報道されないロシアによるウクライナ侵攻の「深層」

報道されないロシアによるウクライナ侵攻の「深層」 2022年3月7日に掲載

 日本でもロシア(プーチン)によるウクライナ侵攻は連日報道され、「自称専門家」も自説を披露している。本誌は別にプーチンのウクライナ侵攻を容認するつもりはないが、そろそろ日本では報道されない「深層」にもあひられていない目を向けておくべきと考える。

 日本にとって海を挟んでいるとはいえロシアはウクライナと同じ「隣国」であり、またもっと厄介な中国や北朝鮮も(あるいは韓国も)「隣国」であるため、報道だけを鵜呑みにしていられる状況ではない。

 とはいっても「深層」があまりにも多いため、2つだけに絞る。

その1  プーチンと「オリガルヒ」の正確な関係と知られていないロシア経済史

 3月1日にバイデンが連邦議会上下両院合同会議で今後1年間の施政方針を示す「一般教書演説」を行った。例年1月末に行われる演説であるが、バイデンは就任以来アルガニスタン撤兵や移民政策など「失政」続きで、目玉のビルド・バック・ベター法案も予算規模を半分の1.75兆ドルにしたものの成立の見込みが立たず、低迷する支持率を回復する「きっかけ」が何もないため漫然と引き延ばしていた。

 バイデンは昨年(2021年)も(新任大統領なので多少の遅れは認められるものの)コロナ感染を異常に警戒してホワイトハウスから出ず、やっと4月28日に簡単な演説を行っただけだった。従って今回を「バイデン最初の一般教書演説」とする報道もある。

 今回のバイデンは、やっと攻撃する相手(プーチン)が出てきたため(2020年の大統領選中も含めて)最も元気があるように見えた。ただその中でプーチンを攻撃するためにはその経済基盤を支える「オリガルヒ」を経済制裁する必要があると強調し、さっそく資産凍結などを発動するようである。

 どうもバイデンは「オリガルヒ」を正確に理解していないようなので、とくにプーチンとの関係を含めて正確に「解説」しておきたい。単なる言葉の意味では「国家の主要産業を支配し政権にも深く関与する新興財閥」となるが、独裁者プーチンは誰も政権に関与させない。だから本人も言うように現在のロシアには純粋な意味の「オリガルヒ」は存在せず、またプーチンとの間にも常に緊張関係がある。

 1991年12月25日、ゴルバチョフ大統領の辞任により旧ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)が崩壊し、ロシア、ウクライナなど15か国が独立した。旧ソ連が保持していた国連安全保障理事会・常任理異国などの国際的地位、中央銀行、主要国営企業、核兵器、宇宙開発センターなどは、旧ソ連の国土の大半を占めていたロシアに継承された。またロシアも現在83の共和国や州(自治州を含む)などで構成される連邦国家である。

 このロシアを構成する83の共和国や州が独立を認められた例はなく、逆に2014年にウクライナの軍港・セバストポリ(もともとロシアが租借)を含むクリミア州が一旦独立し、すぐに住民投票を経てロシアに編入され連邦を構成するクリミア共和国となっている。この辺は大変複雑なので、あまり気にせずに読み進めて頂きたい。

 ところでエリツィン大統領が率いていた1991年当時のロシア経済は、輸出の80%を原油・天然ガス、金属資源、木材など天然資源に頼る不安定なものだった。また世界もデフレ傾向で原油など天然資源価格が下落してロシア財政は悪化し、通貨ルーブルも下落し国内は年率100%近いインフレに見舞われていた。

 1991年の原油価格(WTI)は1バレル=20ドル前後だったが、それが1998年には10ドルを割り込みロシア危機(後述)を引き起こす。また1992年7月1日からロシア中央銀行がルーブルを管理変動相場制に移行し、初日のレートを1ドル=125ルーブルとするも急激なインフレで大幅に下落し、1997年12月末には1ドル=6000ルーブル近くになってしまった。

 そこでロシアは1998年の年初に1000分の1のデノミを行い、1ドル=6.2ルーブルとする。これが現在のルーブルである。先週末(2月4日)は1ドル=123ルーブルなので、1992年から30年でルーブルは1000分の1になったことになる。

