見出し画像

舞台版『せかいいちのねこ』/ニッセイ名作シリーズ【クローズド公演】

こんにちは!note更新担当のたぬ子です。

今回は、2024年2月15日に愛媛県県民文化会館で上演された、ニッセイ名作シリーズ 舞台版『せかいいちのねこ』の演出・振付・脚本・作詞を担当された、山田うんさんに、お話を伺いました。

画家ヒグチユウコさんの心温まる絵本、初の舞台化!
男の子にいつまでも愛されるため、本物の猫になりたいぬいぐるみのニャンコ。旅先で出会さまざまな猫たちの優しさに触れて、本当の幸せを見つけます。表情豊かな人形とダンサーたちが、絵本の優しく切ない世界を心にしみるセリフや楽しい歌と踊りで描きあげます!

舞台版せかいいちのねこ 日生劇場ファミリーフェスティヴァル (nissaytheatre.or.jp)

なお、当公演は愛媛県内の小学校を無料招待したクローズド公演となっております。


表現者たちと裏方のチームワークを発揮

写真提供:ニッセイ文化振興財団 撮影:三枝近志

― 『せかいいちのねこ』の見どころ、ポイントを教えてください。

 最初から最後まで、見どころばかりなんですけど(笑)
 舞台は、俳優さんの決めたことと、美術や衣裳、照明などの様々な効果で一緒に作られていくものなので、表に立っている表現者たちと、裏の人たちの素晴らしいチームワークが、いたるところに発揮されています。
 美術も生きている景色のように見えますし、人形も生きているもののように見えます。舞台上にあるもの全て、命がキラキラと輝いているような時間がずっと続いていくので「世界は綺麗だな」と、そして「優しいものに溢れてるな」と、感じると思います。

 この作品は、舞台を初めて観る方にもすごく観やすくて、フッと目が奪われたり、フッと耳が奪われたりする仕掛けがたくさんあって、大きな絵本を見ているような感覚を味わえると思います。
 絵本の中はとても自由で、生きているものも、ぬいぐるみも、景色も全て対等で差がないように感じると思うんですよね。子どもたちにとっても、自分の大切なものは、生きているいないに関係ないものだと思いますし、手放せないぬいぐるみや人形を持ってると思います。
 そういった自分の身体と切り離せないものや世界を、子どもたちは普段からたくさん感じていると思うので、舞台を観て「あっ!この気持ち知ってる!」と、思うかもしれないし「世界ってこういうものだよね。繋がってるよね」と感じるかもしれませんね。

― 『せかいいちのねこ』の振り付けについて、どのように考えられたか教えてください。

 今回、ぬいぐるみのニャンコ、ヘビ、アノマロカリスは人形劇で表現するんですけど、本物の生きた猫たちは全員ダンサーが表現をします。
 ダンサーが演じる本物の猫たちは、絵本に描いてあるとおり、2本足で立っていて綺麗なお洋服を着ている猫たちなんですね。その猫たちの性格を優しい猫さんだな、恥ずかしがり屋の猫さんだな、ちょっと得意げになっている猫さんだな、すごく頭のいい猫さんだな、すごくユニークな猫さんだな、食いしん坊な猫さんだなと、絵本の中から読み取って衣裳や動きで表しています。

絵本に書いていないことの1つは”動き”

写真提供:ニッセイ文化振興財団 撮影:三枝近志

― 画家ヒグチユウコさんの作品初の舞台化にあたり、気を付けられたことや大切にされたことはありますか。

 『せかいいちのねこ』は、感動的な絵と言葉がたくさん詰まった絵本なので、世界中の人たちに愛されていますよね。私も初めて読んだ時に、内容と猫の毛1本1本まで繊細に表現された素晴らしい絵に感動しました。
 その圧倒的な表現者であるヒグチさんの世界観で表現された絵と、物語の立体感や肌ざわりを、どうしたら生の舞台で実感していただけるだろうということを、ずーっと考えて作りましたね。

― 立体感や肌触りについて、どのように考えられたのですか。

 動きですね。絵本で動きは、読み手が頭の中で想像するように表現されていますが、舞台は実際に様々なものが動きます。なので、絵本に書かれていない“動き”について、絵の猫ちゃんを見ながら想像を膨らませて考えました

文字の情報と身体があって生まれるもの

写真提供:ニッセイ文化振興財団 撮影:三枝近志

― オファーを受けてから上演までに、どのぐらいの期間かかりましたか。

 脚本の完成までに短くても1年はかかっていますので、オファーをいただいてから約2年弱ですかね。
 日生劇場さんから演出のオファーをいただいて、脚本も自分で書くことに決めたんですけど、最初は「どなたか上手な方に脚本を書いていただこうかな」とも思っていたんです。でも、言葉にならないことやセリフにしたいことは「ダンサーや人形遣いさん、俳優さんたちと一緒じゃないと作れないな」と思ったので、稽古をしながらセリフを調整できるよう、脚本も引き受けさせていただきました

