見出し画像

岩本薫先生に聞こう(3)

前回より続いてます)

岩本 プロットの中にある程度セリフを入れることによって、主役だけでなく脇キャラの性格も固めていってるっていうのがあるのね。脇キャラって初めからはそんなにガチガチに決め込まないから。

榎田 なるほど……。私も一応自分のプロットを持ってきたわけですが……。(といって取り出す)。『カブキブ!』ですけど、私のはあんまりセリフは入ってないですね。キャラの説明なんかは似てるね。

岩本 うんうん。

榎田 私は章立てがもうここで決まっている。で、同時に、視点も決まってます。プロットの段階で。

岩本 ああ、視点ね。

榎田 視点はここで決めてしまって、全体のバランスを取らないといけないので……。あとはセリフなどはほとんど入らなくて、起きる事柄が書いてあるだけという……。

◆カブキブ!二巻 あらすじ◆

【序幕】1巻の続き・三人吉三の芝居中/トンボ視点
 音響を担当していたトンボは、突然花道から現れた金髪男に驚く。舞台上の芳と花満も同様に呆気にとられている。金髪男は朗々と台詞を喋り、のびのびと芝居をしている。三人吉三は福祉センターのお年寄りたちの拍手喝采を受け、金髪男はご満悦顔。

【二幕】芝居直後~9月頭/クロ一人称
 病院。熱中症で倒れたクロのもとにみんなが集まっている。(母親も一度来たが、もう帰ったあと)芝居の格好のままなので、めちゃくちゃ目立ちまくっている一団。もう回復しているクロはみんなに心配かけたことを謝り、その後の顛末を聞く。金髪男は阿久津新だった。子供の頃に稽古はいやというほど稽古し、そのせいで歌舞伎が嫌いになったが、仲間はずれはもっと嫌いだという子供っぽい性格の新。やはりカブキ同好会に入りたかったようで「なんでもっと熱心に俺を誘わないんだ!」などと子供っぽくすね、丸ちゃんに呆れられる。舞台に立ったのは始めてだが「めちゃくちゃ楽しかった」らしく、殆ど緊張もしなかったらしい。その度胸に驚くクロ。後日、録画で観た新の演技は歌舞伎の基礎ができている他にも、芝居が大きく、天性のスター性があるように思える。
 二学期が始まった学校。クロは三人吉三を観てくれた芳のファンたちに芝居の感想を聞く「芳様はすてきだったし、思ってたより面白かった」と言ってくれる。だが、クロたちがいない場では「なんか台詞が意味不明だし、ストーリーはわかんないし……芳様いなかったら観ないよねー」と本音を漏らしていた。わかっていたつもりだが、ショックを受けるクロ。このまま文化祭に挑んでも、みな同じ反応だろう。台詞をわかりやすくすることも考えたが、黙阿弥の狂言は台詞回しが肝なので、現代語にはしたくない。どうしたらいいか、悩むクロ。
 放課後、文化祭実行委員会に呼び出されるクロ。カブキ同好会の参加は認められたが、上演する場所がないのだ。いつも使っている旧校舎は文化祭りあいだは施錠されてしまう。百名ほど入る講義室を希望しているのだが、そこは演劇部がリハーサル室として毎年使っている場所。リハーサルならば他の教室でもできるだろうし、譲ってほしいと頼み込むクロ。だが芳先輩を取られたという反感もあり、演劇部は応じてくれない。もちまえのしつこさで食い下がるクロに、部長のキリコは「それなら、どちらがあの部屋を使うのに相応しいか勝負しましょう」と言い出す。彼女が言い出したのは滑舌を競う「早口言葉」の対決。『外郎売』の台詞で勝負しようと言い出す。受けて立つクロ。

【三幕】9月なかば/クロ一人称 
 カブキ同好会は全員で『外郎売』の特訓中。そんな中、遠見先生が父親を連れてくる。かつて大向こうの会に所属していた父を同好会の指導員にしようと考えている遠見だが、父親は「そんなガラじゃねえよう、俺は」と引き受けてくれない。だが、自分に代わる指導員に心当たりがありそうなことを言う。正蔵は生徒たちの稽古を見て面白がり、「なかなかやるじゃねえか、おまえら。そうだ、屋号をつけろよ。文化祭で俺が大向こうを入れてやらあ」と請け負ってくれる。歌舞伎ツウの正蔵に、演出の相談してみるクロ。会話の中に、打開策のヒントが生まれる。


※実際のプロットの一部になります。


岩本 私も今はこんな感じです。

榎田 あ、最近はもうあっさり気味?

