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石岡瑛子展から見たジェンダー

東京都現代美術館で「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」が開催されている。彼女と女子スポーツとの接点はわずかで、ソルトレイク五輪スイススキーチームのユニフォームデザイン、北京五輪開会式アトラクションの衣装デザインくらいしかない(といっても、それは偉大な足跡の一つなのだが)。ただ、この回顧展の冒頭には強烈なメッセージが秘められていた。

女を顧客としての立場から送り手の立場に逆転させよう

まず、来場者が目にするのは、資生堂、角川書店、パルコをはじめとした、時代の最先端を感じとる女性をターゲットにした広告デザイン。高度経済成長の日本でジェンダー、国境、民族を超越した生き方を日本社会に投げかけてきた、石岡瑛子さんの成果物とプロセスが展示されている。


そこに書かれているキャプションに目を奪われた。石岡瑛子さんは、男性ばかりの資生堂宣伝部に加わり「女を顧客としての立場から送り手の立場に逆転させようとする、積極的な意思と行動」の日々をおくることになる。本来は広告デザインなのだから、単純に売れるデザインをすれば良い。ただ、石岡瑛子さんは、そこに強い主張を加えることで新しい時代を創り、さらに売れる広告となっていったのだ。代表的なのがポスター 「西洋は東洋を着こなせるか」(パルコ、1979年)。これはビジュアルもコピーも明快で、その主張がよくわかる。

ところが、見れば、それよりも驚きだったのが1966年の資生堂サマー化粧品キャンペーンだ。ただ、有名な水着写真の広告だと思い込んでいたが、実態は異なっていたし、だからこそ「街中から一枚残らず消えた」という逸話が生まれるほどのヒットになったのだ。それまでの広告の「楚々としたお人形のような」美人像を打ち破るモデル・前田美波里さんを起用し、社会現象を巻き起こしたのが、このビジュアルだ。

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「自立した女性像」のシンボルとして伝説

花椿No.827には「太陽に愛される夏の女王」という前田美波里さんのインタビュー記事が掲載されている。前田美波里さんは、撮影当時は17歳だった。

●アートディレクターの石岡瑛子さんが「今までのおしとやかな女性のイメージをすべて断ち切って、自分自身できちんと意思表示できる女性像を打ち出した」。

●現場では意見の衝突もあり大喧嘩も起こった。

●石岡瑛子さんは命を賭けておられた。

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密かに存在した、でも、表舞台では無視されてきた女性像を表現する強い信念

この回顧展を見て、心を打たれると同時に、WEリーグの発信するメッセージとの共通点を感じた。男性ばかりのプロスポーツ(球技)に加わり「女を顧客としての立場から送り手の立場に逆転させようとする、積極的な意思と行動」……先程の文章をなぞっただけだが、ぴたりとハマる。日本の女子スポーツ界で真正面から取り組まれてこなかったことに立ち向かう勇気、関係者の強い信念。新たな「自立した女性像」のシンボルが女子サッカーから生まれるかもしれない。


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