見出し画像

underdog

10月30日(日)第166回天皇賞(秋)、2着に敗れたパンサラッサと吉田豊騎手に拍手を送りたい。

2番手以下を大きく離して先頭を走るのが、2着に敗れたパンサラッサと吉田豊騎手

こんなに胸が躍った大逃げはない。
私の中で1994年有馬記念のツインターボを超えた。

勝ったイクイノックスの成長と完成度、そしてなにより直線、パンサラッサを遥か前に見て追い出しのタイミングを誤らなかったルメール騎手に脱帽。
ジャパンカップに出るのだろうか?

まだ3才。
お楽しみはこれからだ。

ボーイズ・ビー・アンビシャス❕

そんなわけで第一弾『ゲンナジー・ゴロフキンvs村田諒太』、第二弾『井上尚弥vsノニト・ドネア』に続くアマゾンプライム・ボクシングLive配信第三弾が11月1日配信された。

WBCとWBAの世界タイトル統一戦、日本人の”世界チャンピオン同士”の統一戦は史上2度目(1度目は2012年6月20日の井岡一翔vs八重樫東)。

WBC世界ライトフライ級王者・”アメージングボーイ”寺地拳四朗 vs WBA世界同級スーパー王者・”マッドボーイ”京口紘人
7R2分36秒、寺地選手のTKO勝利に終わった。

左ジャブと右ストレート、そして出入り(ではいり)の緩急自在さはヒットアンドアウェイとも違う、ヒットアンドキープともいうべき攻撃型の新しいアウトボクシングの形を観ているようで、呼び名に恥じないアメージングなファイトを魅せてくれた。

京口ファンとしては残念だが、完敗としかいいようがない。
次戦(今日、寺地vs京口戦の1試合前に行われた同階級の世界戦で2度目の防衛に成功したジョナサン・ゴンザレスと統一戦を行う可能性が高い)が楽しみである。

それでも、5Rのマッドボーイを私は忘れない。
ダウンしてからの巻き返しの猛攻は、真骨頂を魅せてくれた。
立て直しを待つ。

それにしても入場曲が女性が優しく歌い上げる(恐らくサラ・ブライトマン)”time to say goodbye”とは度肝を抜かれた。
選曲までマッドかよ、と思わず笑ってしまった。

今回の第三弾の配信、豪華な対戦カードが目白押しでボクシング・ファンとしては贅沢な時間となった。

セミ・ファイナルの一つ前に行われたノンタイトル10回戦、フライ級からスーパーフライ級に階級を上げての初戦となる元フライ級世界チャンピオンの中谷潤人選手。

まだ24歳、スーパーフライ級で世界を狙う彼の対戦相手は31歳のベテラン、フランシスコ・ロドリゲス・ジュニア。

このベテランが凄かった。
ブルファイターでパンチをもらおうがとにかく前へ前へ進むその突進力が凄まじいのだが、突進してからの頭の位置の持っていき方がとにかくうまい。

至近距離でパンチをもらっても威力を半分殺す位置に必ず持ってくる。
さらにそこから出すパンチは、角度やタイミングを絶妙にずらして放たれるので、全て見切るのは至難の技だ。

ただ闇雲に突進するだけのブルファイターではない。
いかにもメキシカン・ボクサーらしく、タイミングの魔術師とでもいうべきか、相手を幻惑する体の使い方、動かし方を心得ている。
さすが元ミニマム級統一王者で現スーパーフライ級3位だ。

手こずりながらもその相手に3‐0の判定勝ちをおさめたのだから、中谷選手もずば抜けた選手なのは間違いない。

なんでも中谷選手は”ネクスト・モンスター”と呼ばれているそうだ。
海外に売り出す為にマスコミが分かりやすいネーミングを付けたのだろう。井上尚弥選手の次は彼がモンスターだ、という事らしい。

なかなかおもしろいジョークだ。

ガッツだぜ!

結構知られていると思うが、1995年のウルフルズ9作目のシングルである。
今どき、これを入場曲に使うとはどんな奴だ?と興味が湧く。

今回の配信で一番印象に残った試合。
メインでもセミファイナルでもセミファイナルの一つ前の試合でも無い。

メインから4つくらい前の試合、配信開始からすぐのいわば前座のようなライト級アジア・パシフィックタイトル戦だった。

トータス松本(ウルフルズのボーカル)の歌声にのって、金色に染めた髪でニヤニヤ笑みを浮かべながら入場する31歳、吉野修一郎という選手。
彼がライト級アジア・パシフィックチャンピオン。

そして挑戦者は中谷正義選手。
失礼ながら吉野選手の事はよく知らなかったが、中谷選手は知っている。
あの(といってもボクシングファンでもなければ知らない名前だと思うが)ワシル・ロマチェンコに善戦した事で、海外でも名を知られている選手だ。

ボクシングでは制限体重における人口比率が高く選手層の厚いライト級という世界的激戦区で海外にまで名を知られた選手、というのはすごい事なのだ。

それもあってか試合前の下馬評では、8対2ぐらいで中谷選手有利という声が支配的だったという。

試合後のインタビューで中谷選手を”雲の上の存在”と表現していた吉野選手が自分で言っていた事だが、試合前の予想段階では彼は”underdog”だった。

とは言え、一方的なunderdogだったわけではない。
この吉野選手と中谷選手の対戦カード、実はメインの寺地選手vs京口選手の試合に対して裏のメインとも言われていたという。

対戦相手が一方的に弱いunderdogなら、裏のメインと言われるような好カードになるはずがない。

吉野選手、この試合の時点で15戦15勝11KO、日本ライト級チャンピオンとして防衛7回、アジア・パシフィックチャンピオンとして防衛2回している。
普通に強いボクサーという事だ。

