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中に誰かいますね

 今月の頭、フランス留学から帰ってきた。帰国前、副鼻腔炎になり、そのまま飛行機に乗ったせいで中耳炎になりと踏んだり蹴ったりディスコテックだった。飛行機に乗るみんな、着陸前の下降時は寝ないで水を飲め。

 フランスにいた頃は、カタコトで必要最低限の会話をすることで精一杯だった。水中で会話しているような気分で、帰宅しては聞き取れなかった音を音声入力で確かめ、「この単語知ってたのに」と頭を抱える日々。帰国してからはもちろんそんなとこはなくなり、地上で話せる喜びを噛み締めている。

 そして思い出す。人見知りで会話が苦手な自分を。

 研究室に戻って、ラボのみんなと料理の話をしていた。同期の1人が「音楽かけないと暇で料理ができない」と話し、それに何人かが同意する。私は音楽をかけず、ぼんやりと料理をするのが好きなので、意を唱えた。

「料理って食材との対話を楽しむものなのに、そんなことしたら食材の声が聞こえなくない?」

 マジで何を言ってるんだ私は?

 誤解のないように言っておくが、食材と会話したことはない。声が聞こえたこともない。淡々と作り、食べている。「切られてより美しくなったね」とか、「味が染みてとってもセクシーだよ」とかそんなことは言わない。本当にその場限りの言葉で意味はない。

 私は終始ふざけたことしか言わないので、上記のようなことを言っても「そこまでのレベルにはまだ達してないかな汗」と優しく笑って流してくれる。とても優しい。ありがとう。

 会話が苦手ゆえに、「なんとかこの場を切り抜けよう」ということばかりに意識がいってしまう。ぽん、と思いついた言葉を脳を介さずに口に出してしまう。ゆえに失言も多い。

 フランス語だと一度頭の中で文章を組み立てて話すからこんなことはない。しかしマスターすればするほど、これを外国語でやるようになると思うと恐ろしい。会話用の自分(脳みそクルミ大、日本語しか話せない)が私の中にいる。


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