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マルコ・アセンシオ ~分かれ道~

レアルマドリーの未来、次代のエースなど様々な言葉で形容されてきたマルコ・アセンシオが新たな道を歩むことが決まった。マドリーに来た当初の圧倒的なポテンシャルを見て、ラウールの退団以降最も思い入れのある選手となり、彼中心のレアルマドリーを強く望んでいた。しかし結果的には、絶対的なレギュラーとして1シーズン戦い抜くことはないまま、マドリーでの旅は終わりを迎えることとなった。その中でもターニングポイントとなった出来事がいくつかあると思うので、振り返りたい。

彗星

レアルマドリーと契約したのは2014年、そこからそのままマジョルカでプレー(ユニフォームネームは`MARCO`だった)したのち、エスパニョールにレンタルで出されそこでプリメーラデビューを飾った。左サイドを中心に34試合に出場し、4ゴール10アシストと19歳の1年目としてはの上出来の結果を残す。

迎えた16-17シーズン。ついにレアルマドリーでプレーすることになったアセンシオは登録外の28番を着けてプレシーズンのUEFAスーパーカップセビージャ戦に出場し、いきなり後に代名詞となるとんでもないミドルシュートを叩きこみ度肝を抜く。


その後リーガでの開幕戦にもスタメン出場し、ヴァランのフィードから素早く裏抜けし鮮やかなゴールをし、その類まれなるスキルを随所に見せていく。自陣から70メートルほどを単独のドリブルで持ち込んで決めたコパのセビージャ戦、延長にもつれる死闘となったCLバイエルン戦など独力でフィニッシュまで持ち込める打開力に無限の未来を感じさせた。特にバイエルン戦のゴールは絶対的な存在だったクリスティアーノ・ロナウドにパスを出す素振りすらみせなかったため、その強いメンタルもマドリディスタには頼もしく映った。

これらのゴールはドリブルの凄さだけを示すものではなく、どちらも彼のインターセプト力の高さを示すものでもあった。読みが鋭く、出足も早いため相手のパスカットからカウンターを発動させるシーンが何度も見られていた。

17-18シーズン開幕前のスーペルコパクラシコで決めた2つのスーペルゴラッソ。(完全に翼君のドライブシュートォォ!!だった)続くリーガでのバレンシア戦における独力で生み出した2ゴール、ラスパルマス戦の天まで突き刺さろうかという浮き上がっていくシュートは、アセンシオの成長曲線を示唆しているかのようであった。

足踏み

18-19シーズン。クリスティアーノ・ロナウドという巨星がクラブを去った。絶対的な得点源が抜け大打撃ではあるが、前線の選手たちにとってはまたとないチャンスとも言えた。
いよいよアセンシオにとっても、中心選手への地歩を固めるとき。ベンゼマ、ベイルと組む3トップの左での出場時間がたしかに増えた。しかし、左サイドのタッチラインに開いて確率の低いクロスをあげるプレーが目立つ(しかもベンゼマは中にはいない)など明らかに前シーズンまでの勢いは失われていた。このシーズンの監督であったロペテギ、ソラーリともボールを大事にし敵陣に押し込むも、逆にスペースがなくなりアセンシオはずっと窮屈そうにしていた。スペースでのボールの受け方、周りとのコンビネーションでの崩し(特にベンゼマと有機的に絡めない)といった弱点もはっきりと目立つようになった。これは押し出すドリブル、驚異的なシュートという個人で完結できる武器を持つが故に、上記のような能力をさほど必要とせず、磨かれてこなかったのではないかと考えている。

このシーズンはリーガでわずか1ゴール。
大きな飛躍が期待されていただけに、はっきりと失望のシーズンとなってしまった。ここが大きなターニングポイントだと感じている。

試練

不本意な結果に終わったシーズンの捲土重来を期し、本人もU-21欧州選手権を辞退しプレシーズンでのアピールに専念するなど並々ならぬ思いで夏を迎えていた。
しかし・・・

2019年7月23日、アメリカでのアーセナルとのプレシーズンマッチでピエール=エメリク・オーバメヤンとの接触の際に左膝を負傷し、号泣しての負傷退場となった。プレシーズン開始前に行われたフィジカルテストではチーム1位となる結果を出し、この試合ではゴールを決めるなど好調だった矢先の出来事で、負傷退場の際にはチームメイトのアルバロ・オドリオソラが涙するなど、大きな衝撃が走った。試合終了直後から重傷説が囁かれていたが、検査の結果、左膝前十字靭帯断裂および外側半月板の損傷の重症と発表された。

この大きなケガを負った時点から、確実にアセンシオの選手生命を変えると言われてきた。過去には数えきれないほどの選手がこのケガによって、キャリアの転落やプレースタイルの変更などを余儀なくされてきた。シーズンの復帰は絶望的だった。こうして長く辛いリハビリ生活が始まった。

「僕は毎週小さな目標を定めすべてで前進するように努めた。リハビリに強迫観念があり、膝の助けになるってことなら何でもやっていた。一つ一つの段階、プールとジムで必要不可欠なトレーニングを積んで行った。自分自身と向き合う作業はこの段階の僕にとってすごく助けになったし、この先に直面するものに対して役立つだろう」

誰もが想像だにしなかったコロナ禍での中断によって、リーガは6月に集中的に開催された。普段ならとっくにオフの期間にも試合があり、2020年6月18日のバレンシア戦に後半29分から途中出場し約1年ぶりについに復帰を果たす。
これまた誰も想像しえなかったのが、変わってはいった直後のプレー。メンディが左サイドを抉り、中途半端な高さのクロスを左足でのダイレクトボレーで蹴りこんだ。アセンシオのキックの中でも、個人的に最も高く評価している「左サイドからのクロスをバイタル左側から左足でゴール右側に叩き込める」真骨頂を発揮したゴラッソ。

ここ数年で最も感動的なゴールであった。

シューターとして

それ以降は主に右WGとして起用された。ミドルシュートを打たせたら、世界トップと言えるほどの威力と精度だったが、逆に言うとほぼそれだけの選手となってしまった。大けがの影響で縦への推進力が失われてしまったことよりも、どこでボールを受けるべきかのポジショニングの向上が中々見られなかったことが絶対的なレギュラーとなれなかった要因だと思っている。

契約最終年となった22-23の後半戦は、身体のキレも戻り縦への推進力やもう一つの課題であったベンゼマとの絡みも見られるようになった。

レアルマドリーの中心選手となり、バロンドールも狙える選手と期待していただけに現在の状況は正直に言うと残念に思うし、それは誰よりも本人が感じている所だろう。
ただあの大けがから復活して、これだけの数字を残していることもまた凄いことでマドリーは彼の穴埋めに苦労するだろう。
道は分かれてしまったが、次のクラブでは中心選手として活躍することを祈りたい。

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