岩本 そう。なにが起きるのかということを、簡潔にまとめているプロットになってます。デビューして最初の数年は、詳細な長いプロットにしてたけど……だんだん変わっていくよね。今回公開したロッセのプロットは初級編というか。

榎田 いやいやいや(笑) これ初級の人書けないよ。大変だよ(笑)

岩本 そうかなぁ。私の場合は、頭の中の映像を自動書記的に文章化していくだけだから……。

榎田 プロットの作り方として、頭の中で完成している物語をアウトプットする方法、物語そのものを考えながらプロットを書いていく方法があると思うんですよ。岩本さんのこれは前者で、もう頭の中で完全にお話ができているんだよね。頭の中に映像としてあるものをスルスル出していくと、こういう詳細なプロットになる、と。ちなみに、このプロットはどれぐらいの期間で作ったんですか。

岩本 今だとプロットにかける日数は2、3日だけど……この頃は一週間くらいかけていたと思う。

榎田 かかるよね……この分量だもん。これ本文の二章分くらいあるもの。

岩本 さっきも言ったように、最近はここまで細かくなくて、もっとざっくりしたプロットなので、そうなると原稿を書き始めてから、途中途中「さてここをどうしようか」と考えることになるんです。そうすると、前のエピソードを受けて「あ、意外とこの脇キャラがいい味出してるから、もっと活躍させようかな」みたいに臨機応変になっていって、自由度が増すんです。キャラの言動次第というか、ある意味行き当たりばったりなところがあって自分でも先が読めず、書いていて楽しい(笑)

榎田 でも、全体的な流れは決まってるんですよね。その流れに沿うエピソードを考える感じ?

岩本 もちろん、着地点は決まっています。ただそこに至るルートがそこまで厳密に定まっていない感じ。昔はRPGゲームで言えば、どのルートを選ぶかまできっちり事前に決めていた。そうすると迷いはないし、間違いもないけれど、書き上げた時のカタルシスがやや薄めで……。途中でルートを変えるのも怖くなっちゃうしね。

榎田 今は途中で「さて」と立ちどまっても、そこからちゃんと繋がるエピソードを考えられるスキルがに身についてるっていうことかな。納期っていうものがあるので、いつまでも考えてるわけにいかないしね。ある程度仕事をしていくと、「これぐらいのエピソードを考えておけば自分は執筆に入って大丈夫」っていうラインがわかってくるんだよね。

岩本 そう、昔はそもそも期日内に一作書き上げられるのか自信がなくて、とにかく詳細なプロット作っておいて、エピソードもたくさん考えておいて……原稿ができあがってから、いらないエピソードがあったら削ればいいかな、と。詳細なプロットが保険になっていた。

榎田 いったん書き上げてから修正していく分には、精神的な余裕もあるしね……。さて、こういったプロットを編集者に提出し、OKをもらったらいよいよ原稿に入るわけですけれども、私の場合、細々したエピソードはその場で考えていくので、このプロットの欄外に、手書きの付け足し事項がどんどん出てきます。フリクションの細いやつで、ごちゃごちゃ書いていくわけです。その付け加えたエピソードが、また違うエピソードを発生させたりもする。執筆中は、その紙をよく持ち歩いて、カフェなんかでごそごそ出しては、また先の展開をいろいろ考えて……というふうになっていくんですけど、そういうのありますか?

岩本 私は、OKが出たプロットを、8章分なら8分割にして、それを下書きみたいな感じで利用するんですよ。つまり本編のファイルに、プロットのテキストを一度流し込んでしまう。

榎田 ということは……私だとプロットと原稿本文のファイル名はまったく別なんだけど、岩本さんの場合、プロットのファイルそのものから本文が書き起こされるというわけですね。

岩本 そうです。ベースとして利用する。プロットの再利用(笑)。だからセリフなんかもプロットのまま使ったりする。書いてる途中で思いついたエピソードなんかも、自分用のメモとして、原稿本文のファイル上にそのまま書いてしまうの。

榎田 ほぉぉ。……なんか私、1回手で書かないとだめなんだよね。

岩本 そのあたりは人によるよね。私は手で書くより、こっちのやり方があってるみたい。コピペでエピソードを移動したり、入れ替えたりできるし。手書きだと、難しい漢字とか出てきたら面倒じゃない(笑)

榎田 ひらがなで書くんだよ!(笑) ところで、視点や人称はどこで決めてます?

岩本 ええとね……あ、この時は統一視点だったんだ。この頃は作品の途中で視点や人称を変えるっていうことをしてないんだよね。フレキシブルになってきたのは、ここ5、6年かな。

榎田 ああ、そうなんだ。BL作品の場合は視点が統一されてる場合が多いよね。三人称で受視点というのが一番多いかな。あとは攻と受、交互視点も結構あるかな。

岩本 ロッセの場合、一冊の中では視点も人称も統一になってます。長男編と次男編は受の三人称。三男編だけは、受の一人称で統一。三男は、いわゆるかわいこちゃん受なので、その雰囲気を出したいなと思って。地の文の中で「ぼくは……」と喋らせて、少し幼い感じを演出したいっていう狙いもあった。

