ジャズのレコードのオリジナル鑑定方法とは?Columbia編
ジャズのオリジナル盤を集めているあなたは、Columbiaのレコードを鑑定するときにどこに着目しますか?
Miles Davisをはじめ、Dave Brubeck、Thelonious Monk、Duke EllingtonやHerbie Hancockなど、大手レーベルらしく有名なジャズミュージシャンの吹き込みもたくさんあり、Columbiaにはファンを魅了する名盤が多くあります。
今回は、ジャズを愛してやまない熱心なレコードファンであるあなたに、Columbiaのレコードのオリジナルをどのように鑑定すればよいかポイントを見てゆきましょう。
文:福田俊一(Ecostore Records)
”違いの分かる”あなたに。Columbiaのレーベル変遷を一挙大公開
ジャズに限らず、ラベル(レーベル)はレコードの”顔”のようなものです。
あなたが街中で人を見掛けて、知り合いか他人か即座に見分けることができるように、査定スタッフのようなレコード鑑定のプロはラベルを見てオリジナルかどうか見極めます。
Columbiaのような大手レーベルであると再発盤もたくさんプレスされており、時代によってラベルのデザインに違いがあります。
まず、Columbiaのジャズのレコードにあるラベルの変遷(移り変わり)を一緒に見てみましょう。
1.マルーンラベル
ColumbiaのLPレコードで最も時代が古いラベルデザインは、10インチ作品および初期12インチLP作品のマルーンラベルと呼ばれる赤いラベルに金色の文字が印刷されたものです。
マルーンラベルは1954年ごろまで続きます。
ラベル面には深溝(Deep Groove)があり、タイトルによってはレコードのフチが真っ平な造りになっているフラット盤(Flat Edge, Flat Rim)というものがある時代です。
Dave Brubeck / At Storyville: 1954 (型番:CL 590)
54年発表。米国ボストンのSTORYVILLEでのライブ録音作品。メンバーは、Dave Brubeck(p), Paul Desmond(as), Ron Crotty(b), Bob States(b), Joe Dodge(ds)。「Gone With The Wind」などを収録。
2.6EYEラベル(シックスアイ)
1955年ごろから、6EYEと呼ばれるラベルデザインに変わります。
Columbia社のロゴが目玉のように見え、それが左側に3つ右側にも3つ、合計6つあることが6EYEと呼ばれる由来です。ラベル面には深溝がある時代です。
Miles Davisがモダンジャズ史に残した、もはや説明も不要な大傑作「Kind Of Blue」もこの6EYEラベルがオリジナルとなります。
Miles Davis / Kind Of Blue(型番 モノ:CL 1355、ステレオ:CS 8163)
59年発表作品。Miles Davis(tp), Cannonball Adderley(as), John Coltrane(ts), Bill Evans(p), Wynton Kelly(p), Paul Chambers(b), Jimmy Cobb(ds)が参加。
「だからどうした?」という意味の、Milesの口癖から名付けられたと言われている名曲「So What」収録。モダンジャズのみならず、音楽の歴史にも燦然と輝く傑作アルバム。
3.6EYEラベル / CBSあり
1961年あたりにリリースされたColumbiaの作品には、6EYEラベルの上部にCBSという文字が印刷されているものがあります。これはモノ盤でもステレオ盤でも同様です。
この時期に発表されたMiles Davisの「Someday My Prince Will Come(型番:CL 1656)」のオリジナルにもCBSがあるものが多くあり、CBSがあったとしてもオリジナルだと考えられています。
4.2EYEラベル(ツーアイ)
1962年ごろになると新たに2EYEラベルというデザインになります。
先程の6EYEラベルではColumbia社のロゴが6つあったのに対し、この2EYEラベルでは左右に1つずつ、計2つとなりました。もちろん、そのことが理由で2EYEと呼ばれています。
この2EYEラベルにはいくつか種類があり、モノラルかステレオかによっても見た目が多少異なります。
①2EYE / 黒字(1962年ごろ)
2EYEラベルの最初期のものには、モノラル盤のラベルの下部には「GUARANTEED HIGH FIDELITY」という文字が、ステレオ盤には「360 SOUND STEREO」という文字が載っています。
②2EYE / 黒矢(1963年ごろ)
1963年ごろのステレオ盤は、2EYEラベルの下部にある「360 SOUND STEREO」の左右を黒い矢印(← 360 SOUND STEREO →)で囲ったデザインに変更となります。
③2EYE / 白矢(1965年ごろ)
1965年ごろ、2EYEラベルの下部のデザインがさらに変わります。
ひとつ前は黒い字でなおかつ黒い矢印で囲まれていましたが、ここから白い文字と白い矢印になります。
④2EYE / MONO(1967年ごろ)
2EYEラベル時代の後期モノラル盤には、下部に矢印が無くなりMONOというシンプルな白い文字になります。
ステレオ盤が主流になっている時代であることもあり、この時期に発表されたColumbiaの作品のモノラル盤はプレスされた枚数もかなり減って、比較的珍しい部類に入ります。
ちなみにレコードという観点から見てみると、ステレオ盤とモノラル盤であれば、ほとんどの場合でその稀少性からモノラル盤の方が価値が高いと思われます。
5.赤ラベル(1970、80年代)
ジャズとしては1970年代にもなると世界中でフュージョンが大流行。Herbie HancockのHead Huntersや、Weather Reportらが大活躍した時代です。
Columbiaのジャズ作品にもフュージョンがずらりと並び、そのこととは関係ありませんが、新しい時代とともにラベルデザインも一新されることになりました。
この時期のColumbiaのラベルは、赤いラベルの周囲をColumbiaというオレンジ色の文字がぐるりと一周します。
溝あり、溝なしって何?重要なの?
