見出し画像

Radio Dinosaur #12【最終話】


夏休みの最後の日
DJのジョーク大会が終わる日

ラジオの前には、大人も子どもも張りついて
この日は盛大に沸き上がっていた

最後のジョーク大会はグランドチャンピオンを決める大決戦だった

「RADIO Dinosaurよりこの夏さいごの中継だよ!プールサイドではまだまだ参加者を受付けてるから、どんどんご参加ください!お待ちしてます!」

この小さな町では、この夏に町中の人間がジョーク大会に参加していて、参加賞のピンクのバッジをつけるのがちょっとしたブームになっていた

この夏、ぼくは結局ピンクのバッジをもらえなかった
前回はじめて参加したとき、蛙が鍋の中に逃げ込むジョークを考えて、前のおじさんとネタがかぶって失敗した苦い思い出がある
この町でバッジを持っていないのは、ぼくひとりくらいなもんだ

ぼくひとり…?

でも、ぼくはこのジョーク大会にそこまで熱中していなかった
(一時的に何故かムキになったけど)
プールサイドには最後のジョーク大会で優勝を狙う町の人たちがの列を作っていた


画像1


町のスピーカーからは今日もDJの軽快なトークとジョーク大会
それとDJのセレクトするセンスのいい音楽

夕方、ぼくはふらりとプールサイドに行った
行けば誰かに会えるような気がした
でも、誰に会いたいのかはわからない
なんとなく、勝手に足が向いたのだ

ぼくは列の最後に並んだ

ぼくの前の連中は、しきりにジョークの練習をしたり、他の参加者のジョークを熱心に眺めたりしていたけど
ぼくは正直、どうでもよかった
それより、どうして今ここに立っているのかも自分でわかっていなかった

ぼくの番になった
メイク姿のDJがぼくを見て言った

「よく来たね!君が最後の挑戦者だよ、まだまだチャンスはあるよ!さあ、ジョークを言ってみて!」

ジョークのネタなんかない
でも、何か言わなければ放送事故になってしまう、何を言おう?

ぼくは、ひとこと「カエル」と言った
そう、ひとことだけ

一瞬の間があって、審査員たちはざわめき始めた
「カエルがどうしたって?」「続きは?」「どういう意味」

すると、ぼくを見ていたDJが急にククク、と笑い出した
DJが笑うのにつられて、他の審査員たちも笑いだした
最後は全員で狂ったように腹を抱えて笑い始めた
プールサイドからも、スピーカーからも笑い声が聞こえてきた
それ以上に町中が大笑いをしていた


画像2


そしてDJが言った
「カエル?それだけ?それウケるよ!カエル、カエル!面白すぎるよ、この夏で1番ウケた!」
DJはお腹を抱えて、涙を流して笑っていた

クラッカーがパンパン鳴り、ファンファーレが鳴り、誰かが大きなトロフィーを持って登場した
あちこちから拍手喝采が聞こえてくる
おそらく町中がラジオに向かって拍手をしている
クラスメイトもバイト先の人も両親もきっと拍手をしているはずだ
明日、ぼくはヒーローになるだろう

でも
それがどうしたと言うのだろう
これが現実なら、幻想よりもっと滑稽じゃないか

空はすっかりトワイライト
もうすぐ、夏が終わる


DJがこの夏、最後に選んだ曲は
ストレイキャッツの『Lookin' Better Every Beer 』






−END–





※これは私が高校生のころ、昼寝をしていて見た夢の中の物語です
主人公は高校生くらいの男の子で、レトロな世界観でした
お話しの筋はそのままに、ストーリーを繋げて構成しました。最後に出てきた音楽は、ちょうど私が昼寝から目が覚めるときに実際にラジオから流れてきた曲でした。長い長い夢のお話しにお付き合いいただきありがとうございました。


【写真】菜嶌えちか LOMO LC-A+ クロスプロセス


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?