見出し画像

5年間、大河ドラマで男性主人公が続いてしまう…

 5年間、大河ドラマで男性主人公の物語が放送されます。
 今絶賛放送中の作品は、長谷川博己さん演じる明智光秀が主人公の『麒麟がくる』です。前回の放送でようやく織田信長が登場し、この回の最後のシーンで今川義元が「織田と戦じゃぁぁぁぁ」なんて叫んでいたので、もうすぐ桶狭間の戦いかな、というところですね。
 さて、次に予定されている作品は『晴天を衝(つ)け』。主人公は、まもなく諭吉さんから一万円札の顔を引き継ぐ金融界のドン、実業家の渋沢栄一。演じるのはこの間のアカデミー賞で最優秀助演男優賞を受賞した吉沢亮さんだそうです。
 そして数ヶ月ほど前に公式発表されました、さらに次の作品。『新撰組!』や『真田丸』、これら2作品の脚本を手掛けた巨匠、三谷幸喜さんの大河ドラマ3作目、『鎌倉殿の13人』です。主人公は小栗旬さん演じる北条義時。鎌倉時代が描かれるのは2012年の『平清盛』以降ですかね。
 以上、3作品はどれも男性が主人公のお話となります。

 では次に、過去の作品を振り返ってみましょう。
 前回の大河ドラマは、中村勘九郎さん演じる金栗四三と阿部サダヲさん演じる田畑政治のダブル主演として話題になった『いだてん』。ビートたけしさん演じる古今亭志ん生を裏の主人公とする解釈もありましたね。政治的な解釈がどうしても問われる近代という時代を描いたこともあってか、ドラマに対して中傷と絶賛の嵐が吹き荒れていたんじゃないかと思います。私は2019年の前半は海外にいたので、そうですね、私が帰国した時はちょうど、金栗さんが選手として引退して学校の教員になり、女子生徒も男子と同じようにスポーツができないのはおかしいと、父権社会に物申しているときでした。その後も毎週みていましたが一回一回が目を話せませんでした。まあちゃんやごりんと一緒に私も走りぬいた!おもしろかった。
 ちなみに、このとき読んだ文春オンラインの記事にとても感銘を受けたのでぜひ読んでください。『いだてん』に関する批評はそれなりにいくつか読んでいましたが、この記事には脱帽しました。
 長くなりましたね。次にいきましょう。『いだてん』の前は『西郷どん』です。鈴木亮平さん演じる西郷隆盛が主役でした。脚本家の中園ミホさんと鈴木亮平さんときけば、私は朝ドラの『花子とアン』を思い出します。
 以上、過去2作品もまた、男性が主役の物語でした(ちょっと比率的に『西郷どん』に関する文章が少ないですが、すみません。リアルタイムで日本におらず、まだちゃんとみていないのです)。

 つまり、過去と現在放送中の3作品および次の2作品、合計5作品すべてが男性主人公のストーリーであり、2018年の『西郷どん』から2022年の『鎌倉殿の13人』まで、大河ドラマで女性が主役にならないということです。

 1966年から大河ドラマの放送が始まり、1999年の第1作から第38作目までは、女性主人公のものは7作品でした。少ないです。少ないですね。
 ただ、たしかに私たちが歴史の授業で勉強し、「〇〇がーーを作った」と、テスト前に暗記する〇〇の人物名の多くが男性のものです。私たちが勉強する「歴史」というひとつの物語の登場人物に男性キャラクターが多いように、大河ドラマの登場人物もまた、男性キャラクターが多く、主役を男性が務めることもまた必然なのかもしれません。
 しかし、その「歴史」は、本当に「歴史」なのでしょうか。
 歴史、この「大河」と称される時間の流れを対象に、多くの研究者が既存の「歴史」に新しい視点を入れるべく奮闘しています。ここで歴史研究というものについて書き始めるときりがないのでやめておきますが、とにかく、大河ドラマの担当スタッフの間でも、おそらく従来の価値に新しい視点を取り入れようと動きがあったのではないでしょうか。
 「大河」を描くドラマにふさわしい人物は誰か。38作品中たった7作品しか女性が主人公になれなかった大河ドラマ史の中で、大きくその傾向を変えたのが2006年以降でしょう。
 NHKの公式ホームページを参照して歴代の作品をまとめてみました。