 ここで米国が旧ソ連崩壊前から(正確にはレーガン政権時代から)ドルとルーブルの交換を密かに制限していたことは知られていない。まさに現在、再現されようとしているドルとルーブルの交換制限(禁止)が当時の旧ソ連を崩壊に追い込み、さらに後継国となったロシア経済を弱た。これが冷戦終結の「真相」である。

 ゴルバチョフ大統領時代の旧ソ連でもペレストロイカで1980年代後半には経済活動が徐々に自由化されて「新興企業家」が生まれていた。とくに1987年に銀行設立が自由化されたため、そこでさらに大きくなった「新興企業家」が後の「オリガルヒ」となる。

 旧ソ連崩壊後のロシアもエリツィン大統領の下で共産主義から資本主義に移行するが、まず旧ソ連時代の各部門別工業省庁が傘下の企業集団を再編し「民営化」していく。ところがそこにもジェフリー・サックスら米国顧問団が入り込み、官僚出身のイゴール・ガイダル経済担当副首相(後に第一副首相兼大蔵大臣)や、レニングラード市議会にいたアナトリー・チュバイス第一副首相兼財務大臣を「急進改革派(というより親米派)」として抜擢していく。どちらも当時は30代半ばで、米国顧問団の利益代表となっていたことは容易に想像できる。

 ここでガイダル、チュバイスらの改革路線(というより親米路線)は脆弱なロシア経済に「さらなる」急激なインフレ(年率100%に近い)、先述のルーブル急落、長期金利の急騰(100%を超える)をもたらす。その間に米国政府が密かにドルとルーブルの交換を制限し、送り込んだ顧問団がガイダル、チュバイスらを使ってロシア経済を「内から」弱体化させていった。

 この時代は旧ソ連から続く国営の軍事産業、エネルギーや資源開発企業が次々と民営化されるが、その実権はエリツィン政権と癒着した新興企業家が「タダ同然」で手に入れていく。「オリガルヒ」の誕生である。

 これら「オリガルヒ」はまず銀行(先述のように旧ソ連時代の1987年に設立が自由化されていた)とテレビ局を手に入れ、1996年の大統領選でエリツィンを資金面とマスコミの世論操作の両面から支えて再選させ、さらに政権と癒着して巨大化していく。例えば「オリガルヒ」は支配する銀行を通じて国営企業に政府保有の株式を担保に貸し付けを行う。急激なインフレなので貸付金利が100%を大きく超え、国政企業は「あっと」いう間に返済不能となり政府保有の株式を手放してしまう。結果的に「オリガルヒ」はタダ同然で国家財産である国営企業を手に入れていく。

 当時の代表的な「オリガルヒ」は、ボリス・ベレゾフスキー、ウラジミル・グシンスキー、ミハイル・ホドルコフスキー、ウラジミール・ボタニン、ミハイル・フリードマン、ウラジミル・ビノグラドフ、アレクサンダー・スモレンスキーの7名で、この7名で当時のロシア経済の半分を占めていたといわれる。

 またボタニンとビノグラドフ以外の5名がユダヤ人で、1946年生まれのベレゾフスキー以外の全員が20~30代だった旧ソ連時代にペレストロイカで自由化された個人事業を始めていた。その中でも「最強のオリガルヒ」と言われた年長のベレゾフスキーは自動車と石油ビジネスで巨大化するが、チェチェン・マフィアと組んだ「違法ビジネス」が収益源だった。

 また1996年の大統領選でエリツィンの選挙対策責任者を務め、政権内で自ら民営化した石油会社UESの経営者=所有者となり「オリガルヒ」の仲間入りした先述のチュバイスも、少し後から出てくるロマン・アブラモビッチも、やはり当時は30代のユダヤ人だった。当時のロシア経済も政治もユダヤ人が支配していたことは事実であり、それが後のプーチンの「大粛清」を呼ぶ。

 これら「オリガルヒ」の最大の問題は、大きくなった資産を海外に逃避させ納税を免れたため、そうでなくても脆弱だったロシアの財政は「あっと」いう間に破綻し、1998年のロシア危機の一因となる。米国のノーベル賞軍団と言われたロング・ターム・キャピタルを破綻させ、世界の金融市場にも大きなショックを与えた。

