Radio Dinosaur #10
彼女の靴音を追いかけて、ぼくは階段を駆け上がる
彼女の靴音を追いかけて、ぼくは階段を駆け上がる
彼女の靴音を追いかけて、もうずっと同じことを繰り返している
この階段はどこまで続くのだろう
ぼくはいつまで彼女を追いかけるつもりなんだろう
この時点で何かがおかしいと気がつけばよかったのだ
だけどぼくは彼女を追いかけるのに必死で
ほかのことなど考える余裕がなかった
階段を駆け上り、踊り場を曲がるたびに目に違和感が入る
何か大きな黒い影が、踊り場の窓にゆらゆらと映る
大きな目、コウモリのような翼、まるで悪魔のような影
それが動くたびに砂埃が舞い上がる
悪魔?
そういえば、この教会の屋根にガーゴイルの像が鎮座していた
あの像が動き出したのだろうか?
まるで屋根のガーゴイルが突然、意識を持って動き出したかのような
起こりえないはずの現象が、踊り場の窓の外にある
それでも彼女の靴音が聞こえるかぎり、ぼくは階段を駆け上がるしかない
さっきから違和感だらけだ
突然の町の変貌も、いつまでも終わらない階段も、窓の外の悪魔の影も、彼女の靴音を追いかけるぼくも
踊り場の窓を通過するたびに、大きな黒い影が翼をバサバサと羽ばたかせ、砂埃をさらに巻き上げて現れては消える
何度この窓を通過したのだろうか?
同じところをずっと走っているようにも感じる
でもぼくは立ち止まらず、ただひたすら階段を駆け上る
まだ続くのだろうか?永遠に終わらないのだろうか?
その時、ふいに彼女の靴音が止まった
ぼくは駆け上がる足を止めた
何十回目かの踊り場だった
窓を振り返ると、やはり大きな黒い影
悪魔のように大きな口を開け、悪魔のような翼を広げ、悪魔のような叫び声、とにかくここにいてはいけない生物
彼女はどこだ?この危機から守らなくては!
突然、ひとつ上階の踊り場に1人の男が現れた
どこかで見覚えがあるような気がする、でも今はそれどころじゃない
その男はピエロのように派手な服を着ていた
そして、その腕に迫撃砲のような大きな武器をかかえていた
まただ、また違和感だ、さっきから何なんだ!
なぜ突然この男がいるのかもわからないし
なぜ教会にこんな大げさな武器があるのかわからない
その間にも、悪魔のような黒い影は、羽ばたきを繰り返しながら
窓に近づいたり遠ざかったりしている、何か探しているのか?
豪風で窓ガラスに亀裂が走り、だんだんと大きくなっていく
ピエロ男は手すりに迫撃砲を固定させ、悪魔に狙いを定めている
悪魔の起こす豪風で窓ガラスはついに割れ、砂埃とともにガラスの破片がいっしょに吹き込んできた
ぼくは腕で遮ったけど、とても目を開けていられない
残りのガラスがどんどん落ちて、時間差で地面に叩きつけられ割れる音、屋根が吹き飛ばされる音、バサバサという羽ばたき音
そして悪魔の甲高い泣き声
悪魔は教会を破壊しているんだ
目を開けていられないので音だけで判断するしかない
それより彼女はどこだ?まだ上にいるのだろうか?