深溝(Deep Groove)があるかないかというのもジャズのオリジナル盤の鑑定では重要な要素です。Columbiaのアメリカ盤LPには、時代によって深溝があるものもあります。
1950年代の10インチアルバムをはじめ、60年を少し過ぎたころの作品まで深溝は確認できています。
60年以降、レコードのプレス機の進化とともにラベル面の深溝は徐々にできなくなってきます。それ故に、リリースされた時代によっては深溝がなければオリジナルでないものもありますし、無くてもオリジナルであるものもあります。
ただし、溝の有無によってレコードの価値が異なる場合があります。
例え「深溝がなくてもオリジナルとされるもの」であっても、
【深溝が両面ともに無いもの】よりも、
【深溝が片面だけでもあるもの】の方がより古い時代のプレスと判断されることもあり、中古レコードとしての付加価値は高まります。
貴重なオリジナルか、そうではないか見極めるためのポイントはコレ
ジャズのレコードは年代が古い骨董品のようなものです。
つまり、人気も高い名盤と言われるような作品のレコードであれば、数十年という長い年月の中で幾度となく再発を繰り返してきたことでしょう。
時代によってラベルのデザインは変ってゆきますから、オリジナル盤かそうでないか判断する上で一番大事なことは”その作品が発売された当時 Columbiaはどのラベルデザインを使用していたかを知る”ことです。
詳しいレコードコレクターであればその作品が発表された時代を知っていて、「Kind Of Blueは59年にリリースされたから、6EYEラベルで深溝があるレコードがオリジナルだよ」と覚えていらっしゃることでしょう。
ジャズのレコードは本当に奥が深く、簡単にはオリジナルかどうかは分かりません。
知識と経験、そして勘が必要となります。
ただし、ジャズに捧げる愛情とどん欲なまでの情熱があればこそ、不思議と少しずつ覚えることができるものなのではないでしょうか。
番外編:秘密の暗号?日本盤の型番が意味するものは・・・
私たち日本人にとって身近なColumbiaのレコード作品は日本盤です。
1968年以降、Columbiaのジャズの名作の数々は、日本のCBS・ソニー(CBS/SONY)が日本盤をプレスしてきました。
その中で使用した型番に、「〇〇AP」といった規格があります。
〇〇には数字が入るのですが、あなたはこの数字にどのような意味があるのかご存知ですか?
マイルス・デイビス / デコイ (CBS/SONY、型番:28AP 2890)
例えば、このマイルスのレコード作品の型番は28AP 2890ですが、APという規格の前にあるこの28という数字は実は当時2,800円で販売されていたそのレコード自体の価格を意味しています。
作品の型番は他にも25AP 〇〇などもありますが、こちらはもちろん価格が2,500円だったからです。
15AP 〇〇といった、1,500円という安価で販売された廉価版もありました。
ラベルを知れば、歴史も分かる。
今回のコラムではColumbiaのラベルの移り変わりを中心に、オリジナル盤の鑑定のポイントを紹介しました。
ジャズには長い歴史があり、いまあなたの手元にあるまさにそのレコードにも歴史があります。人の手から人の手に渡ってあなたに辿り着くには、アメリカからはるばる海を渡ってきたわけですし、様々な持ち主の人生の側で寄り添ってきたことでしょう。
中古レコード店の店頭に並んでいるレコードの中には、半世紀近く前、もしくはそれ以上前の人々の息づかいをも知っているレコードもあります。
レコードのことが好きで聴いていると、スピーカーからまるでジャズミュージシャンが生きているかのような華麗な演奏を聴かせてくれることもあって、そんなことはつい忘れてしまいますね。
ラベルを知ればそのレコードが生まれた時代も分かります。もし興味があれば、お持ちのColumnbiaのレコードも改めてじっくりとご覧になってはいかがでしょうか?
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