見出し画像

スクープがないなら作ればいい

小学生の時の係や委員会というのは、
あの小さなコミュニティの中でも自分の存在感を示すのに充分な役割を果たす。


芸能人になるのだからどんな小さなコミュニティでも目立たなくては、というキテレツな強迫観念に駆られていた石出は、出たがりなヤツの大好物、学級委員、実行委員、応援団などにバンバン挙手してかりそめのクラストップを務めていた。
当然のごとく全て自薦。
なのに選ばれた人間のような顔をし、進んで雑用に励む毎日。


しかし小3の時、学級委員に少し飽きた私は先生に

「新聞係」を提案し作ってもらった。


比較的地味な気もするが、なにかしらのドラマを見て新聞記者にも憧れていたのだ。


将来はマスコミの世界に入る者のたしなみよ、と謎のエチケットを纏い新係を立ち上げた。


さて、仲のいい友達を誘って憧れの記者になったものの、小学校3年の日常に記事にするような事件などない。


何かみんなが食いつくようなセンセーショナルなことはないか!?


学校中を偵察するも、ピロティの前の池はいつから汚いのか?〜ベテラン用務員さんの独白〜以外にトピックは見つからなかった。


そうだ。



スクープがないなら作ればいい。



持ち前の「努力せずに注目されたい」ポリシーがすぐこの結論に私を導いた。


小3にして五流タブロイド紙のダメ編集長のような思想に至った私は、迅速に記事の捏造にとりかかった。

 
大衆の興味を引くのに必要なものは、
それが嘘か真か、アリなのかナシなのか、
2つの議論を呼ぶものではないだろうか?
結論が誰の目からも明らかで、
議論がなされないものは話題にならないのだ。


その時の私がそこまで考えたかは分からないが、当時の怪談ブームも手伝い、
石出新聞の捏造スクープ第一弾は
「発見!!心霊写真」に決めた。


記者(気のいい友達)は自分を含め4人。
もちろん彼女らの優しさにつけ込み、
トップ記事の多数決などは決してとらない最低編集長イシデ。


最低編集長の考えた最低心霊写真はこうだ。


電信柱の前で、2人それぞれダブルピースして寄り添わせる。
背後の電信柱に体を完全に隠した子が、手だけを出し、遠近法であたかも前の2人の一方の子の右肩から存在するはずのない五つ目のピースがニョキっと生えている!!


という風に見えるよう撮影するといったものだった。


曇天の日の午後、石出家自宅の前。
「心霊写真撮影」という言葉としてはおかしなイベントが決行された。


ニセモノでも心霊写真を自分の家の前で撮るなんて若干気持ち悪い気もする。

しかし目の前のスクープのためなら自宅が心霊スポットになっても構わないというニセ記者としてのプライドが既に発動しており、
かつ、自分が自分の作った新聞の一面を飾れるという自作自演トップグラビアで喜べるという奇妙な体質のため何の迷いもなかった。


最終的にインパクトを持たせるためと、友達が電信柱に肩や腰などを完全に隠せなかったので、私は友達を肩車して電柱に沿わせるようにタテに高さを出した。


こうして縦長ニセ心霊写真は完成した。


一週間後、
大きな模造紙に例の心霊写真と共に、
「恐怖の心霊写真はっけん!?」とデカデカ見出しを付け、新聞ができたぞーー!!
と号外おじさんみたいなテンションで休み時間に廊下の壁に張り出した。


すると新聞を見に廊下に出てきたクラスメイト達が一斉に騒ぎ出し、他のクラスからもどんどん出てきてあっという間にすごい人だかりができたのだ。


そして口々に、こんなの偽物に決まってるじゃねーか、なんだよこれ、ぜってーウソだよ、何とか言えよ!と同級生たちの大ヤジが始まった。


一大スクープをすごい褒められると思ったら、民衆の抗議デモみたいなのが起きた。


天上天下唯我独尊小学生だった私も少しうろたえた。


なぜならこれは紛れもない偽物だからだ。


ていうか、映ってるの、自分だし。
自分の家の前だし。
捏造の条件しか揃ってない。


でも私は、将来、芸能人になるの。


どこからか頭の中でナレーションがかかり、
息をスウッと吸って私は叫んだ。


「偽物だって証拠あるやつ、
今すぐ持ってこいよオラーーー!!!」


つかまる前に犯人が必ず言うやつだ。


私の学校にコナン君がいれば、誰かを眠らせ怒涛の推理ショーで完全にお縄だっただろうが、ありがたいことに松戸にはいなかった。


こんな強気なら偽物じゃないのかも…?
と思われたのか、
こいつ頭おかしいのかも…?
と思われたのかは分からないが、
私の奇声で騒ぎは収まり、なんとなく本物らしい、というムードになった。


セーラームーンが大好きでフリフリのスカートをはいて好きな男の子だっていた、実はいたいけな少女だった私が、なぜこんなヤクザのような怒号を発したのだろうか。


周りからは理解し難いと思うが、
全ては自分が将来有名になるためにここで犯罪歴を残してはならない、という、紛れもなく高すぎるチョモランマ級勘違い自意識からなのである。


この時の気持ちを今でもありありと覚えているもんだからおぞましい。


しかしこの騒動の後、
今まではどこのクラスにもなかったのに、
他のクラスでも続々と学級新聞が誕生し廊下に掲載されるようになったのだ。


時代を作ったと感じた私はいい気になり、
心霊写真を越える話題はないか!?
とさらなるセンセーションを求めた。


私は放課後の時間を割いて、教室、ロッカー、下駄箱、トイレなど、学校の至る所に折り紙で作ったナンバー入りの抽選チケットを一斉に隠した。


そして出来上がった新聞第二号は、
紙面にナンバーをいくつか掲示し、一等800円(お年玉から捻出)、二等巨人軍観戦チケット(ほんとの新聞屋さんからもらった)、三等600円(姉の貯金箱から捻出)、などなど、その番号が書かれた抽選チケットを見つけた者はプレゼントをゲットできる、夢のビッグチャンス!!


という、ただの賄賂企画だった。


しかも仲のいい友達に一等などの場所は教えておくというインサイダーっぷり。


あんなに叫ぶほど潔白でいたかったのに、
話題性を求めるあまり余裕で犯罪に手を染めたことに気付いていない私。


海賊王ゴールド・ロジャーよろしく、
探せ!この世の全てをそこに置いてきた!と自信満々で第二号を掲示した。


金品がからんだこの記事は当然すぐに先生によって取り締まられ、
新聞係はわずか二号で廃止された。

季節は流れ、学校中に隠された折り紙はゴミになり、私は不法投棄という罪もまた一つ重ねた。



わたしはこの時になれると信じていたような芸能人にはまだ全然なれていないのだが、
やはりこの時の犯罪歴のせいなのだろうか?


いや、大ブレイクするネタができていないせいか?


そうだ。


大ブレイクネタがないなら作ればいい。



…と、なかなかそんな風にはいかないが、

当時のバイタリティを思い出し

捏造ブレイクネタなんかを作ってみるのも

悪くない気がする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?