 まずここで7名の「オリガルヒ」のうちスモレンスキーが破綻するが、残る6名は資産を大幅に減らしながら何とか生き残る。

 エリツィンは1999年12月末に「健康上の理由」で引退し、首相となっていたKGB出身のウラジミール・プーチンを大統領代行とする。プーチンはエリツィンのマネーロンダリング疑惑を捜査していた検事総長を女性スキャンダルで失脚させて首相の座を射止め、首相就任直後にチェチェン紛争を武力で制圧して国民的人気を得る(注)。そしてエリツィンに引退後の不逮捕・不起訴特権を与えて引導を渡し、2000年3月の大統領選で当選して現在に至るまで実権を握る。 

(注)先週も書いたようにチェチェン制圧のきっかけとなったモスクワのアパート爆破テロはプーチンの自作自演である。ここでチェチェン・マフィアと関係のあったベレゾフスキーが「何らかの協力」をした可能性が強い。実際にベレゾフスキーは2000年の大統領選でもプーチンに協力している。

 しかし大統領となったプーチンは徹底的に「オリガルヒ」と対立する。脱税と国家財産の横領でグシンスキーとホドルコフスキーを逮捕し、恭順と政権不介入と納税を約束した「オリガルヒ」とだけ和解して今後の活動を許す。またプーチンは「オリガルヒ」に代って主要企業の経営者に旧KGB・警察・軍・閣僚出身者(シロヴィキ)を多用して自らの権力を維持する。その代表がロシア最大の石油会社・ロスネフチを率いるイーゴリ・セーチンであるが、「シロヴィキ」と「オリガルヒ」は根本的に違う。

 グシンスキーとベレゾフスキーはロンドンに亡命するが、ベレゾフスキーは2013年にロンドン自宅で死亡する。警察発表は自殺だったが(たぶんプーチンのチェチェン紛争の自作自演に協力した)ベレゾフスキーはプーチンの邪魔な存在だったはずである。同じくプーチンの自作自演を知るリトビネンコは2006年に同じロンドンで毒殺されている。

 ホドルコフスキーだけ国内で投獄(2003~2013年)されているが、プーチンに代りうる資質を備えていたことと、公然とプーチン批判を繰り返していたことと、自身が経営する石油会社ユコスの40%を米エクソン・モービルに売却しようとしたことがプーチンをさらに警戒させたからである。ホドルコフスキーは、今も亡命先のロンドンからプーチン批判を続けている。

 「オリガルヒ」としては新興のロマン・アブラモビッチもロンドンに亡命しているが、一時ビジネスで恩恵を受けていたベレゾフスキーを監視・弱体化させる役割を担っていたと考える。亡命している割には英国サッカーチームのチェルシーを買収するなど自由な生活を送っているからである。

プーチン政権下で生き残った「オリガルヒ」は、最初の7名ではミハイル・フリードマンだけで、それに新興のアブラモビッチが加わる程度である。また自作自演で「オリガルヒ」に加わったチュバイスはプーチン批判を繰り返すが、なぜかまだ生き残っている。

 ところが原油価格(WTI)はプーチン政権誕生前の1999年の1バレル=10ドル割れから上昇を始め、2008年には147ドルの史上最高値となる。リーマンショックで一時急落したもののは2014年半ばまで100ドル前後を維持し、天然ガスや資源価格も高値を維持する。それでロシア経済は息を吹き返し、プーチンは2014年にクリミアに侵攻する。
 
 ところがそこで受けた経済制裁に加えて原油などエネルギーや資源価格全般がコロナウイルスもあり2020年半ばまで下落し、ロシア経済も低迷する。ところが原油などエネルギーや資源価格は2021年に入ると再び上昇が加速し、それに合わせてロシア経済も再び息を吹き返し、プーチンも再びウクライナに侵攻する。

 プーチンの精神状態は原油などエネルギーや資源価格の動きに「連動」して高揚するようであるが、そこには「オリガルヒ」の存在がない。もちろん純粋のロシアにおける経済活動で資産を拡大する「富豪」が出てくるものの、そもそも政権に関与できずプーチンとの関係も希薄で逆に警戒される恐れもあり、過去の「オリガルヒ」とは全く違う。

