見出し画像

オンリーロンリー

 私は孤独を愛しているが、孤独はちっとも私を愛してくれないようで。人と人との関りの波にさらわれ危うくおぼれそうになりながら、我が家という名のか細い岸に辛くも流れ着いた午後8時。
 ああ、ああ、煩わしい煩わしい。汗臭いスーツを脱ぐ暇も惜しんで、冷蔵庫から缶チューハイを取り出す。人工的な甘みとアルコールの苦みが、炭酸とともにシュワシュワと溶けていく。ああ、いっそのこと私の身体もおんなじように溶けてしまえばいいのに、と凡庸極まりない例えを恥ずかしげもなく思いついてしまうのは、社会という名の砂漠でカラカラに干からびた身体にアルコールが急速に沁み込んでしまったせいである。……ん? さっき海で例えてたっけ? まあ、いいか。
 くたびれたソファに身体を沈める。もはやBGMとしてしか機能していないテレビの中で、知らない芸人と知らないタレントが知らない話題で盛り上がっている。そういえば、このソファ、元カレと一緒に買ったやつだったなぁ……いや、だからといって買い換えようとは思わないし、それは未練や執着などではなく、ただ単にその必要を感じないからだ。と、なぜか今、ふと思う。
 スマホが鳴る。見ると、会社の後輩からLINEの通知が来ていた。
「センパイ、いまテレビ観てます?」
 間に、豪勢な海鮮丼のインサートを映しているテレビの写メ(死語である)が挟まれている。
「ここ、近いらしいですよ!今度行きましょう!」
 あまりの暢気さにあきれてしまう。人がせっかく幸せな孤独を噛み締めている時に、まったく、なんなのだこいつは。私は「わかった」とだけ返信し、一人で掛けるには少し大きいソファにスマホを放る。
 ああ、ああ、煩わしい煩わしい。私は孤独を愛しているが、孤独はちっとも私を愛してくれないのだ。

「おー、面白いじゃねーか。一杯奢ってやるよ」 くらいのテンションでサポート頂ければ飛び上がって喜びます。 いつか何かの形で皆様にお返しします。 願わくは、文章で。