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スタートアップ市場調査:生鮮物流DX編

いつもイークラウドのnoteをご覧いただきありがとうございます

イークラウドではサービス開始以来、株式投資型クラウドファンディングを通して20案件以上をご紹介してまいりました。ご紹介した企業の事業領域も幅広く、オンラインのカタログギフトからはじまり、D2C、SaaS、Femtech、培養肉、クラフトビール、ドローン、VR、AIなど幅広い事業領域のスタートアップ企業のサポートをしてまいりました。これからも、多種多様なスタートアップ企業をサポートしていきたいと思っております。
毎回スタートアップ企業の事業領域を深堀しながら、その企業のご紹介のストーリーを考えていますが、今回は弊社のインターンの前田が、今後イークラウドでご紹介したい特定の業界に関する市場の動向や注目のスタートアップ、その業界でECFを実施したスタートアップなどを調査しました。
本記事では、コロナ禍の影響もあり、より注目を集めている「生鮮物流DX」をテーマとして、調査しました。
・「生鮮品の物流DXの市場は、現在どのような状況?」
・「生鮮品の物流DX市場に、どのような企業が取り組んでいる?」
・「生鮮品の物流DX市場は、今後どう成長していくの?」
などの疑問に少しでもお答えするような記事になれば幸いです。
*本記事は、1ドル=138.7円(*2023年7月16日)のレートで計算しています。


■生鮮物流DXとは?

生鮮品の供給や価値をデジタル技術で最大化させる取り組み

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、約20年前に「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という意味で提唱された概念であり、多くの分野でDXが推進されています。
卸売市場を中心に発展した農作物や鮮魚などを含む、生鮮品の物流DXは近年「スマートフードチェーン」と呼ばれています。生産から消費に届くまでの全フードチェーンのプロセスをAIやデータ連携基盤等を用いてスマート化していくことで、生産性の向上、トータルコストの削減、高付加価値化、ニーズのマッチングなどを実現していくことを目的としています。


■生鮮物流DXサービス関連の市場規模

国内でも年次成長率が12%以上の成長市場

世界の食品・食料品の小売市場は、2021年度で$1,132.4B(約157兆円)、2030年までに年次成長率3%が予測されています。生鮮品の領域(リンク先の図の濃紫色)も同様に、デジタル技術による効率的な在庫管理、市場流通、EC市場などの販路拡大により、緩やかな市場成長が予測されています

食品のオンライン流通市場にフォーカスすると、2030年までに$2,160.7 B(約299兆円)、年次19.97%の成長と、DXによる流通市場は急成長が見込まれています。これは、コロナ禍による非接触型の消費習慣への変化が今後も継続していくことが要因とされています。

日本国内でも同様に、DXによる食品の流通規模の急成長が予測されています。生鮮品におけるECでの流通にフォーカスすると市場規模は、2030年に2,065億円まで拡大していくと言われています。https://fintos.jp/page/16934

(出所)野村アグリプランニング&アドバイザリー(https://fintos.jp/page/16934)


■生鮮物流DXサービスの現在

市場内流通と市場外流通のDX

生産者から消費者に届くまでの生鮮品の物流は大きく2つのプロセスに分けられます。1つ目は、協同組合や卸売市場などの複数の仲介を介した流通を行う「市場内流通」(市場流通)です。もう1つは、生産者から小売業者・消費者まで直接流通することを指す「市場外流通」です。

青果流通の全体像

生鮮流通のDXに取り組むスタートアップでは、市場外流通の新規開拓に取り組むケースが多く見られます。特に、コロナ禍を契機に、メディアで取り上げられる頻度が高くなったことから生鮮流通のDXに取り組む事業者が社会に認知されはじめ、市場外流通での物流量も上昇しています。

また、市場内流通のDXに取り組むスタートアップも存在します。例えば、FAXや電話などで行われていた出荷者と流通事業者間のコミュニケーションを、スマホ1つで手軽に行えるようにすることで、効率の良い流通を実施できるようなサービスを提供しています。

市場流通量の割合に目を向けてみると、市場内流通が多い傾向にあります。例えば、国内で生産された青果品の流通にフォーカスすると、消費者に届く約80%は、卸売市場を介した市場内流通で届けられているそうです。

国内外において取り組みが加速している生鮮品への物流DXですが、生鮮品が持つ商品の不均一さや消費期限等の日数の制限などの不確実性の高さから、未だに多くの課題が存在しています。
(参照:農業DXをめぐる現状と課題:農林水産省


行政も生鮮DX化に本格的に参画

生鮮品のサプライチェーンに関わる事業者同士が、お互いに持っているデータを共有できるukabis(ウカビス)が2023年より実証導入されました。ukabisは、内閣府主導のプログラムからはじまり、現在は一般社団法人スマートフードチェーン推進機構によって運営されています。生産、加工・流通、販売・消費、資源循環、育種/品種改良 におけるデータ共有を可能とする情報連携基盤を提供しており、生産者は、自分の出荷した農産物が誰の手を経由して、どこで、いくらで、いつ販売されたのかを知ることができ、小売業者は、入荷した農産物が、誰が、いつ、どうやって生産し、出荷したものかを知ることができます。


