部長となるも同年10月にすべて解任)、劉振立・上将(2023年3月から中央軍事委員会連合参謀部参謀長)、苗華・海軍上将(再任、中央軍事委員会政治工作部主任)、張昇民・上将(再任、中央軍事委員会規律検査委員会書記)となる。ここで主任も書記もそれぞれのトップである。

 どんな組織でも同じであるが、中央軍事委員会でもトップの習近平だけが軍人ではないため、メンバーにできるだけ「腹心」を入れて影響力を維持しようとする。その「腹心」の代表が副主席の張又俠で、習近平とは父親同士が親しかったこともあり2022年10月の共産党大会時点で役職定年の68歳を超えていたにも関わらず再任されている。

 ところがこの張又俠こそ李尚福の前任の装備発展部長で、その前身である総装備部長時代を含めると2012年10月から2017年8月まで5年近くも「利権の塊」を率いていた。李尚福の時代になって「初めて」汚職が始まったわけではない。

 ところが習近平も人民解放軍における影響力維持のため「おいそれ」と自分が取り立てた張又俠は切れない。人民解放軍内では(習近平に対して逆に強い立場であるとして)張又俠の存在感が大きくなっていた。

 実は今回の3中全会直後に一時的に習近平の動静が伝わらなくなっていた。8月初旬から習近平が共産党長老に方針等を報告して承認を求める北載河(ほくたいが)会議が予定されていたこともあり、(ほとんど年中行事である)習近平失脚あるいは軟禁の噂が飛び交ったが、その際も首謀者が張又俠とか常務委員No2の李強とされていた。もちろん全くのデマである。

 北載河会議も実際に開催したかは不明であるが、習近平は総書記1期目に江沢民派、2期目の終わりに胡錦涛、李克強ら共青団をすべて追放したため、もう習近平に意見できる長老は残っていない。これまで総書記の3期目が禁じられていた理由は、このように3期目に入ると必ず独裁体制となるからで、実際にそうなってしまった。

 少なくとも中国共産党における習近平の立場「だけ」は盤石である。誰も習近平を止められないため、これからの中国においては経済崩壊、海外への軍事侵攻、中国民の大量流出(難民の大量発生)など予期できない混乱が発生し、世界に悪影響を及ぼすことになる。

 だから台湾有事も日本有事も、そのリスクは急激に大きくなっていると構えておく必要がある。東シナ海を挟んでいるとはいえ日本は中国の隣国であるため、それだけ(ミサイルでも難民でも経済・金融市場の混乱でも)直撃を真っ先に受けることになる。

 歴史を振り返れば、こうなってしまうと農民(現在なら一般国民や被支配民族)の反乱しか習近平を止められない。歴史は繰り返すものである。

 そうだとしても日本は安心してられない。中国(人)はすでに日本の中枢を含む「ありとあらゆるところ」に入り込んでいるため、その時は「日本が乗っ取られている」はずである。現時点ですでに政権が中国に乗っ取られるリスクが高まっていることも自覚しておくべきである。

 だいぶ横道に逸れたので人民解放軍幹部の汚職(不正蓄財)に話を戻す。具体的には軍備の不正転売か予算より低質の軍備を購入して差額の着服ななどが考えられるが、いずれにしても人民解放軍の軍備や軍事費の「かなりの部分」がずっと以前から汚職で消えていたことになる。つまり人民解放軍の軍備は質も量も想定よる「かなり」劣化しており、人民解放軍の「実力」も劣化していることになる。

 さすがの習近平も「ここにきて」深刻な事態に気づき処分の連発となったが、根本的には何も解決していない。ここで人民解放軍にもっとメスを入れれば、今度こそ反発されて人民解放軍への影響力を失う恐れが出てくる(それでも習近平がクーデター等で失脚することは無い)。そこで処分を連発して人民解放軍に習近平の影響力を維持しつつ「汚職」に歯止めを掛けるしかないが、そもそも中国では「絶対に」そうならない。