 「富豪」とは、例えば現時点で(プーチンを除けば)ロシア最大の個人資産184億ドルを保有するアリシェル・ウスマノフや、「アルミ王」といわれるオレグ・デリパスカなどである。

 ウズベク人のウスマノフはすでにEUの経済制裁対象であるが、今回のバイデンの経済制裁対象にも家族と共に入っている。今回のバイデンの資産凍結を含む経済制裁対象は経済関係者だけではないが全体で8名とその家族である。8名全体の名前は公表されていない。またユダヤ人のデリパスカはすでに2018年から「ロシアの世界中における悪意ある行動」の代償として米国の経済対象となっているだけでなく、本年1月にはFBIにNYとワシントンDCの自宅を家宅捜索されている。

 これら「富豪」がプーチンのウクライナ侵攻で経済制裁を受けるのは「割が合わない」はずである。普段からプーチンの恩恵を受けるわけではなく逆に警戒されるだけだからである。そこでロシアの富豪は(もう「オリガルヒ」という表現自体が適切ではないので使わない)、自らのビジネスに弊害となるだけのプーチンのウクライナ侵攻に賛同するはずがない。むしろ最近は反プーチンの言動が目立つ。

 その前にバイデンやEUがこれら富豪にいくら経済制裁をかけても、プーチンのウクライナ侵攻が止まるわけではない。バイデンはその辺を根本的に理解していないようである。

 先述のように旧ソ連崩壊からロシアの「オリガルヒ」は米国との関係がないわけではない。特に現在のロシアの「富豪」はプーチンとの関係が希薄であるため、米国はそれら「富豪」を経済制裁するのではなく、逆に水面下で関係を強化してプーチン対策を共同で考えるべきである。

 ちなみに「オリガルヒ」はウクライナにもいる。そもそもウクライナの政治とは豊富な資源を巡って親ロ派と親欧米派が政権を「奪い合う」歴史でしかない。純粋のイデオロギーだけで「オレンジ革命」など市民運動が起きたわけではない。代表的「オリガルヒ」は親ロ派では大統領となったヤヌコビッチ本人、親欧米派では「ガスの女王」といわれたティモシエンコ元首相、やはり大統領となったポロシェンコ本人などトップまで上り詰めた大物が多い。そして現時点ではバイデンとも近いとされるユダヤ人のイーゴリ・ロコモイスキーが最大である。

 ロコモイスキーは当然にポロシェンコ政権に近かったが、そのポロシェンコを2019年の大統領選で破ったゼレンスキー現大統領とも近くなければおかしい。同じ親欧米派だからである。そしてロコモイスキーは私兵集団「アゾフ連隊」を抱える。この辺から次の「深層」に入る。

その2  プーチン VS  ネオコン+ネオナチ の構造も理解しておくべき。

 例によって紙面が残り少なくなってしまったが、日本ではプーチンがウクライナに「非武装化、政治的中立」を要求しているとしか報道されていないが、実際はそこに「非ナチ化」もはっきり特定されている。また駐日ロシア大使館が「日本はこの100年間で二度もナチス政権を支持した」と書き込んだが大半の日本人にはピンと来ない。

 これは現在のウクライナ政権が親ナチ(正確には親ネオナチ)であると解される。大半の日本人はプーチンの「たわごと」としか捉えていないが、ロシアのウクライナ侵攻の全体図を見誤らないために検証しておく必要はある。

 その前に、実際にロシア軍がウクライナ国境付近に集結しているだけの時期に、ネオコンがプーチンを煽っていると何度か書いてきた。ネオコンとは米国軍事産業とそれに癒着する大物政治家で、共和党のブッシュ政権時代のチェイニー副大統領やマケイン上院議員、民主党のオバマ政権時代のヒラリー、スーザン・ライス、末席にバイデン副大統領などがネオコンである。両政権時代は世界中で戦闘が多発し、軍事産業を大いに潤わせていた。

