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私とジビエ:2 はじめての解体

大きな肉の塊に戸惑って

畑の電柵はめためたになっていた。復旧作業も一日がかり。私の育てておいた二年子大根も食べられてしまい、種を取り損ねてしまった。

仕留めた雄鹿は大きくて、男でも一人では引きずるのが難しい。

友人は、背ロースだけとって廃棄しようか?と提案してくれ、相方も突然の大きな訪問者を、自分で廃棄するのは手間だし、やりかけている畑仕事なども出来なくなるからと、「手間をかけずに葬った方が良いのでは?」と言った。

廃棄するといっても、穴を掘って埋めるくらいしかないので、相当な手間だ。

とりあえず、血抜きはしておこうと、肩の付け根から、大きなハンターズナイフを突き刺し、肺に届くくらいまで入れて穴をあける。

とりあえず、廃棄する事も前提で、お決まりの背ロースから。

背骨を中心に左右にナイフを入れる、皮を削いで、背骨に対して直角にナイフを差し込んで、首から腰に向けて、スライドさせる。長細い筋肉の塊が2本とれる。

この部位は、一番簡単に取り外せて、さらに柔らかい希少部位なので、最も人気の高い肉だ。ネットなどで調べると、とんでもなく高い値段がついている。

以前、エゾシカの背ロースをもらってカツにした事があるが、それを食べて以来、鹿肉の印象が変わったくらい柔らかい。豚や牛のフィレカツとかとにている。

獲物を仕留めたはいいが、解体する時間がない時はここだけとって、後はオスの場合はツノをとって廃棄される。

ツノや、オスのツノ付きスカル(頭蓋骨)も人気があるので、ここも必ずとった上で、廃棄される。

友人はツノをとり、私たちは背ロースをとった。ただ、まだほかの部位は大量にある。どうしたものか。

電柵が壊されるなど被害もあったわけで、その代わりに舞い込んだリターンでもある。災難も、それ以上のプラスを出せば、チャンスになる。

腐っても自給自足家として、20年生きてしまったプライド。

折角舞い込んできた獲物をそのまま捨ててしまうのか?

命ある物を無駄にしないというポリシー、フードロスゼロのポリシー、貧乏人の節約根性が染みついてしまった身の上で、目の前に横たわる死体を獲物に、そして自分に役立つ食べ物に変える好奇心がチラついて、葛藤を産んだ。

それから友人は、私が考える間に罠を見回ってきてしまうから、そうしたら、持っていってくれると約束して、その場を去った。

その間、私は心の中で湧き上がる葛藤とともに、出刃包丁と大きなボールを取り出して、なんとかプラスにしようと、友人が戻るまでの間にできる限り手当たり次第肉を削いだ。

そうこうしているうちに、だんだん肉取りに熱が入り、友人も戻ってきてしまった。

友人と相方のジョーは、少しあきれた様子で、「やるんすか?」と言った。

折角の鹿との縁でもあるからと、結局廃棄せずその屍とたわむれてみることにした。こんな稀有な体験も、”みより”でしか、出来ないわけだし。

家の玄関前は、鹿の死体のめったぎりでバラバラ死体と、肉の塊と血の海で、大虐殺の現場の様になってしまった。

(文:ユリ)

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