― では稽古中に生まれた、または無くなったセリフや動きがあるということですか。

 そうですね。台本に書かないとみんなに共有できない世界観があるので、最初に台本は書きますが、ダンサーや俳優さん同士が会わないと生まれてこない世界観もあります。その2つを大事に、どちらも手放さないように作っていったので、稽古中にたくさんの言葉が生まれたり、無くなったりしました

― 台本にないセリフや動きは、稽古中に話し合いをされて決められたのですか。

 最終的に決めるのは私になるんですけど、俳優さんや人形遣いさん、人形劇専門の演出家の方、舞台美術や衣裳、小道具のスタッフみんなで一緒に作りました。
 人形のサイズや人間の身長、力などによってできる動きが決まってくるので、小道具が少し大きかったり、セットの高さが少し高いだけで、できなくなってしまう動きもあります。なので、毎日毎日スタッフと出演者みんなで話し合いをしましたね。

自分が”影”の人形遣いと自分が”主役”のダンサー

写真提供:ニッセイ文化振興財団 撮影:三枝近志

― 当公演は、山田さん率いるダンスカンパニー「Co.山田うん」と「人形劇団ひとみ座」の共演ですが、ダンスや人形劇のみの舞台と大きく違う点があれば教えてください。

 すごくおもしろいコラボレーションの舞台になったと思います。人形劇だけでは挑戦できないことや、ダンスだけでは挑戦できないことができたので、私にとって非常に大きな喜びです。
 例えば、人形劇は人形を主体に表現しているので、人形遣いさんは私が考えたこともないような身のこなし方をされていて、ダンサーは自分の体が主体となって踊っていくものなので、同じ舞台にいても真逆な体の使い方や表現の仕方をしているもの同士なんですね。
 そういう別々の目線、考え方で舞台に立っている人が互いに同じ人数、舞台上に存在しているので、できることがいつもの倍あるという感じです。ダンサーが不得意なことは人形遣いさんたちはとっても上手ですし、人形遣いさんたちができないことはダンサーがとても上手です。なので、お互いのいいところを出して、できないところを補ってという、いいチームが作れたと思っています。

― 同じ舞台上でも真逆なことをやっているとのことですが、まとめるにあたり困難だったことはありますか。

 私は主にダンスの目線は分かるんですけど、人形劇の目線や見せ方に触れるのが初めてだったので、人形遣いさんたちから多くのことを教えていただき、毎日気付かされることばかりでした。
 人形劇にとっては、私の考え方やダンスの見せ方が初めてだと思いますので、お互い正直に「どうやったらおもしろい舞台になるんだろう」とぶつかり合いながら、毎日すごく悩んで、話し合いをして困難を越えていきました。1つ困難を越えると次の困難が見えてくるので、またそれを越えてと、毎日毎日悩んで話し合って解決しての繰り返しでしたね。

― お話をお伺いして、新しいことに挑戦した舞台なのかなと感じます。

 舞台美術は回転舞台のような感じで、ヒグチさんの絵をモチーフにした景色が大きく変わっていくんですけど、そのダイナミックさと小さな人形を、共存、融合させることのおもしろさも、挑戦だったかもしれないです。

様々な種類の楽しさを発見してほしい

写真提供:ニッセイ文化振興財団 撮影:三枝近志

― 子どもたちへメッセージをお願いいたします。

 舞台上や裏方にはたくさんの人間がいますが、物語に出てくるのは、ほぼ猫やぬいぐるみで、役としての人間は1人しか出てこないんですね。
 でも、その中で人間を感じることができる舞台になっていて。みなさん学校でも家でも人間の優しさや成長、寂しさ、悔しさに心が揺れる出来事がたくさんあると思うんですけど、この舞台をとおして「自分だけじゃなくて、みんないろんなことを思ってるんだな」と、感じてもらえるんじゃないかなと思います。
 私もこの舞台を作るのに、困難や苦しい時がたくさんあったんですけど、そこも含めて全部が楽しかったんですね。なので舞台を観てるみんなにも、物語の怖さや切なさ、ずるさや不満、全て含めて「楽しいことなんだ」と、いろんな種類の楽しさを発見してほしいですね。


※当アカウントが掲載している写真・本文等の無断転載・無断使用は、ご遠慮ください。