 ここでも中国の歴史を振り返ると、独裁政治が行われている時代にこそ「とんでもない汚職=不正蓄財」が発生している。明時代の劉墐(りゅうきん)と魏忠賢(ぎちゅうけん)、清時代の和珅(ヘシェン)は、それぞれ国家予算10年分くらいを不正蓄財しており、皇帝の財力をはるかに超えて世界有数の富豪となっていた。

 最終的に劉墐は皇位を狙っていたとして死刑(凌遅刑)となったが、魏忠賢と和珅は自殺を許されている。不思議なことに不正蓄財した巨額財産はほとんど消えていた。それが中国の汚職で、人民解放軍でも処分を繰り返しても人が代わるだけで汚職=不正蓄財は「絶対に」無くならず、また不正蓄財した巨額財産も「絶対に」出て来ない。後から出てくる近代の徐才厚の不正蓄財も合わせて参考にしていただきたい。

 さて前段がだいぶ長くなったが、この辺を頭に入れて次の「中国共産党の歴代トップと人民解放軍の暗闘の歴史」を読んでいただくと、習近平の「焦り」と日本への脅威がより明らかになるはずである。習近平が「焦る」と過激な行動に出ることになり、岸田政権が中国に全くモノが言えなかったため、舐められて台湾の次の(あるいは同時の)侵攻ターゲットとなっているはずである。ここでも岸田政権は日本国民に災いを及ぼしていたことになる。


その2 中国共産党の歴代トップと人民解放軍の「暗闘」の歴史

 

 中国共産党はコミンテルン(共産主義インターナショナル)最初の支部として1921年7月に陳独秀や毛沢東らによって上海で結成された。ちなみに日本共産党はそのすぐ後に2番目の支部として結成されている。 

 第二次世界対戦中は国共合作で毛沢東の共産党軍が蒋介石の国民党軍を利用して密かに勢力拡大を図っていたが、もともと共産党軍の戦闘能力は低く勢力も国民党軍の3分の1以下しかなかった。

 終戦直後に中国共産党がさまざまな策略で蒋介石を台湾に追いやるが、中国大陸に取り残された国民党軍がそのまま人民解放軍の「主力部隊」となる。さらに国民党軍はもともと土着の軍閥の寄せ集めであったため、最初から国民党に成り代わった共産党による中華人民共和国政府が人民解放軍を掌握することに無理があり、ここは本質的に現在まで変わらない。

 だから人民解放軍の結成が1927年8月で、毛沢東が中華人民共和国の建国を宣言した1949年10月より早い。もともと人民解放軍は陸軍だけだったが、中華人民共和国の建国に合わせて海軍と空軍が結成され、2015年に第二砲兵部隊を改組したロケット軍が加わっている。しかし人民解放軍と中華人民共和国政府の「距離感」は、新設の軍種にも受け継がれたまま現在に至る。

 これに対して中華人民共和国(中国共産党)の歴代トップは、さまざまな「懐柔策」を繰り出して何とか掌握しようとしてきた。

 最初が毛沢東による林彪の抜擢である。中国共産党員だった林彪の軍人としての実績は乏しいが早くから毛沢東に接近していたため、毛沢東も人民解放軍掌握のために林彪を人民解放軍所属のまま1959年に共産党の国防部長に引き上げる。林彪も人民解放軍に毛沢東思想を浸透させ、1966年に始まった文化大革命では毛沢東に批判的な多数の軍幹部を失脚させるなど毛沢東に最大限の忠誠を示す。

 その甲斐あって林彪は最終的に毛沢東の後継者に指名されるが、1971年9月にクーデターを疑われてソ連へ逃亡中に墜落死したとされる。この背景は謎に包まれたままであるが、林彪にクーデターを企てる意味はなく(そんな度胸もなく)、単純に権力にしがみつく毛沢東に切り捨てられたはずである。

 林彪事件で中華人民共和国政府(中国共産党)と人民解放軍の関係が再び悪化する。毛沢東の死後に中央軍事委員会主席となった鄧小平が1985年に中国全土に散らばる13軍区を7軍区に統合して勢力を削ぎ、1989年6月の天安門事件では人民解放軍を北京に出動させてデモ隊(実際は胡耀邦の追悼に集まっていただけの一般市民)に発砲させるなど、一時的に支配力を強化する。

