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FIFA女子W杯2023はなぜ日本に来なかったのか?

皆さんご存知のとおりFIFA女子ワールドカップ2023において、日本は招致活動から撤退しました。あの素晴らしい女子の祭典が日本で開催されないことは、とても残念です。

FIFA女子ワールドカップ2023日本招致委員会が撤退理由を説明した文章を掲載しました。この手の文章を読み慣れていない人にはいささかわかりにくい表現のようです。そこで、行政の文書作成を数多く経験している私が、この回りくどい文章を説明します。

FIFA女子ワールドカップ2023日本招致委員会は撤退理由として以下の4点を挙げています。

①より多くの国で大規模大会の開催が可能となる共同開催が近年の世界のトレンドになりつつあること。
②ASEANサッカー連盟がオーストラリア/ニュージーランドへの支持を表明しAFC内の票固めをできなかったこと。
③東京五輪のわずか2年後に開催することに抵抗感が強まったこと。
④評価報告書(Evaluation Report)でオーストラリア/ニュージーランドが日本を上回る評価を得たこと。

では、4点の撤退理由を少し解説しましょう。

①より多くの国で大規模大会の開催が可能となる共同開催が近年の世界のトレンドになりつつあること。

ワールドカップ共催の元祖といえばFIFAワールドカップ2002日韓大会です。あの大会が世界のサッカーの歴史を変えました。その後、UEFA欧州選手権(ユーロ)は2008年にオーストリアとスイスで共催、2012年にはポーランドとウクライナで共催となりました。AFCアジアカップは2007年にインドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムの4カ国共催になりました。これまで共催は「規模が大きくなった大会を運営するのに1つの国ではやりきれなくなった」という論調の解説が多くされてきました。しかし、今回の撤退理由を読むと「より多くの国で大規模大会の開催が可能となる」という表現をしています。オーストラリア単独ではなくオーストラリア/ニュージーランドの共催により、単独では開催の難しいニュージーランドでの開催が実現できるように「より多くの国で大規模大会を開催できるようにしよう」という考えが国際的な評価ポイントになっていることが伺えます。

②ASEANサッカー連盟がオーストラリア/ニュージーランドへの支持を表明しAFC内の票固めをできなかったこと。

これは、とても大きな理由です。開催地の決定は、最終的には投票になります。日本サッカー協会が所属するAFC内の票固めをできなかったことは、かなり大きな衝撃です。文章の後半には「今回の招致レースにおける日本の状況は決して楽観視できるものではなく、さらに厳しい状況になっていると言わざるを得ません。」という表現が出てきます。

③東京五輪のわずか2年後に開催することに抵抗感が強まったこと。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)。の影響で東京五輪は2020年から2021年に延期となりました。これにより、五輪とFIFA女子ワールドカップの間隔が2年間しか開かないことになりました。たったの1年間ですが、この詰まった1年間の影響は大きかったのかもしれません。そして、多くの人は気付いていませんが、FIFA女子ワールドカップは、2007年に東アジアで開催済みということも見落としてはなりません。2007中国大会(アジア)、2011ドイツ大会(欧州)、2015カナダ大会(北中米)、2019フランス大会(欧州)で開催されてきました。世界中に女子サッカーを普及するという考え方に則れば、次はオセアニアか南米にという考えも、客観的に見れば説得力があります。以下のように書いてあります。「コロンビアやオーストラリア/ニュージーランドは、女子も含めた年齢制限のないFIFA大会の開催を経験していません。もし、南米や南半球初のFIFA女子ワールドカップとなれば、普及という観点でも非常に大きなアドバンテージとなります。」東京五輪の延期が「新たな国で」「南半球で」という考えに勢いを与えてしまったのかもしれません。
(写真はFIFA女子ワールドカップ2007中国大会の筆者)

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④評価報告書(Evaluation Report)でオーストラリア/ニュージーランドが日本を上回る評価を得たこと。

