記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

🎥『大地と白い雲』を観ました

2021年8月22日  
岩波ホールにて

スクリーンショット 2021-08-26 17.31.34

内モンゴル

“内モンゴル”と“モンゴル”は違う。
映画のテーマとは違うけど、今回はっきり知ったことの一つです。

“内モンゴル”は中国の中にある自治区。
“モンゴル”は中国の隣にある別の国です。

中国にくらす92%の人が漢民族。
そして、その他にある55民族がそれぞれの文化を大切にしている・・・。

映画の原作「放羊的女人」という小説の作家、 
漠月(モー・ユエ)は、内モンゴル出身。

主人公の夫婦二人を演じた、ジリムトゥとタナも内モンゴル出身。
そして、モンゴル語を話せることと、放牧地での生活経験を身につけていることがこの役の条件だったとか。

移動できる家「ゲル」での生活の様子や、馬追いシーンの迫力などが、自然に伝わってくる所以です。

画像5

画像2

フルンボイル草原

ワン・ルイ監督は、中国の「第六世代」と呼ばれる監督たちの一人で、
北京出身の漢族。

20年以上前に訪れた内モンゴルに感動し、映画の原作となった小説を読んで映画化を決意。
内モンゴル文化をリスペクトする立場でこの映画を製作された。

失われつつある草原での伝統的生活を背景に、
考え方の対立する若い夫婦の“困惑”が描かれていきます。

画像3

夫婦の形

ワン・ルイ監督は、この映画を“亡き妻”に捧げています。
妻は原作者と交渉するなど脚本化に奔走するも、撮影に入るまで10年ほど
かかり、その間に亡くなられたという。
結婚18年目だったそうです。

劇中の夫チョクトは草原での生活には満足できず、都会の生活に強く憧れ、ふとした折に突然家を飛び出しては長い間戻ってこないことを繰り返す。
そんなチョクトに心を痛める妻タナ。
タナはこの草原での暮らしをずっと続け守っていきたい。愛する夫と共に。
やがて、夫婦の気持ちのすれ違いの果てに起こる、仕方のない現実。

ワン・ルイ監督も監督業のため、何か月も家を留守にすることが多かった
そうです。
そんな自身の“痛み”もこの作品に重ねられている。

画像4

大地と白い雲

邦題の通りの草原のダイナミックな風景がこの映画の素晴らしい所。
まさに視界を遮るものの無い大草原の上に、浮かぶ壮大な白い雲。

どう生きたいか?で揺れ動く人間の普遍的テーマが描かれながらも、
雄大なフルンボイル草原の厳しくも美しい自然がこの映画の
もう一つの主題です。

画像8

遊牧民

内モンゴル全域のモンゴル人は本来牧畜しか行ってこなかった人々。
多くの民族がそうであるように、先人から長く積み上げられた、
知恵のある生活で、土地に順応した生活が脈々と続いていたはず。

しかし、外的圧力のもとで農地が拡大したり、牧草地を個人に分配することによってできた「餌柵放牧」(個人的牧草地を鉄柵で囲むこと)が始まったりで、伝統的な生活が大きく変化していく。

従来、家畜は集団の財産として見なされることになっていたが、
1983年には家畜が個人に分配され、続いて牧草地も個人に分配され、
家畜も牧草地も個人の財産となったのだそうだ。

気候の変動、時代の流れ、現金意識の高まりなどが与える、現在を生きる人々の意識の変化の様子が映画の中では描かれます。

画像8

様々な人生

チョクトの叔父は、無口で淡々と平原での生活を営み、
静かな眼で今を見ている。
気がかりは街で生活している娘と孫の生活。
平原の若者たちが土地を売り、街に出ていくのを憂い、
携帯電話には興味がない。
チョクトの悩みには「この世のことは人が思うほど単純じゃない」
と答えます。

友人バンバルの叔父は、かつてこの草原で暮らしていて、
人生を上海で成功させてきた人物。
しかし、やっとこれからといった矢先の病をきっかけに故郷に帰ってくる。
本当は心はこの地を求め続けていたのだと。

それらの先輩たちを見るにつけても、若い世代のチョクトの新しい世界への渇望は抑えきれない。
それは至極当然だと思う。
チョクトにはそれを夢見るだけの才覚もうかがわれる。
でもいずれ、彼も平原に呼び戻される・・・そんな将来も感じてしまう。

画像8

チョクトとサロール

さて、この若い夫婦の行く末は?
劇中にその答えはありません。
でも、良い夫婦だな・・・というのが私の印象。
なぜなら、根底にお互いを深く愛するという思いがあるから。
それさえあれば、私はこの二人は、時代やお互いのアイデンティティーを
何とか乗りこなして、新しい道筋を作って共に歩いていくと思っています。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?