■生鮮物流DXサービスを提供する上場企業

すでに上場している企業においても、生鮮品の物流DXに関連する様々なサービスが提供されています。

①株式会社農業総合研究所

時価総額:81億2,000万円(*2023年7月16日現在)
事業概要:農産物の産地直送販売を都市部のスーパーで実現した「農家の直売所事業」と、生産者から農産物を買い取り、ブランディングしてスーパーに卸す「産直卸事業」を運営。全国約10,000名の生産者と都市部を中心とした約2,000店舗の小売店をITでダイレクトに繋ぎ、情報・物流・決済のプラットフォームを構築している。

(出典:https://nousouken.co.jp/)

②株式会社セラク

時価総額:217億5,200円(*2023年7月16日現在)
事業概要:青果流通の現場にバーコードやクラウドシステムなどを用いたデジタル技術を導入する農業IoTサービス「みどりクラウド」を提供。農業者や出荷団体にとって負担となっていた集荷・出荷における計数・伝票発行作業を大幅に省力化や、青果物に対して個体識別番号を付与することで、青果物のロット単位でのトレーサビリティを実現する。

(出典:https://www.seraku.co.jp/)

③株式会社フーディソン

時価総額:84億8,400億円(*2023年7月16日現在)
事業概要:飲食店向け生鮮品EC『魚ポチ』、いつも新しい発見のある街の鮮魚店『sakana bacca(サカナバッカ)』、フード業界に特化した人材紹介サービス『フード人材バンク』を運営している。

(出典:https://foodison.jp/)


■生鮮物流DXサービスのスタートアップ *非上場

生鮮品の物流DXに関連するサービスを提供する非上場企業も多数あります。ここでは、4社取り挙げていきたいと思います。

①株式会社Kiritori

創業:2015年
時価総額:2,300万円(*INITIAL:2015/06/30時点
事業概要:流通現場を最適化する農産物流通特化型SaaS「nimaru」を運営。出荷者と流通事業者間のコミュニケーションをスマホで手軽に行えるサービス。リアル店舗「八彩 & KAJITSU」での青果物小売・加工販売を行う。
株主:グローバル・ブレイン株式会社 / 株式会社Coral Capital

(出典:https://www.kikitori.jp/)

②ベジクル株式会社

創業:2009年
時価総額:10億円(*INITIAL:2022/05/25時点
事業概要:LINEやメールに対応した発注システムを持つ業務用野菜ECサービス「ベジクル」の運営。首都圏を中心に自社で物流ネットワークを構築し、飲食店向けの業務用野菜の卸売り事業を展開する。
株主:レオス・キャピタルパートナーズ株式会社

(出典:https://www.vegekul.com/)

③株式会社ウーオ

創業:2016年
評価額:10億1,200万円(*INITIAL:2020/05/29時点
事業概要:スマホで全国の漁港や市場から安定した鮮魚仕入れできる法人向け鮮魚発注アプリ「UUUO(ウーオ)」や、水産卸売企業向けに入荷案内・受注業務を支援するスマートフォンアプリ「atohama」を運営。
株主:とっとりキャピタル株式会社 / Full Commit Partners株式会社 / ツネイシキャピタルパートナーズ株式会社 / インキュベイトファンド株式会社 / 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社

(出典:https://uuuo.co.jp/)

④株式会社アグリゲート

創業:2010年
評価額:5億9,524万円(*イークラウド募集時:2023/07/31時点
事業概要:産地と消費者をつなぐ都市型八百屋「旬八青果店」や、食農領域のビジネススキル・知識等を提供する「旬八大学」を運営。
株主:オイシックス・ラ・大地株式会社 / 株式会社リープラジャパン
/ 日本戦略投資株式会社 / 全国農業協同組合連合会
/ アグリビジネス投資育成株式会社

(出典:https://www.agrigate.co.jp/)


■創業まもない生鮮物流DXサービス企業(創業5年以内)

こちらでは、創業から5年以内の生鮮物流DXサービスを提供する企業を紹介していきたいと思います。

①株式会社CAVIN

創業:2018年
評価額:24億8,000万円(*INITIAL:2022/10/27時点
事業概要:生産者と花屋の直接取引プラットフォーム「CAVIN(キャビン)」を運営。生産者がサイト上に花を出品し、それを生花店がスマートフォンやパソコンから直接注文できるシステムを構築。
株主:MCPアセット・マネジメント株式会社 / MCPジャパン・ホールディングス株式会社 / SGインキュベート株式会社 / 株式会社CARTA VENTURES / 株式会社FGN ABBALab

(出典:https://cavin.ooo/)

