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スタートアップ市場調査:バイオマスエネルギー編

いつもイークラウドのnoteをご覧いただきありがとうございます。

イークラウドではサービス開始以来、株式投資型クラウドファンディングを通して30案件近くをご紹介してまいりました。ご紹介した企業の事業領域も幅広く、オンラインのカタログギフトからはじまり、D2C、SaaS、Femtech、培養肉、クラフトビール、ドローン、VR、AIなど幅広い事業領域のスタートアップ企業のサポートをしてまいりました。これからも、多種多様なスタートアップ企業をサポートしていきたいと思っております。

今回も弊社のインターンの前田が、今後イークラウドでご紹介したい特定の業界に関する市場の動向や注目のスタートアップ、その業界で株式投資型クラウドファンディングを実施したスタートアップなどを調査しました。

本記事では、再生エネルギーの1つとして注目されている「バイオマスエネルギー」を中心に取り上げます。

・「バイオマスエネルギーの市場は、現在どのような状況?」
・「バイオマスエネルギー市場では、どのような企業が取り組んでいる?」
・「バイオマスエネルギー市場は、今後どう成長していくの?」

などの疑問に少しでもお答えできるような記事になれば幸いです。


■バイオマスエネルギーとは?

有機的な生物資源から得られるエネルギー

バイオマスエネルギーとは、有機的な生物由来の資源を利用して生み出される再生可能エネルギーの1つです。例えば、科学技術により効果的に大量培養された藻類微生物、利用用途のない木材などの天然素材、食品生ごみのような有機廃棄物などの資源を燃焼や発酵させることで、電力や熱エネルギーを生みだします。従来、主として行われてきた化石燃料を用いたエネルギー生産と比べ、資源の循環性の高さや、二酸化炭素の総排出量が低くなることが特徴です。
近年では、航空機やバスなどの交通機関におけるバイオマスエネルギーの利用実験も始まっています。しかし、従来の発電様式と比べて、発電効率の低さや原料の調達コストなどの課題もあります。

■バイオマスエネルギー関連の市場規模


年次成長率が6.0%の右肩上がりの世界市場

2030年までに、世界のバイオマスエネルギー市場は1,213億ドルであり、2022年から2030年までの年平均成長率6.0%での増加が予測される成長市場です。
近年の急速な都市化や人口増加におけるエネルギー需要の増加の中で、持続可能なエネルギーの獲得や環境負荷の軽減を目的とし、多くの国々で取り組まれていることが市場の成長につながっています。
バイオマスエネルギー市場を地域別に見ると、欧州が約37.0%の最大シェアを占めています。段階的に石炭エネルギーなどを廃止し、再生可能エネルギーに積極的なシフトを始めていることが理由にあります。
2番目のシェアとしては、米国やカナダを主とした北米地域が続いています。2023年以降の10年間における成長率は、アジア太平洋地域が一番高いことが予測されています。
バイオマスエネルギー市場を発電方式別に見ると、2021年度時点では、低いコストで稼働できる燃焼方式が88%を占めており、ガス化方式や発酵方式が後ろに続いています。
(参考:Biomass Power Market:PRECEDENCE RESERCH

国内でも上昇傾向の市場

国内では、2012年にFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)が始まり、バイオマスエネルギー市場が急激に拡大してきました。2018年度の4,359億円から、2035年までには1兆円を超える市場規模になることが予測されています。
企業と自治体が連携し、地域の産業振興の1つとして取り組まれている例も増加しています。しかし、木質バイオマス発電所の増加に伴い、原燃料の需給バランスが逼迫し、原燃料の不足や価格の上昇が懸念されている地域が出てきています。
現在は、原燃料の収集ネットワークの拡充や、未利用資源の探索による対策が行われています。

■バイオマスエネルギーの現在

多様なスタートアップがバイオマスエネルギー領域に参入している

世界中の多くのスタートアップが、バイオマスエネルギー領域にて多様な事業を行っています。バイオマスエネルギー領域は、欧米諸国が先進的に発展させてきました。日本市場では、既存のエネルギー系大企業や中小企業において積極的に取り組まれ始めています。立ち上げコストの高さなどから、企業数は少ないものの、スタートアップの参入も増加傾向にあります。
(参照:バイオ燃料開発の会社・企業一覧

スタートアップによるバイオマスエネルギー領域への参入は、さまざまな形で行われています。アメリカ発のSierra Energy社は、FastOxガス化技術を用いて、高温化で有機廃棄物を分子レベルまで分解することにより、廃棄物を粒子状でタールのない合成ガスに分解する技術を開発しています。スコットランド発のCeltic Renewables社では、ウイスキー製造過程に出る副産物を原料とし、バクテリアによる発酵と熱加水分解プロセスを応用することで、糖分をバイオブタノールへ変換する技術を開発しています。