スクリーンショット 2020-03-14 15.34.40

 右に丸印をつけたところが女性主人公の大河ドラマになります。2006年の『功名が辻』では、ダブル主演ではありますが、仲間由紀恵さんが山内一豊の妻、千代を演じました。それ以降、一部例外はありますが概ね、隔年で女性が主人公となっていることがわかると思います。しかしそれも、2017年の『おんな城主 直虎』までです。
 直虎で柴咲コウさんが井伊直虎を演じて以降、放送が予定されている北条義時のものまで女性主人公はいません。『功名が辻』と2002年の『利家とまつ』の間に男性主人公の作品が3つ続いていますが、5作品もの間が開くのは、21世紀に入って今が初めてです。

 ちょっとこれは問題ではないか、と、まだ誰も指摘していない気がするので、ここで声を挙げさせてください。
 5作品男性主人公の作品が続くことなんて、たいしたことじゃないだろうと思う人はいるでしょう。しかし、男性と女性が交互に主人公を務めるラインナップの中で、5作品も男性主人公のものが続くことは、単なる異例というだけではありません。20世紀の男性中心のラインナップへと後退しています。たいしたことです。
 朝ドラがあるからいいじゃないかと思う人もいるかもしれません。しかし、問題なのは大河ドラマの主人公における女性主人公の、21世紀始まって以来の不在状況です。朝ドラもNHKではありますが、まったく別枠のドラマです。

 じゃあどうすればいいのか。女性を主人公にしようと思っても、やはり「〇〇がーーを作った」の〇〇に当てはまるのは男性のほうが多いから、ネタ切れなのでしょうか。たしかに、家父長社会だった当時(今もか)、まつりごとを担ってきたのは主に男性でした。無理やり女性を主人公にしても、たとえば『花燃ゆ』の主人公の杉文は吉田松陰の妹ということでしたが、主なお仕事は攘夷志士たちにおにぎりを配ることでした。
 しかし、それこそ朝ドラで主人公のモデルにしてきた人々、『カーネーション』のコシノ三姉妹や『あさが来た』の広岡浅子さんなど、歴史の中で「ーーを作った」〇〇の女性はたくさんいます。直虎だっていました。新島八重だっていました。調べればもっとたくさんいるはずです。5作品も男性主人公の作品を続ける必要はありません。
 『いだてん』の年は、例年であれば女性を主人公にする年でしたが、しかし、脚本を手掛けた宮藤官九郎さんは、金栗さんとまあちゃんを主役に抜擢しました。宮藤官九郎さんは民放各局のテレビドラマでも多くの話題作を残し、NHKでは朝ドラの『あまちゃん』であれほどの社会現象を起こしました。彼なら、大河ドラマでも女性を主役に面白いものを作ることができたのではないでしょうか(繰り返しますが私はとても『いだてん』が好きでした。クドカン、ありがとう)。
 『晴天を衝け』の渋沢英一は、お札が変わるから、ということで主人公に決まったのでしょう。いや、なにも津田梅子にしておけばよかったのに、というつもりはありません。千円でもなく五千円でもなく、一万円という最高額の値段の人物を主人公に割り当てることは妥当だと思います(ただ、最高額の人物を男性にしている点に妥当性はありませんが)。ただ、(『いだてん』も東京オリンピックを目前にしてのものでしたが)NHKには、お国の政策に合わせたドラマではなく、視聴者が暮らす社会のニーズに合わせたドラマを作っていただきたいです。
 そして最後に『鎌倉殿の13人』です。なぜ北条政子を主人公にできなかったのか、と思ってしまいます。キャスト、スタッフの名前をみるだけで面白そうだし放送が待ち遠しいですが、残念です。

 そもそも大河ドラマの視聴者の多くは、現役を引退された、それこそ20世紀にまつりごとを行っていた方々でしょう。視聴者のニーズを考えれば妥当なラインナップなのかもしれません。そして、この視聴者の偏りから、もはや文化のメインストリームにあるとはいえない大河ドラマに対して、ああだこうだと意見する意義はないかもしれません。
 それでも、NHKという大きなメディアがこのようなジェンダー・バックラッシュをしているかもしれない状況を無視できません。私は大河ドラマの一視聴者として、この状況に危機感を覚えます。

 noteでの記念すべき初めての投稿がこんな内容になってしまいました。noteはじめました!みたいな投稿をあらかじめしておくべきでしたね。
 いや、一応、私はこれまでも別のブログサイトでちろちろ書いたりしていたことがあったので、ものを書いて投稿する、という行為に抵抗感はなかったんです(笑)。でも久しぶりに書きました。
 これまではインプットが足りないと思ってあえてものを書くのを控えていたんですが、ウイルスもあって、時間が空いたので。
 久しぶりに、新しいサイトで。

 また、書きたいと思った時になにか投稿します。
 どうぞよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?