 ちなみにこの統合された7軍区とは瀋陽、北京、蘭州、済南、南京、広州、成都の各軍区であるが、鄧小平が天安門事件で出動させた北京軍区以外は依然として政府と距離があり、とくに朝鮮民族系の馬賊・匪賊が多く漢民族や政府と距離がある中国東北部の瀋陽軍区は、ますます政府に反発するようになる。

 もともと各軍区は武器・食料・備品などを自前で調達する軍産複合体のような存在である。その中でも瀋陽軍区は、こういった調達に絡む利権の他に域内の石油利権、さらには北朝鮮との闇交易や北朝鮮北部のレアメタル開発利権なども確保して膨大な利益を蓄積していく。またその潤沢な資金でロシアから最先端武器や核開発を含む各種ノウハウを取得して軍事的にも優位に立ち、さらにその転売でも荒稼ぎする。

 そして鄧小平の後に中央軍事委員会主席となった江沢民まで取り込み(それだけ瀋陽軍区の利権が巨大だった)、完全なる「治外法権」となる。ここまで来ると瀋陽軍区は軍隊ではなく政商である。

 瀋陽軍区のトップ(上将)となった「先述の」徐才厚は1999年にその江沢民によって中央軍事委員会委員に任命され、江沢民の後に中央軍事委員会主席となった胡錦涛によって2004年9月に人民解放軍トップの中央軍事委員会副主席(政治局員)に任命される。しかし瀋陽軍区の治外法権と利権構造は温存されたままで徐才厚ら幹部は不正蓄財を続け、それに江沢民派まで便乗した「利権の構造」が出来上がる。

 徐才厚の不正蓄財額は想像がつかないが、たまたま未遂に終わった香港での「たった1回の」マネーロンダリング金額が100億香港ドル(約1800億円)だったため、マネーロンダリングは分散して何度も行うはずであるはずで、不正蓄財額は「数兆円」規模だったはずである。ちなみにこのマネーロンダリング未遂の実行役は20代の女性で、3000万香港ドル(5億円強)の保釈金を支払い悠々と帰国した。 

 徐才厚は習近平が中央軍事委員会主席となった2012年11月に定年で退任となるが、間もなく規律違反で習近平の政府から訴追され家族とともに連行される。徐才厚は膀胱がんで2015年3月に死亡したため訴追も取り消され、「これも先述のように」巨額の不正蓄財額の大半」は行方不明のままとなる。そこで習近平は江沢民派を規律違反で猛烈に摘発し始める。

 習近平は権力闘争のため徹底的に江沢民派の汚職を摘発したとされるが、実際は徐才厚の不正蓄財の回収のために江沢民派を摘発したと言った方が適切である。

 習近平は江沢民派の摘発に目途がついた2016年2月に人民解放軍の改革案を打ち出す。7軍区を北部、中部、東部、南部、西部の5大戦区に再編するが、この最大のポイントは各戦区の任務を作戦、訓練、演習に特化させ、従来の軍区が行っていた軍備や兵站等の管理業務(つまり利権の塊)を、総装備部を発展させた中央軍事委員会直轄の装備発展部に集中させたことである。

 習近平に対する人民解放軍「最大の怨念」はここにある。

 とくに瀋陽軍区にとって「おいそれ」と承諾できるものではない。瀋陽軍区が独占してきた各種利権を、同じ人民解放軍とはいえ習近平がトップとして差配する中央軍事委員会が「横取り」したことになるからである。

 先述のように瀋陽軍区の最新鋭武器調達能力は突出しており、核兵器も自前製造やロシアからの調達や北朝鮮にノウハウを与えて製造させることで設置可能となっていた。中国の核兵器は西部戦区となった成都軍区に集中されているが、瀋陽軍区は以前から核兵器の設置を主張していた。

 習近平は「それらを」根こそぎ否定したことになるが、さすがに返り血を浴びないように瀋陽軍区の管轄地域に北京軍区から内モンゴル自治州と済南軍区から山東省を加えて北部戦区とする懐柔案で抑え込んでしまった。