地域的課題に対してエネルギー開発を行うスタートアップもあります。アルジェリア発のGreenAl社は、広大な土地に孤立した多くの集落が存在する地域的課題に対して、家庭や農家が出した有機廃棄物からバイオガスを生成し、自家用エネルギーを確保する自給自足ソリューションを開発しています。

ユニークなアイディアで、バイオマスエネルギーの開発に取り組む会社もあります。メキシコ発のGreenfluidics社は、微細藻類とナノ流体を組み合わせたバイオパネルにより、太陽放射からCO2の吸収による酸素の産生とエネルギーの合成を同時に発生させる技術を開発しています。

日本国内におけるバイオマスエネルギーの使用事例が増えている

2022年には、国の財政投融資と民間からの出資を原資にファンド事業を行う脱炭素化支援機構の設立や、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進を目的とする航空脱炭素化推進基本方針の策定など、政府としても、バイオマスエネルギーを含むクリーンエネルギーを積極的に推進しています。
各自治体においても、バイオマスエネルギーに関する取り組みが行われており、青森県平川市では、木質バイオマス発電の助燃材に地元のもみ殻燃料の利用を始めています。
群馬県の複数の都市では、地元の市立学校において、組合で運営するごみ処理施設で発電した電気の利用が始まっています。

■バイオマスエネルギーに関連する上場企業

上場企業においても、さまざまなバイオマスエネルギー関連事業が行われており、ここでは、3社取り挙げていきたいと思います。


①イーレックス株式会社

時価総額:387億6,600万円(*2023年11月25日現在)
事業概要:合計出力約650MWになるバイオマス発電所を日本国内で7基運営している。主に、パーム椰子殻や木質ペレットといった資源を発電エネルギーに変えており、ガムなどを利用した新しいバイオマス素材の開発も行っている。

(出典:https://www.erex.co.jp/)


②Green Earth Institute株式会社

時価総額:78億6,100万円(*2023年11月25日現在)
事業概要:植物・微生物・廃棄予定の木材などを原料とし、カーボンニュートラルなバイオ燃料を開発している。独自開発のRITE Bioprocess(増殖非依存型バイオプロセス)では、微生物を利用して短時間に多量の有用化学物質を産生させ、バイオエネルギーの高い供給率を可能にしている。

(出典:https://gei.co.jp/ja/)


③株式会社レノバ

時価総額:863億9,000万円(*2023年11月25日現在)
事業概要:バイオマス燃料で高温高圧な蒸気を発生させることにより、タービンを回転させて発電する火力発電を行う発電所を国内で3基運営している。木質バイオマス燃料の燃焼によって生じる燃焼灰を路盤材・セメント等へリサイクルするなど、資源が循環するシステムを積極的に取り入れている。

(出典:https://www.renovainc.com/)


■バイオマスエネルギー関連のスタートアップ *非上場

スタートアップ(非上場企業)も、バイオエネルギー関連事業に取り組んでいます。ここでは、3社取り挙げていきたいと思います。

①フォレストエナジー株式会社

創業:2015年
調達後評価額(潜在株を含む):85億2,400万円(*INITIAL:2023/10/20時点
事業概要:地産地消型の木質バイオマス発電所の開発や運営を行っている。木質資源が豊富な中山間地域における小規模発電所の運営を通じて、地域内での木材利用の促進と自然エネルギーの普及を行っている。
株主:アズビル株式会社 / 株式会社シグマクシス・インベストメント / 株式会社DGインキュベーション / 東京センチュリー株式会社 / NTTアノードエナジー株式会社

(出典:https://forestenergy.jp/


②アーキアエナジー株式会社

創業:2015年
調達後評価額(潜在株を含む):10億2,600万円(*INITIAL:2022/06/23時点
事業概要:バイオガス発電所の建設・運営を行っている。食品廃棄物をメタン発酵により電気と熱エネルギーに変換し、電気は再生可能エネルギーとして電力会社に供給している。
株主:西松建設株式会社

(出典:https://archaea-energy.co.jp/

③株式会社アルガルバイオ

創業:2018年
調達後評価額(潜在株を含む):35億1,700万円(*INITIAL:2023/02/10時点
事業概要:バイオ由来製品の生産性向上やコスト低減化を図ることを目的とした培養・運搬・受託製造などのバイオ生産システムであるバイオファウンダリー型の藻類開発プラットフォームを展開している。 クロレラ類を中心とする藻類株ライブラリーの構築及び培養を行い、バイオエネルギー生産などの目的に最適な藻類の探索と合成開発を行っている。
株主:京都大学イノベーションキャピタル株式会社 / Abies Ventures GP I有限責任事業組合 / 大陽日酸株式会社 / 伊藤忠商事株式会社 / 株式会社常陽キャピタルパートナーズ