②クロスマート株式会社

創業:2018年
評価額:22億6,000万円(*INITIAL:2022/12/31時点
事業概要:飲食店様と卸売業者様をつなぐプラットフォーム「クロスオーダー」の運営。スマートフォン上のLINEでの受発注業務を可能にし、食品発注DXを推進している。現在、50,000店舗以上に導入中
株主:Emellience Partners株式会社 / 東京センチュリー株式会社 / SBIインベストメント株式会社 / 株式会社ギフティ / みずほキャピタル株式会社

(出典:https://xmart.co.jp/)

③株式会社Fant

創業:2019年
評価額:2億円(*INITIAL:2023/01/16時点
事業概要:ハンターとジビエ購入者を繋ぐプラットフォーム「Fant(ファント)」を運営。新しいジビエ流通のスキームを構築し、狩猟業界のDX化に取組む。
株主:株式会社POLAR SHORTCUT / 株式会社D2 Garage

(出典:https://fant.jp/)


■海外の生鮮物流DXスタートアップ

①Ninjacart(インド)

創業:2015年
総調達額:$332.3M(約460.9億円)(*Crunchbase:2023年7月時点
本社:インド
事業概要:独自のアプリケーションを用いて、農家から新鮮な農産物を調達し、インド全土の食料品店での販売を合理化することで、農家から店舗まで12時間以内で配達できるBtoBサプライチェーンを運営。インドの20都市以上でサービスを提供中。

(出典:https://ninjacart.in/)

②Full Harvest(アメリカ)

創業:2015年
総調達額:$39.5M(約54.78億円)(*Crunchbase:2023年7月時点
本社:アメリカ
事業概要:農家(生産者)と企業を直接結び、市場に出荷できない規格外野菜や余剰農産物を企業に直接販売するB2B向けの廃棄食材マッチングプラットフォーム。これまでに約4,500トンもの食料廃棄を防ぐ。

(出典:https://www.fullharvest.com/)

③Segari(インドネシア)

創業:2020年
総調達額:$16M(約22.1億円)(*Crunchbase:2023年7月時点
本社:インドネシア
事業概要:モバイルアプリから牛肉や野菜などの生鮮品をオンラインで注文すると、15時間以内に配送されるtoC向けの産直プラットフォーム。自社のマイクロ倉庫と、何千もの代理店とネットワークを構築し、品質を維持した生鮮品の輸送を可能にしている。

(出典:https://segari.id//)

④RipeLocker(アメリカ)

創業:2016年
総調達額:$15.58M(約21.6億円))(*Crunchbase:2023年7月時点
本社:アメリカ
事業概要:種類に応じてコンテナ内の酸素濃度や気圧などを最適に調整することで、青果物や切花の鮮度を長期間保持する独自のコンテナを提供。2021年より商用販売を開始し、ブルーベリーの鮮度は8週間、バラの鮮度を4週間保持が可能。

(出典:https://ripelocker.com/)


■株式投資型クラウドファンディングで調達した海外の生鮮物流DX関連スタートアップ

Aerofarms(アメリカ)

創業:2004年
総調達額:$238M(約333.1億円)(*Crunchbase:2023年7月時点
本社:アメリカ
事業概要:環境への影響を最小限に抑えながら健康的な食品を生産する屋内垂直農場を開発。元工場やナイトクラブ、ペイントボールの会場など、十分な広さの建物での屋内垂直農場を可能とし、持続的な高品質の生鮮品の供給を実現している。SeriesA($5M)直後の2010年に、株式投資型クラウドファンディングにおいて非公開の資金調達を実施した

(出典:https://www.aerofarms.com/)

■まとめ

生鮮品の物流DXに取り組む企業数は、スマートフォンが普及しはじめた2010年以降に増えはじめました。そして、2020年からのコロナ禍を契機に、市場規模も国内外で急成長しています。

事業内容の割合は、産直ECなどの市場外流通のDXに取り組むスタートアップが多く見られ、DXを主軸事業として上場する企業も出てきています。さらに、卸売市場を介した市場内流通のDXに取り組む企業もいくつかあります。こちらは、既に成熟した流通システムへ参入するため難易度は高いものの、相対的な流通量の割合が多いことから、DXによるインパクトは大きいものになると考えられます。

生鮮物流DX市場の面白いポイントは、2020年~2023年までの3年間で急変化したデジタルを介した物流方法や消費行動が決して一過性の変化ではなく、新しいライフスタイルとして今後もより浸透していくと見られている点です。
そして、国ごとに流通のルールや慣習が異なる市場だからこそ、グローバルカンパニーの参入障壁が高いという点です。

2023年から政府も本格的に取り組みはじめた生鮮品の物流DX市場は、今後どのような変革が起こっていき、私たちのライフスタイルにどのような変化をもたらしていくのか、楽しみでしかたありません!

イークラウドで生鮮物流DXに関連する業界のスタートアップも積極的に資金調達のサポートをしています。

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