RE:2020年に到達できなかったガラケーたちへ
キーン コーン カーン コーン…
はーい、皆席につけー。一旦スマホしまってー。
田中!やたら細けぇところばっか研究した野球モノマネは一旦やめなさい。
じゃ、これからホームルームを始めますが…今日は先生、君たちに大事な話があります。
これから先生は君たちにある問いかけをしますが、手を挙げさせたり、指したりしないから、皆自分の胸の内で正直にこの問いに向き合って欲しい。
えー……ゴホン
ぶっちゃけ、ガラケーのメールの「RE:RE:…」って無限に続く機能、邪魔じゃなかった?
はい、皆静かにしろー。
田中、席に着きなさい。周りの女子に「え、お前はどうだった?」って聞いて回らない!ほら、桜井嫌がってるだろ。先生そういうつもりで話したんじゃないぞー。
えー、でも、ね。皆がざわつくのも、まあ無理はないと思ってる、先生も。
ガラケーのメールの「RE:RE:…」といえば、ガラケー想い出話の鉄板ネタ。「ガラケーあるある」で全国1億3000万人が最初に思いつくであろうこと請け合い。
人々は口々に「ガラケーといえばメールの「RE:RE:…」が……」と語り出し、Twitterのトレンドでは「ガラケー」「メール」「RE:RE:…」が連日トップ争いを繰り広げることでしょう。
えー、先生ここで敢えてハッキリと言っておきます。
あの「RE:RE…」ですが、先生は消してました。消して新しく件名付け直してました。増えすぎるとウザいなって思っちゃうんで。
だからね、先生驚きました。
あれ、凄く良いこととして、良い想い出として語られるんですね。
「好きな人とのメールで「RE:RE:…」が増えるのが嬉しかった」
「距離が縮まっていく感じがした」
いや、先生ね、最初見た時びっくりしました。消すのが普通だと思ってたから。
いやいやいや、こんなもん恋愛にべろんべろんに酔った、iPod touchのプレイリストにRADWIMPSしか入ってなかった奴の戯言だろ…って思ってたら、どうやらこっちがマジョリティらしいじゃないですか。
先生ね、震えました。ちょっぴりちびりました。
いや、こういうことを言うとね
「可哀そうに、青春時代にまともな恋愛をしてこなかったから僻むしかないんだわ」
みたいな、原作初期の口調がかなり厳しかったのび太のママ的なことをね、言われてしまうんじゃないかとも思っているんですが。
勿論ね、そのご指摘はごもっともであると、先生そこは認めます。でもね、先生が言いたいのはそこじゃあないんです。
先生にとって、あの「RE:RE:…」っていうのは、「酔いを強制的に冷まさせるもの」だったんですよ。
やっぱりね、先生だって好きな人とメールをするのは楽しかったんです。出来る限り長く続けたいなと思って、ちょっと普段は使わないような可愛い絵文字とかも使ってしまう訳です。そんな時にね、返信されてきたメールの件名を見て、思い知らされる訳です。
「お前はこんなにも、はしゃいでいたのだぞ」
件名に刻まれた「RE:RE:…」が、自らのはしゃぎ様を明確に数字として示してきます。そこには、「付き合って〇ヶ月」と書かれたプリクラを携帯の待ち受け画像にしている友達を見た時に似た気恥ずかしさというか、独特の気持ち悪さがありました。
だから先生消しました。「RE:RE:…」を消しました。
僕は決してあなたと浮ついた気持ちでメールを送り合っているわけではないんだということをわかって欲しくて。自分のはしゃぎを見せるのが恥ずかしくて。あとやっぱり、単純に件名が長くなるのがウザくて。
でもね、先生今だから思うんです。
これって結局、自分のことしか考えていないんですね。
自分の見栄だとか、恥ずかしさを優先して、相手がどう思っているかを全く考えていないんですね。
向こうは「RE:RE:…」と長くなっていく件名をちょっぴり楽しんでいたかもしれないのに。
あ、その子には結局フラれました。
だからこそ、先生声を大にして言いたい。
今でもあの頃の自意識と見栄と気恥ずかしさが大匙5杯ずつブレンドされたメールを思い出して夜中枕に顔をうずめてうぁーってなってる、iPod touchのプレイリストに倉橋ヨエコばかり入っていた君たちに、声を大にして言いたい。
ガラケー、2020年に到達できなかったから!
時計機能が2019年までしか登録されてなかったらしくてさ、今「0月0日0時0分」みたいになってるってさ!
悪夢はもうここで終わり!令和2年には持ち越されません!
だから今夜は安心して、お手持ちのiPhone11でapple musicを起動して、日食なつこを再生しながら泣いてください!
「先生!それって今で言うと、深夜まで続いたLINEの「おやすみー」の後になんか付け足しちゃった「いい夢見てね」に対して既読が付かない間感じる恥ずかしさに似てますね!」
田中。廊下に立ってなさい。
キーン コーン カーン コーン…
「おー、面白いじゃねーか。一杯奢ってやるよ」 くらいのテンションでサポート頂ければ飛び上がって喜びます。 いつか何かの形で皆様にお返しします。 願わくは、文章で。