 ところが次のトランプ政権は、もともとトランプは政治家ではなく不動産業者だったため軍事産業に近くなく、政権唯一のネオコンだったジョン・ボルトンもすぐに解任されている。そしてトランプ時代は戦闘がほとんどなく逆に世界から米軍を引き上げたため、ネオコンが干上がってしまった。これが2020年の大統領選でトランプがホワイトハウスを追われた最大理由である。

 そして現在のバイデン政権は、バイデン自身も末席のネオコンであるがヒラリーがオバマ政権の国務長官時代に採用したブリンケン国務長官やサリバン国家安全保障担当補佐官や(後から出て来る)ヌーランド国務次官らは純粋のネオコンである。だからプーチンという「仮想敵」を仕立て上げ、世界中で武器を販売し、米軍をNATO諸国に派遣していると考えていた。米軍を世界に派遣して駐留させるだけでネオコンの収益となる。

 プーチンもそれを理解していないはずがなく、ネオコンを逆に煽ってウクライナを制圧するだけと考えていた。ところがそのプーチンが本当にウクライナ全土に侵攻してしまった。ネオコンにとっては望外のビジネスチャンスとなったはずで、実際に対戦車小型ミサイル・ジャベリンなど米国製武器への需要が大きく拡大し、あのドイツまでウクライナへの武器供与を発表している(もちろん米国から輸入して供与する)。日本は防弾チョッキだけである。

 つまりどう考えてもプーチン VS ネオコンだけではここまでのウクライナ侵攻は説明出来ない。もう1つの要素が加わる必要があり、それがネオコンである可能性は検証しなければ全体図を見誤る。

 しかしウクライナもユダヤ人あるいはユダヤ系住民の多い国で、ゼレンスキー大統領自身もユダヤ系である。単純にはウクライナとネオナチは結び付けにくい。

 そこで先ほどの「アゾフ連隊」である。「アゾフ連隊」については日本のSNSでも取り上げられているが、大半が陰謀論で片付けられている。ここで陰謀論を展開するつもりはないが、少し冷静になって考える必要がある。

 「アゾフ連隊(アゾフ大隊ともいう)」とは公式には、ウクライナ内務省直轄の準軍事組織で、2014年5月の創設当初は義勇兵部隊(傭兵部隊)だったが、ドンバス危機以降の同年11月から、国家警備隊として機能するようになったと説明されている。しかし「アゾフ連隊」とは典型的ネオナチともいえる傭兵部隊で、かなり残虐である。それがウクライナの正式な「国家警備隊」となりウクライナ東部で今もロシア軍と戦っている。

 ウクライナに侵攻したロシア軍が、ウクライナ東部のドネツク州にあるマリウポリに執拗な攻撃を加えているのも、そこが「アゾフ連隊」の拠点だからである。

 2014年2月に親ロのヤヌコビッチ政権が倒れる。その原動力となった市民デモを扇動したのが当時の米国務次官補で典型的ネオコンのビクトリア・ヌーランドで、彼女は現在のバイデン政権では国務省No2の次官に出世している。またすぐにプーチンがクリミアとウクライナ東部に侵攻しているが、アゾフ連隊はその時点から現在に至るまで「ウクライナ国家警備隊」としてロシア軍とロシア系住民に攻撃を加えている。ヤヌコビッチの後任はヌーランドの意図した通り親欧米のポロシェンコとなり、プーチンはとりあえずクリミアだけは併合したがウクライナ東部については制圧することができないまま8年が経過する。

 その8年間のロシア軍は「劣勢」だったはずである。クリミア侵攻の経済制裁と原油価格の長期下落でプーチンも大々的な攻勢に出る余裕がなかったはずである。2021年以降の原油価格等の上昇で、ようやくプーチンにも攻勢の余裕が出てきたことになる。プーチンがウクライナ東部だけでなく首都キエフを含むウクライナ全土に攻撃を仕掛けている理由は、ゼレンスキー現政権そのものがネオコンとネオナチに強く影響されていると信じているからとしか考えられない。またそうでなければゼレンスキーの肝が据わった行動も説明ができない。

 そう考えるとプーチンが戦っているものの正体も少しは見えてくる。それでも一般市民への攻撃は正当化されるはずがないが、少なくとも今後の展開を考える際に頭に入れておくべきである。

2022年3月7日に掲載