海外で善戦し、あのロマチェンコともいい試合をしたという事で、実績よりも抽象的なイメージとして中谷選手の方が強い、といった印象が濃かったのかも知れない。

二人の選手の個性の違いも、試合前予想が二人の本来の実力以上のイメージ偏重をもたらす一因になったと考えられる。

中谷選手は非常にストイックであるとの印象が強い。
一方吉野選手だが。

”男は汗かいて~べそかいて~”の歌が響く中、リングに上がってにこやかに笑いながら観客に手を上げる吉野選手を見ると、これまた失礼ながら”チャラ男”に見えた。

配信の解説によると、攻撃、防御、フットワークいずれも全て平均点が高い選手、との事。
(ははぁ、全てにソツがない、スマートなボクシングをするんだろうなぁ)と解説を聞いて勝手に思いこんでいた。

ところが、吉野選手の出身地は栃木県鹿沼市という所だった。
(別に栃木県や鹿沼市を揶揄するつもりは毛頭ない。ハゲてきているから言ってるのでもない)

栃木のレイジング・ブル

中谷正義選手は身長が高く、左ジャブで試合を組み立てるアウトボクシングを主体としつつ、接近しての打ち合う攻撃型のボクシングもできる。
アウトボクサータイプなのだが、なんなら打ち合い大好きでもある。

試合が始まると、なるほど見事な左ジャブを突き刺している。
背が高く、リーチ差もかなりある為、インファイトに持ち込みたい吉野選手は中谷選手のふところに中々入れない。

吉野選手がふところに飛び込もうとすると、中谷選手はカウンターで右ストレート、右アッパーを放ち、そのうちの何発かをクリーンヒットさせる。

ん?

吉野選手の左フックが当たって、中谷選手の体が斜め後ろに揺れた。
パンチは中谷選手の右アッパーや右ストレートがカウンター気味にクリーンヒットしている数が多い。

だが吉野選手のふみこみがどんどん中谷選手の体に近づいていく。

ブロッキングのなんとうまい選手なんだ・・・。

体を上下に揺らしながら、吉野選手は、両手を交互に動かし巧みに中谷選手のパンチをブロックしながら、前へ前へと少しづつ距離を縮めていく。
全てをブロックしているわけではなく、時折中谷選手のいいパンチをもらいながら、それでも体を揺らしつつ前へ前へと向かっていく。

そして右アッパー、右ストレートの、それもかなりいい感じのクリーンヒットを顎に受けながらも吉野選手の体の軸はぶれない。
いいパンチを顎にもらっても膝が崩れない。
体が揺れないのだ。

中谷選手のパンチが弱いのではない。
吉野選手の体幹が強いのだ。

吉野選手のこのスタイル、どこかで見た事があるぞ・・・と思ったら・・・そうだ・・・このスタイル・・・ジェイク・ラモッタだ!

1941年から1954年まで活躍した元世界ミドル級王者。
無尽蔵のスタミナと打たれ強さを持ち、前に出続けるそのファイト・スタイルから、『イタリアの怒れる猛牛』『レイジング・ブル』などと呼ばれた選手だ。

1980年にその呼び名の通り、『レイジング・ブル』というラモッタの伝記映画がマーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演で製作され、デ・ニーロはアカデミー主演男優賞を取っている。

金髪で終始笑顔を絶やさず、ボクシングの各技術の平均点が高い、という評判から、スマートなファイトスタイルのチャラ男、というイメージを抱いていたが、私のそのイメージは小気味良く、粉々に砕け散っていった。

泥臭いファイトスタイルでぐいぐい前へ出続ける吉野選手は、ラウンドを重ねるごとに、距離を詰め、中谷選手のいいパンチを時折もらいながらも、いくつかのパンチは両手や腕でブロッキングし、そして徐々に自分のパンチを中谷選手に見舞いながら、その数が段々と増えていく。

中谷選手もいい右で何回も吉野選手の顎をとらえ、時に連打で追い詰めていく場面も見られたが、徐々に押されていき、逆に吉野選手の連打を浴びるようになっていった。

吉野選手の連打がまたいい。
ワンツースリーで止まらず、フォーファイブと続くのだ。
特に流れるようなコンビネーションというわけではなく、スピードがあるというわけでも無い。

ゆったりした感じなのだが、それぞれのパンチが単発ではなく確実に繋がりを持って中谷選手のボディや顔面をとらえ始める。
そして前へ向かう姿勢を崩さない。

尻上がりに調子を上げていく吉野選手はついに中谷選手を防戦一方となるまで追い詰め、6R1分14秒、レフェリーストップによるTKO勝ちをおさめた。

この試合、勝った方が海外進出し世界タイトルへ挑戦する事になるという。

吉野修一郎選手、31歳。
この栃木のレイジング・ブルが海外の、ライト級の強豪達と拳を交える日が待ち遠しくて仕方ない。

海外で評価されている”あの”中谷正義をKOした男、というネタを土産にどんな活躍をしてくれるのか?

お楽しみはこれからである。

It's PR~IME Time!!

しかし、アマゾンプライムのボクシングLive配信シリーズは素晴らしい。
井上尚弥選手の12月13日4大タイトル統一戦も恐らくここで配信されるのではないだろうか。

リングアナのジミー・レノン・ジュニアはいい仕事にありついたものだ。
確かに彼の声は、ソフトで柔らかい響きだが非常によく通り、この声で戦いの時が来た事を告げられると鳥肌が立つ。

メインとセミファイナルの2試合だけ、戦いの宣言と、関係者の名前と両選手の名前をコールするだけで一体いくらもらっているんだろう?

金額を本気で知りたい・・・。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?