カメラ片手に、プロの写真家と散歩した話〜王子編〜 第1話
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(前回の記事はこちら)
今回の撮影地は、以下のエリアを中心にお届けします。
動きのあるものをどう撮るか?
設楽:
今回は北区の名所、王子にやってきました。このエリアは都電荒川線が走っていたり、東京の桜の名所の一つである飛鳥山公園があったりなど、撮影スポットがたくさんあるので楽しそうですね。
それでは早速歩いていきましょう。今回ですが、王子駅、まずどんな印象でしたか?
和田:
やっぱり王子駅といえば都電荒川線ですよね。写真を撮るという意識でこの駅で降りると、ファーストインプレッションで都電荒川線が目に入ってきますね。
設楽:
こういう電車を撮るときに和田さんが気をつけていたりすることはありますか?
和田:
例えばこの写真ですと、右の白い電車にピントを合わせているので、必然的に手前のオレンジの電車にはピントが合っていませんよね。
動いているものを撮る時は、シャッタースピードを気にする必要があって、もし両方の電車をピタッと止めた写真を撮りたいならばシャッタースピードを速く、そうでなくてこういう風に意図的に一部をブラしたいならシャッタースピードを遅めにする、みたいな工夫はしています。
この写真で言うと、都電は街の中を走ってる感じがいいと思うので、もう少し引きで撮ってもよかったのかなーとは思いますね。あと車が白都電の脇に走っていたらもっといい写真になってたかもしれないですね。
設楽:
確かに!都電っていうのはどういう特徴なのかを考えて、その特徴をより生かせるような構図を考えるというのは大切かもしれないですね。あとシャッタースピードの件も勉強になります。
僕も同じような場所で都電を撮ったんですが、なんかのっぺりした写真になってしまったんですよね。動きが無いというか……。
電車って動いている感じを出した方が躍動感があると思っていて、僕が撮った写真だとそれが出てないんですよね。あえて一部をボケさせて、動いている感じを出した方がダイナミックな構図になりますよね。
和田:
ちなみに、僕の撮ったさっきの写真は、1/50のf5.6なんですが、このぐらいのシャッタースピードだと今回の場合はああいうブレが生まれるんですね。
設楽:
同じような構図でも「一つは止めて一つはブラして撮る」という部分を意識すると、こんなにも動きのある写真になるというのは本当に勉強になりますね。
和田:
ピントとかシャッタースピードの話でいうと、駅から離れたところに駐輪場がありましたが、そこでこういう写真を撮りました。単なる自転車置き場でもこういう風に撮ると物語性が生まれると思いませんか?
設楽:
うわーー!!本当ですね。なんかアート作品っぽくなりますね(笑)。これもシャッタースピードを遅くして撮ったりするんですか?
和田:
これはシャッタースピードではなくて、意図的に手振れを入れて撮影したんです。シャッターを切るときにカメラをちょっと動かしながら切る。そうするとこういう面白い写真が撮れるんですね。
今回の場合は、このように撮ることで「自転車置き場の雑然」とか「人の忙しさ」みたいなものが表現できると思いませんか。
設楽:
はい、一気に一枚の写真が文学的になりますね(笑)。メッセージ性があるといえば、和田さんが撮ったこの一枚も面白いなと思っていまして。
このゴルフ練習場って、混沌としている王子の駅前に突然現れるんですよね。
ゴルフって、もっと広大な場所で自然に囲まれて開放感のある場所でやるスポーツじゃないですか。でも日本の場合は土地が狭いのでゴルフを練習するのはこういう限られた場所で立体的に建物を建てて、効率的にお客さんをさばいていますよね。なんかある意味シュールな感じですよね。
和田:
この写真は曲線が綺麗だったので、それを狙って撮ったんですが、設楽さんみたいな解釈をすると、現代写真という文脈で捉えることもできますよね。たしかに見方を変えるとシニカルに見えるかもしれません。
設楽:
線の話が出ましたが、この後に川と首都高が折り重なるエリアに行ったのですが、ここも面白い写真が撮れているので見てみましょう。
このエリアは直線、曲線が混ざった色々な構図が撮れたので、とてもいい勉強になるエリアでした。
和田:
そうですね、デザイン性とか幾何学性を感じられるエリアでしたよね。ちょっとお互いに撮った写真を並べてみましょうか。まずは僕が撮った写真からです。
設楽:
私もここは色々試して撮りました。以下ちょっと見ていただけますか。
和田:
おー、二枚目の写真は良いですね。まず遠近がある。あとこの日は確か雨が降った後晴れたので、床面の赤がより強く出てますよね。その赤が強い一方で空が白と青でそのコントラストがいいですね。
あと画面構成も、空が6割に対して床が4割というのもバランスいいですね。それと手前の手すりを構図に入れたのも、遠近感が出ていて素晴らしいと思いますよ。
この手すりを手元に入れることによって「何かこれから始まるよ」っていう感じが出ませんか?見てる人が「あーこの人ここからこの階段を降りるのかな?」と連想させるような一枚になっていますよね。
あと、レンズの構造的に、手前のものって歪むんです。実際はこの手前の間口ってこんなに広く無いはずなんですが、パースが強調されて広がりが出ていますよね。これがこの写真を面白く見せているもう一つのポイントです。
それと、この写真には「レイヤー」がたくさん入ってますよね。いい写真というのはレイヤーがたくさん入っている場合が多いんです。
設楽:
レイヤーがたくさん入っているってどういう意味なんですか?
和田:
ただ、「空が綺麗」という写真だとレイヤーが一つですよね。そうじゃなくて空も綺麗だし赤とのコントラストがあるし、遠近感もあるし、パースを捉えているし、画面の構成比のバランスがいいし……のように、いくつかのレイヤーが重なっていた方が良い写真に見える場合が多いんですね。
設楽:
なるほど、レイヤーを複数入れるんですね。これは意識しても今の私の技術では無理なので、訓練してそういう眼と腕を磨いていくしかないですね。
(つづく)
【プロフィール】
東京都八王子市高尾山の麓出身。東京在住の編集者&ライター。ホッピー/ホルモン/マティーニ/アナログレコード/読書/DJ