榎田 一人称って、一番キャラの性格や性質が出るんだよね。幼くてかわいい子だったらそれが出るし、毒舌なおっさんだったらそれが出る。

岩本 一人称は最初に「オッス、オラ悟空」って言えちゃえる。これこれこういう生い立ちで、こんな性格で、年はいくつで大学生で……と、自己紹介ができるわけです。三人称はそれができない。

榎田 三人称の場合、自分以外の人を先に語る形になりますね。一人称は、読み手にとっても、視点の混乱がなくて読みやすいんだけど、ただ欠点として……ええと、ロッセの場合、このルカくんの一人称なわけですけど、彼が「ぼくは~した」「ぼくは~を見た」という感じで進むので、ルカくんがいない場所で起こったことについては書けないんだよね。

岩本 そうなの。ルカは世間知らずのお坊ちゃんで、しかもイタリア人なので、現代日本について知らないことやワードが多い。一人称だとルカが知らないことは書けない(笑)

榎田 うん(笑)制限がかなりあるんだよね。語彙の制限も出てしまう。

岩本 そう。その子がわかる範囲でしか語れない。なので、日本で知り合った大学生を親友ポジションにして、その彼に日本のルールやトレンドなどを語らせたりもしました。余談ですが、その彼はリンクシリーズの主役になったので、脇もキャラが立つと、のちのちそういった展開ができたりも……と話が逸れましたが、実はロッセリーニは単行本3冊でっていうオファーだったんだけど、場合によっては、ルカ編だけ文庫にしようかと思ってたんだよね。

榎田 え。なぜルカたんだけ文庫に……?

岩本 他の2冊に比べてややライトタッチで、話のスケール感が小さめかなと思って。でも書き終わったら、とくにこれだけ軽くなるとこともなかったので、全部単行本でいきましょうってことになったんだけど。

榎田 それに三男編だから、みんなゲイになっちゃって、跡継ぎどうする的な問題のまとめも……。

岩本 いやいや、三男編出たの二番目だから。

榎田 ん? あっ、そうか。

岩本 長男編がちょっと重めな話になったので、敢えてとっつきのいい天然お花ちゃんの三男編を真ん中に挟んだんです。2冊目からでもシリーズに入ってきていただきたいなと思って。跡継ぎ問題は、結局3冊でケリがつかなくて、『継承者』まで引っ張りました。

榎田 あれ……私文庫版でまとめ読みしたから、順番おかしかったかもしれない。ええと……。

岩本 『略奪者』『守護者』『捕獲者』『共犯者』『継承者』(上下巻)の順です。冊数でいうと6冊だね。

榎田 そうかそうか。失礼しました。うーん、どれもいいタイトルですね。

岩本 あざーす(笑)。タイトルもね……家名のロッセリーニがなかなか決まらなくて、イタリア人の名前の中からかっこいい語感のものを百くらいピックアップして、その中から徐々にふるいにかけていって……。

榎田 ナントカ家、というのは決まってたんだ?

岩本 ナントカ家の息子、というサブタイトルにしたいっていうのは決まってたの。ただそのナントカに入る姓がなかなか決まらなかった。

榎田 そこ、大事だしねえ。

岩本 大事だよ~(笑)サブタイトルにもなるし!

榎田 ゴンザレス家だと、ずいぶん印象違うからね。

岩本 ちょっとゴツいイメージになるよね(笑)かといって、あまりに綺麗すぎるのも弱いかな~と。すごく悩んだ。最終的にはいくつかに絞った名前を編集部に提出して、多数決で決めてもらったけど。

榎田 この「○○者」というタイトルはどの段階で決まったの?

岩本 シリーズ全部のタイトルを『○○者』という形で統一しようというのが先にあって。でもそれだけだと、BLにしては硬質すぎるかなっていう懸念もあり……。『○○者』で、各物語の内容を表して、『ロッセリーニ家の息子』というサブタイトルで、シリーズ全体の内容を表す……という合わせ技に落ち着きました。

榎田 うんうん。エンタメ小説の場合、タイトルにある程度の情報を入れないといけないのでサブタイトルも大切なんだよね。そこから作品の雰囲気やテイストを伝える必要があるから……。

岩本 そうなんだよね。私、基本的にタイトルは短めで内容を端的に伝えているものが好みなんだけど、ストレート過ぎると余韻とかムードに欠けることもあって、なかなか難しいです。


 今回も岩本先生との対談をお送りいたしました~。いかがでしたでしょうか。私のプロットも一部公開いたしました。前に画像でも出している部分ですね。『カブキブ!』1~3巻発売中。よろしくお願いいたします。

 対談、まだもう少し続きますが、あいだに別記事も挟んでいくかもしれません。相変わらずテープ起こしが遅いので、気長にお待ちください。でもなんかちょっと慣れてきたよ、テープ起こし! もうテープじゃないけど!(笑)


#創作 #小説 #BL