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替り目

旅先で朝食に海鮮丼を食べた。
ホテルバイキングである。
すし飯にハマチやサーモンを好きなだけのせて、イクラもたっぷりかける。
朝からお刺身なんて贅沢だなあ……と思ったのだが。

寿司や刺身を贅沢に思うなんて一昔前の感覚かと思いつく。
冷凍技術や流通の向上により、今や刺身や寿司はいつでもどこでも食べられる。
寿司なんてあちこちで回っているわけで。

一人で暮らしていると、時代感覚が止まったままである。
子や孫がいれば新しい感覚が身近にあるのだろうが。
頑張ってPCを使い(パソコンなんて呼ぶのも古いらしい)スマホだって使っているけれど。
そういうわかりやすいんじゃなく、この寿司感覚のようなゆるーい変化が困るのだ。

たとえば、新聞。
一人暮らしを始めて新聞を取り始めた時、大人になったと誇らしく感じたものである。

だが気がつくと近頃は、アパートで新聞を取っているのは我が家と白髪の老婦人の二軒だけ。
夫婦や家族が住んでいるのに、どこも新聞を取っていない。

新聞はもはやオワコンらしい。
って「オワコン」て言葉もオワコンだが。

折込広告も年々薄くなる

正直、新聞で真面目に読むのはテレビ欄や読書欄ぐらいである。
ニュースはSNSの方がはるかに早いし、テレビのがわかりやすい。
けれど時に新聞の特集記事を熱心に読んだりもする。

そして一人暮らしの私には、新聞に重要な役割がある。
一人室内で突然死したとしよう。
家族も友人知人もいない私は一人で腐乱死体になっていく。

そこで新聞の登場である。
毎朝届く新聞が取り込まれず、ポストに何日分も詰め込まれる。
やがて近所の人が異変に気づき遺体が発見されるのだ。
その頃には異臭も漂っていることだろう。

けど別に死んじゃったらいつ発見されてもいいんじゃない?
腐ってもどうせ焼くんだし。
そのために新聞なんかにお金をかけることもないでしょう。

などと迷いつつ、数日の旅行の際には新聞を休むよう新聞屋さんに頼むのだった。

そして、家電。
昔は「かでん」と読んで電化製品全般を指したのに、今や「いえでん」固定電話を表している。
もう殆ど使わない家電の撤去についても迷っている。

……と語り始めると、話はどこまでも続いてしまう。
とにかく替り目はむずかしいという話である。

※落語の「替り目」なら桃月庵白酒師匠のが好きです。
さーらばラバウルよ♫
で始まり、下唇がものを言い、おでんの具にこだわる「替り目」です。

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