具体的な評価について報じているメディアは少ないですが、ゲキサカに詳細が掲載されていました。多くのメディアでは技術評価でオーストラリア/ニュージーランドが日本を上回る評価(3.9:4.1)を得たと報じましたが、リスク調査での評価の差が大きかったかもしれません。

スタジアム、チーム・審判員の施設、宿泊地、国際放送センター、関連イベント会場、広告、交通、安全性、健康・アンチドーピング、IT、イベント時期、政府の支援、建設、コンプライアンス、持続可能な大会マネジメント、人権、環境保護の観点から「高・中・低」の3段階で評価。日本は政府支援、持続可能な大会マネジメントの2つが「中リスク」でその他は「低リスク」でした。政府支援に不安が残る評価なのが気になります。オーストラリア/ニュージーランドは「中リスク」1つでした。

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さて、4点の撤退理由について解説しました。しかし、この撤退理由説明の文章で最も重要なのは4点の撤退理由ではありません。さりげなく、とても重要なことが書いてあります。

アジアの連帯を強固にしオーストラリア/ニュージーランドで開催へ!

「今回、日本が招致から撤退することによってアジアの連帯を強固にし、アジア/オセアニア地域への招致の確率を高めることもアジアサッカーへの貢献であると考えます。最終的にオーストラリア/ニュージーランドが開催地に決まった場合、(以下略)」・・・今回の撤退がアジアの連携を強固にしオーストラリア/ニュージーランドが開催地に決まった場合・・・としています。まだ投票もしていないのに・・・。

国際大会の招致には凡人の想像の及ばないほどの駆け引きがある。

2019年に放送された大河ドラマ「いだてん」に1940年の東京五輪招致の話があります。日本は招致レースに出遅れ本命はローマ。このままでは東京で五輪は開催できない。そのとき、嘉納治五郎が口を開きます。

これは、極論だがね…譲ってもらうっていうのはどうだろう?ムッソリーニに、オリンピックを。そりゃ簡単にはいかない。ムッソリーニも一生懸命だ。だが、直接会って、理由を話して、譲ってくださいって、頼んだら、案外譲ってくれるんじゃないかな。

もちろん、この台詞はフィクションです。しかし、実際に嘉納治五郎の推薦によりIOC委員に就任した杉村陽太郎(元国際連盟事務局次長)がローマでムッソリーニと会見しイタリアは招致を取り下げ。開催地は東京に決定しています。表向きの理由は「これまでの五輪開催地は欧州で8回、米国で2回。アジアは未開催。」ということですが裏事情は、イタリアの外交的理由からローマ開催を取り下げ、同時に東京(日本)に貸を作ったようです。ローマは次の1944年の五輪開催を目指し、日本がそれを支援する約束になりました。このような水面下の交渉は至る所にあります。

もう一度、読んでみよう、オーストラリア/ニュージーランドが開催地に決まるかの如くの文章表現を。

とても重要なこと・・・「アジアの連帯を強固にし、アジア/オセアニア地域への招致の確率を高めることもアジアサッカーへの貢献であると考えます。最終的にオーストラリア/ニュージーランドが開催地に決まった場合」・・・つまり、日本が撤退することで開催地はコロンビアではなくオーストラリア/ニュージーランドに決まる確率が高い票読みにあることがわかります

そして、この撤退がアジアの連帯を強固にしアジアサッカーへの貢献につながると断言しています。おそらく、再び、日本がFIFA女子ワールドカップを招致する際にはアジアおよびオセアニア各国からの支援を得られることでしょう。

今回は勇気ある、前進のための撤退であったと言えると思います。

※日本には財政面の問題があったという報道がありました。

https://www.yomiuri.co.jp/sports/soccer/20200622-OYT1T50212/

※UEFA欧州選手権(ユーロ)の共催は2000年のオランダ/ベルギーが史上初です。




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