小さいけれど大きな違い 其の二
写真は浅草演芸ホールの7/12(金) ツイッター(現X)より拝借した。
浅草演芸ホール (@asakusa_engei) / X
寄席の楽屋で使われているネタ帳である。
ネタ出し公演でない限り、落語家は高座に上がってからその日の演目を決める。
いや、楽屋で決める人もいるようだが。
どっちにしても、その日の客層に合わせて噺を選ぶわけである。
そこで、その日に誰が何を演ったか書き並べるのがネタ帳である。
ご覧いただくとわかるように、演目、演者の順に書き並べている。
何となれば、出演者にとっては誰がやったかより、何をやったかの方が重要だからである。
同じ演目をやってはいけない。
演目が違っていても似た内容はいけない。
〝ネタがつく〟というらしい。
〝泥棒〟の噺の後でまた〝泥棒〟の噺をやってはいけない。
〝吉原の噺〟〝与太郎噺〟〝酒の噺〟〝長屋の衆のワイワイガヤガヤ噺〟などなど……
一日の公演の中で似た演目が入ってはいけないらしい。
というわけで、演目、演者の順で書かれている。
ところで。
私はツイッター(現X)に寄席や落語会の演目を上げる際、逆に書いている。
たとえば冒頭の写真を私がツイッターに書くとなれば、
き太 つる
昇 かぼちゃや
一矢 (漫談)
橋蔵 動物園
夏丸 茄子娘
ねづっち(漫談)
……といった具合である。
だって、一観客としては誰が出演したかが重要なのである。
寄席はプログラムがあっても、時に出演者が変更になっていたりする。
それを正しく記しておきたい。
そして出演者の後で演目を書く。
落語を聞き始めてからずっとそれでやって来た。
けれどツイッターの落語村には、楽屋のネタ帳同様に、演目、演者の順で記す人がいる。
人それぞれ好みがあるから、別にかまわないと思っている。
ところが、ある時ツイッターをやっている某落語家が、
〝演者、演目の順で書かれると変な気がする〟
と呟いた。
それもわかる。
楽屋のネタ帳に長年馴染んでいる落語家としては、逆の書き順はとても変な感じがするのだろう。
私は特に何も反論しなかったが、これまでの書き順を変えることはなかった。
だって落語家と客は、扇子という結界で向こうとこっちに別れているんだよ。
扇子をはさんで書き順が逆になるのは当然だと思う。
私は次に何を演じるべきか考えるためにネタ帳を見る立場ではない。
次に誰が出て来るかな? と楽しむ立場である。
寿司屋では、カウンターについた客が符丁で話すのは無粋である。
と昔、聞いたことがある。
寿司屋の符丁とはアガリ、シャリ、ムラサキ、ガリ……など。
今やこれらの符丁は一般化されているから意味のない言い伝えかも知れない。
まして私は回る寿司しか食べたことないし。
とはいえ。
落語に関しても、その言い伝えに近い無粋さ……というか、こっぱずかしさを感じるのだ。
落語家でもないのに、ギャラをワリと言ったり、代演を代バネと言ったり……。
揚句にネタ帳を真似た書き順でツイッターをアップする?
こっばずかしくてケツの穴が痒くなる……って、この表現の方が無粋だな。
まあ、誰も気にしないだろうが、私一人が気にしているのだ。
私は楽屋でネタ帳を書く前座ではない。
ただの素人の客なのだ。
だから自分が好きなように、演者、演目の順で書き記す。
小さいけれど、大きなことなのだ。
私にとっては。
どっとはらい。
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