江戸川 夏

作家・小説家

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長編小説 『桜花爛漫・下』

第四章 アキラ 九、毎日が人生最後の日でいい 初めて見た景色は、コスモスだった。 「ずいぶんと早く咲いているじゃないか。」 季節を間違えている。まだ梅雨が明けたばかりだ。かくいう僕は、自分自身が咲く時期なんてわからないんだけど。 世界が植物であふれている。視界に濃度があるとしたら、植物だけ異様に濃く映るのかもしれない。前世は蝶や蜂だったんだろう。 さて、どうにも自分の名前にしづらい花を前に、頭をひねる。 「コスモス、コスモ……。宇宙じゃあるまいし。」 どちらか

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    • 長編小説 『桜花爛漫・上』

      三十二歳の自分だったら、十四歳の自分を抱きしめてあげることができるだろうか。 そうだとしたら、二十二歳の俺には、彼らを会わせることくらいはできるだろう。 朝日生一の身体の中には、三つの自分がいた。 六花。紫陽。アキラ。 プロローグ 安い酎ハイの空き缶が、机の上に並んでいく。こんなに飲まなくてもよかったかもしれない。どれだけ飲んでも、現実が変わるわけではないのだから。 「紫陽、もうやめておけよ。」 ツヅミに缶を取り上げられた。代わりに水をくれる。だが、今はこんな固

    長編小説 『桜花爛漫・下』