ガチャ。
破壊の音の中に一瞬、金属音が混ざった
ピエロ男が何かを狙っている
ようやく薄目を開けて窓の外を見ると、上下に飛んでいる悪魔の影
「俺は前からこのチャンスを待ってたんだよ!」
どこかで聞き覚えのある高い声、抑揚のある話し方
「どいてろ、俺が仕留めるから」ピエロ男は言った
そして迫撃砲を構えて、トリガーを引きかけた
「やめて!」彼女の声だ
やっと見つけた!ぼくは目を開けて階段の上を見た
彼女はピエロ男の腕にしがみつきながら叫ぶ
「やめて、撃たないで!」
「うるさい!今殺さなければ!こいつのせいでお前は…」
ピエロ男が腕にぶら下がる彼女を突き飛ばし、構え直した
その瞬間、踊り場の窓から悪魔が怖ろしい唸り声をあげた
同時に、ぼくはピエロ男を突き飛ばした
やっと彼女を見つけたんだ
この一方通行の迷宮のような教会で、ぼくは永遠に彼女の靴音を追いかけなければならないのかと、さっきまで思っていた
こんなに危険な状態に、こんなに変な男は邪魔だ
ぼくは、やっと彼女を見つけたんだ!
ピエロ男は「うわぁ!」と叫びながら階下に転げ落ちていく
「さあ、こっちへ!」
ぼくは倒れている彼女に手を差し伸べ、起こそうとした
窓の外ではまだ悪魔が唸っている
しかし彼女は自分で立ち上がり、ぼくを通過して階段を降りようとした
階段を降りればすぐに踊り場の窓、悪魔がずっと羽ばたいている
「危ない!行っちゃだめだ!」
ぼくは彼女の腕をつかんで制した
踊り場の窓のガラスは全て砕け落ち、今はぽっかり穴が空いているだけだ
さっきまで唸り声をあげていた悪魔が、窓の桟に足をかけ、コウモリの翼のような膜のついた腕で窓枠をつかんで、中に入ろうとしている
彼女はすごい力で、ぼくの手を振りほどき、窓に駆け寄った
「だめだ、危ない!こっちへ」
窓に駆け寄る彼女と、窓から侵入してくる悪魔の影が重なった
もうダメだ、間に合わない!
ぼくは数段、階段を駆け上がって迫撃砲に手を伸ばした
ぼくは迫撃砲を構えた
ガチャ。
あの悪魔から彼女を守らなければ、あの悪魔を倒さなければ
「大丈夫よ、もう私と彼しかいないから」
彼女がそう言ったように聞こえた
まただ、違和感
違和感を感じていながら、ぼくはぼくを止めることが出来なかった
ぼくの指はもうトリガーにかかっていた
彼女が振りかえった
いつもの笑顔だった
しかしぼくを見て、彼女の顔から笑顔が消えた
後ろにいる悪魔が窓から顔をにゅうっと覗かせた、もうダメだ、危ない
ぼくは悪魔に照準を合わせ、トリガーにかけた指に少し力を加え叫んだ
「伏せて!」
「だめ、お願い撃たないで!」
彼女は悪魔の前に飛びだして、両手を広げた
まただ、違和感
そして時が止まった
次に見たのは
彼女の体の真ん中に空いた大きな穴と
その大きな穴から見た、ゆっくりと落下していく悪魔の姿
ぼくは、ぼくは、ぼくは
トリガーにかけた指を止めることができなかった
ぼくは、ぼくは、ぼくは
彼女を守りたかった
ぼくは、ぼくは、ぼくは
彼女の名前を知りたかった
突然、あの時のモノクロームの思い出が回想された
子どもの頃、あの水車小屋で女の子は横顔でこう言った
「カエル。お兄ちゃんがつけた私のあだ名、変でしょ」
ぼくは、ぼくは、ぼくは
……
後はもう何も記憶にない
真っ白な光の中に、全てが消えていった
to be continued
※これは私が高校生のころ、昼寝をしていて見た夢の中の物語です
主人公は高校生くらいの男の子で、レトロな世界観でした
この男の子の目線で夢物語は展開しました
へんな話しで今でもその光景を思い出せます
起きてすぐにメモをとり
これまた長い長い間かかって文章にまとめたのですが
それが今頃になって出て来たのでアップしてみました
乱文、散文はお許し下さい
しかも続きも気まぐれにアップするつもりなので合わせてお許し下さい^^;
【写真】菜嶌えちか LOMO LC-A+ クロスプロセス
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?