(出典:https://algalbio.co.jp/)


■創業まもないバイオマスエネルギー関連のスタートアップ(創業3年以内)

ここでは、創業まもないバイオマスエネルギー関連スタートアップを3社紹介します。

①Innovare株式会社

創業:2020年
調達後評価額(潜在株を含む):6億円(*INITIAL:2022/08/26時点
事業概要:天然ゴムの実などの未利用な資源を利用して、バイオエネルギーを生み出すサーキュラーエコノミー事業を展開している。
株主:一般社団法人日本スタートアップ支援協会

(出典:https://innovare.world/)


②株式会社豊橋バイオマスソリューションズ

創業:2021年
調達後評価額(潜在株を含む):3億円(*INITIAL:2022/11/14時点)
事業概要:アンモニア除去技術を用いて効率的なメタン発酵を用いたバイオガス発電事業を展開している。メタン発酵の際に阻害を引き起こすアンモニアの除去や回収を行う技術を用いて、 小型メタン発酵システム及び発酵助剤製造システムの提供している。
株主:情報なし

(出典:https://toyohashibs.com/)


③TSUBU株式会社

創業:2021年
調達後評価額(潜在株を含む):不明 *INITIAL:2022/11/14時点
事業概要:しいたけ栽培における廃棄物を利用したバイオマス発電事業を展開している。 しいたけ栽培を⾏っている⾃社農場・フランチャイズ農場から発⽣した廃菌床をチップ化したものバイオマス発電燃料としている。
株主:情報なし

(出典:https://tsubu.biz/)

■海外のバイオマスエネルギー関連スタートアップ

こちらでは、海外のバイオマスエネルギー関連スタートアップを3社紹介します。

①InEnTec(アメリカ) 

創業:2009年
総調達額:$334.1M(*Crunchbase:2023年10月時点
本社:アメリカ
事業概要:プラズマ強化メルター(PEM)により、低環境負荷で廃棄物をガス化し、エネルギーに変える事業を展開している。有害廃棄物や産業廃棄物などを、水素や炭素といった元素成分に分解し、エネルギー産業の基本構成要素の合成ガスに変換している。

(出典:https://www.inentec.com/

②NeoZeo AB(スウェーデン)

創業:2010年
総調達額:€850K(*Crunchbase:2023年11月時点
本社:スウェーデン
事業概要:有機廃物から得られるバイオガスを高品質に変えるモジュールを開発している。多孔質の吸着剤を用いた独自の圧力スイング吸着技術により、農業や自治体の有機廃棄物から得られるバイオガスを精製改良し、高品質のバイオメタンに変換可能としている。

(出典:https://www.neozeo.com/

③Manta Biofuel(アメリカ)

創業:2014年
総調達額:$4.3M(*Crunchbase:2023年11月時点)
本社:アメリカ
事業概要:藻類微生物を効率良くバイオエネルギーへ変換する技術を開発している。磁気収穫技術を利用して、開放池で栽培している藻類微生物を濃縮収集し、水熱液化リアクターを使ってバイオエネルギーへの変換を可能にしている。

(出典:https://mantabiofuel.com/

■まとめ

持続可能な資源の確保や環境負荷の軽減を目的とした再生エネルギーの需要の高まりから、バイオマスエネルギー領域に参入する企業の数は、世界的に増加傾向にあり、大規模な資金調達を行うスタートアップも数多くあります。
現在のバイオマスエネルギー領域における事業内容は、バイオマスエネルギー生産施設の建設から、新しいエネルギー生産技術の開発まで、より効果的にエネルギーを生活に届けることを求めて、多様なアプローチで取り組まれています。
また、日本国内においても、複数の大企業やスタートアップだけでなく、自治体においても、バイオマスエネルギーを取り入れた取り組みが始まるほど、バイオマスエネルギーの必要性は高まりつつあります。
従来のエネルギー生産の主として使われている化石燃料と比較すると、生産効率やコスト面では未だ劣るものの、時間と共にその差は埋まりつつあります。限られた資源の循環利用や、人口増加によるエネルギー需要が高まっていく中で、これから成長することが予測されるバイオマスエネルギー領域の成長には、目が離せません!

イークラウドではバイオマスエネルギー業界のスタートアップも積極的にご支援していきます。

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