 それでも習近平は「何かと油断できない」北部戦区に腹心の精鋭を送り込み、やっと王強を北部戦区トップ(司令)とするが、先述のように今回の3中全会前に南部戦区トップの王秀斌とともに解任してしまった。王強も王秀斌も行方不明で中央軍事員会規律検査委員会の監視下にあると思われるが、ここでも習近平のお膝元で汚職=不正蓄財が発生していたことになる。

 汚職=不正蓄財はキリがないのでこの辺にするが、人民解放軍の現有勢力は現役兵だけで4軍種(陸軍・海軍・空軍・ロケット軍)合わせて約200万人(2024年1月現在)で世界最大の軍隊である。1949年当時は「ほとんど陸軍」だけで280万人いたとされる。また中国の軍事費は2023年が2930億ドル、2023年が2960億ドルと推定され、米国に次ぐ世界第二位の軍事大国である。2年間で軍事費が意外に増えていない理由は人民元が対ドルで下落しているからである。

 また人民解放軍内に諜報機関として総参謀部があり、中央軍事委員会の直接の指揮下にあり中国内外で諜報活動を行っている。ところがこの総参謀部の業務は、行政機関である国務院を構成する中華人民共和国国家安全部の業務と明らかに重複している。また警察組織である中華人民共和国公安部の中にもやはり業務が重複する部署がある。すべてトップが習近平で、お互いを監視させているはずである。

 またハッカー5万人と英語に堪能な数千人の保安要員を抱えるとされる中国サイバー部隊は、全世界を対象にネット監視と重要情報へのハッキング活動を行っている。中国内外から徴用している部隊も含めて総勢100万人以上いるとされる。

 また中国海警局は、もともと人民解放軍とは別組織だったが2018年の組織改正で中国共産党と中央軍事委員会の共同管轄下となった。つまり軍隊に準ずる組織となり武器の使用が認められている。そんな中国海警局の船舶が尖閣周辺に連日現れて日本の漁船の操業を妨害している。

 さて肝心の人民解放軍の「戦闘能力」である。人民解放軍は1950年6月から1953年7月の朝鮮戦争において「中国人民義勇軍」として参戦している。「中国人民義勇軍」は総勢500万人いたとされ純粋な義勇兵もかなりいたことになるが、もちろん朝鮮戦争に参戦した人民解放軍が生き残っているはずがなく戦闘記録や作戦記録なども散逸している。

 朝鮮戦争以降は1979年にベトナムとの国境をめぐり短期間衝突した中越戦争だけが人民解放軍が出動した唯一の「実戦」である。先ほどから何度も出てくる張又侠・中央軍事委員会副主席はその中越戦争に参戦経験がある唯一の現役軍人で、それだけ人民解放軍内でも英雄視されている。いくら汚職の疑いが強くても習近平が「おいそれと」切れない理由がここにもある。

 つまり現役の人民解放軍は「実勢経験」が無いに等しい。

 それを補うものは実戦経験のある外国軍と共同の「実戦型演習」であるが、人民解放軍が外国軍と「実戦型演習」を行ったとも聞かない。だいたい瀋陽軍区のように軍隊というより政商として「金儲けと不正蓄財」に励んでいた人民解放軍も多い。

 それでは現在の人民解放軍は実戦経験がほぼ皆無であり、それを補う「実戦型演習」も行っておらず、これまでは軍事訓練より金儲けに励んでおり、さらに軍備等が汚職により想定以下となっているなら、肝心の人民解放軍の「戦闘能力」は大丈夫なのか?

 ここからは人民解放軍の軍備を具体的に取り上げて、次回(汚職による劣化も考慮に入れて)その「実力」を図ることにする。

 今回は自衛隊にとっても日本にとっても、絶対に対峙しなければならない人民解放軍を「より深く知るために」長々と書いてしまった。

 人民解放軍は実践経験が無くても、軍備が汚職で多少劣化していても、やはり自衛隊にとっても日本にとっても最大の脅威であることは間違いない。次回では「日本は自衛隊をはじめどういう対応をとるべきか」にも絞って考えていくことにする。