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地域おこし協力隊、田中直樹氏から見える”アートと地域”

こんにちは!note更新担当のたぬ子です。

当財団が毎年刊行している、機関誌『文化愛媛』。
毎号、様々な方に文化にまつわるお話を、執筆いただいています。
そんな中、「原稿内に収まりきらなかった、想いがあるのではないか!」と思い、最新刊第85号の執筆者インタビューを始めることにしました。

第1弾は、エッセイ『土から学ぶ』を執筆されました、東温市地域おこし協力隊の田中直樹たなかなおきさんです。
日々の活動や、地域とアートの関わりについてお伺いしました。

演劇と地域を結びつける仕事がしたい

写真提供:田中直樹

ー地域おこし協力隊で、東温市を選ばれた理由を教えてください。

 夢中で取り組んでいた学生演劇と、専攻の社会学部で学んだ地域活性化や、まちづくりを活かせる仕事がないのかって、大学2~3回生の時からずっと考えていました。
 そんな時に、当時東温市の地域おこし協力隊だった高山力造さんのインタビューを読んで、「演劇と地域が連携して、こんなことをしているところが愛媛県にあるんだ」ってことを知りました。
 その時は、東温市や愛媛県に、縁もゆかりもなかったので、何もしなかったんですけど。
 4回生の時に、松山の「シアターねこ」に来る機会があって、そこで管理人の方から、「東温市が地域おこし協力隊を募集している」とお聞きし、「東温市で講義をした知り合いもいるし、これも縁だ!」と、応募することにしました。

ー新卒で企業への就職でもなく、慣れ親しんだ土地でもない愛媛県に来られるのは、怖くなかったですか。

 怖くなかったと言うと嘘になりますけど、演劇関連でフリーランスの方と出会う機会が多かったので、企業に属さないことに関しては、そこまで抵抗無かったです。
 地域おこし協力隊の存在を初めて知った高校生の頃は、「こんな博打みたいなこと、自分は絶対やらないだろうな」と思っていたんですけどね(笑)

”見せること”を考える

写真提供:田中直樹

ー地域おこし協力隊として、思い出に残っているイベントを教えてください。

 サポートで携わった『とうおんアートストリート』です。
 そのイベントでは、横河原駅周辺の商店街や神社仏閣に、アート作品が展示されていて、まちなかを歩く人が自然と作品を目にするようになっていました。 
 僕はずっと演劇をやってきたので、箱の中に人を呼んで、演じている間だけを観てもらうのが、”見せること”だと思っていたんですけど。
 観る予定の無かった、通りかかった人まで巻き込む、この企画を通して、「こういう形があるんだ」と、すごく印象に残りました。

 アートヴィレッジとうおん構想では、”舞台芸術を中心に”となっているんですけど、絵画や彫刻などのアートを交えた、こういった企画もすごくいいなって思いますね。

ー舞台芸術以外にも、幅広くアートに関わるお仕事なんですね。

 そうですね。
 舞台芸術だけで、まちを活性化させるには限りがあると思うので、他の芸術分野をどんどん取り入れていきたいです。
 2月には、全国から若い世代の作品を集め、美術家のカミイケタクヤ氏の手によって展示をする、『Sync20’s TCF 東温市美術公募展』を行いました。

ー普段は、どのような活動をされていますか。

写真提供:田中直樹

 日常的に行っている活動は、東温アートヴィレッジセンターの予約管理や、受付。TwitterやFacebook、ホームページの更新。照明や音響などのサポートです。
 そこに+αで、東温市で年間を通して行われる『とうおんアートヴィレッジフェスティバル』の企画を立案して、自ら実行します。
 あと、地域おこし協力隊ならではの活動として、地域の方たちとの交流がありますね。
 仕事終わりに飲みに行くとか、草刈りや農作業をしに行くとか、そういったアート以外のこともしています。

”非日常”が”日常”に存在する”日常”

写真提供:田中直樹

ーエッセイの中に、“アーティストや作品が「日常」になることが大切”と書かれていますが、そのために取り組まれていることを教えてください。

 まず、「日常に違和感を与えるのが、アーティストや作品」だと思っているので、彼らはどうしても”非日常”なんですよね。
 その”非日常”が”日常”に存在していることが、「いつもの光景だな」って、地域の方に思ってもらえるような取り組みを考えています。

 その1つとして、東温市初となる『アーティスト・イン・レジデンス(以下、レジデンス)』を企画しました。
 アーティストが、東温市にトータル1ヵ月以上滞在をして、1つの演劇作品を作りあげる企画なんですけど。
 年間を通して、アーティストが何度も東温市に滞在するので、地域の方たちも「また来てくれたのね!」って、彼らの存在が身近になっていく。
 この企画を進める中で、地域の方にとって”非日常”のアーティストと、”日常”である自分たちの生活が混じりあい、”非日常”と”日常”の境目が徐々に無くなっていったように思います。

 また、いつもの風景にレジデンスが入ってくるので、劇場で公演を行うだけでは関われなかった人たちや、作品を知り得なかった人たちとも、新たな関係性がうまれ、更に”日常”と”非日常”が混ざりあっていきそうです。

ー公演は、いきなり街中で始まるんですか。

 ゲリラ公演ではなく、時間や場所を事前に告知した上で公演を行います。
 今回は、”神社の境内に人が現れるところから始まって、徐々に舞台が棚田へと移動し、気付けばその人たちが消えている”というようなパフォーマンスです。
 レジデンスでは、稽古など作品づくりの段階から、劇場の外で活動することで、より地域の方たちと触れ合う機会が増えました。
 「あの子ら、棚田の中で何してんの?」みたいな。

 公演だけが”見せること”なのではなく、試行錯誤している創作期間や、公演に関係のない時間も含めて、1つの作品になっていくことが「レジデンスの醍醐味だな」と思っています。

アーティストと地域を繋ぐ架け橋

写真提供:田中直樹

”私はそういった作品づくりを目指したいと愛媛に来て思う。”と、エッセイが締められていますが、どういった立場で作品づくりをされる予定ですか。

 企画運営のスタッフとして、ですね。
 ただ、スタッフなんだけれども、作品づくりの仲間として一緒にやっていくイメージで、今まで接点のなかった地域の方やアーティスト、スタッフを、企画を通して繋いでいきたいです。

 今回のレジデンスは、公演場所をこちらで指定せず、東温市の気に入った場所でやってもらう形式にしていたので、各集落のリサーチから始まりました。
 屋外公演なのか、屋内公演なのかも決めていなかったので、屋内公演になった時のために、東温市にどれだけ空き家があるのかって調査もしましたね。
 最終的に、「棚田でやりたいです」とアーティストから返答があったので、空き家の調査や所有者との交渉は、全部不要になってしまったんですけど、これも作品づくりには必要な過程だったなと思います。
 作品づくりの前段階に、すごく時間がかかるんですけど、その分多くのやりがいを感じます。コスパは悪いんですけどね(笑)

ー今回のエッセイは、どのような方に読んでいただきたいですか。

写真提供:田中直樹

 まちづくりや、文化・芸術に関わる仕事をしていきたい人たちに、読んでもらいたいです。
 その土地ごとに人が違うのはもちろんなんですけれど、風習や考え方、やり方も違っていて、地域おこし協力隊としてこちらに来てから、いろんなことを学ばせてもらいました。
 「こんなに違うんだ」と、未だに驚くこともあります。
 このエッセイを読んで、「こんな仕事もあるんだな」って知ってもらえるといいですね。


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