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声も出ない、言葉も出ない


声もなく、ホン・ウィジョン監督、2018年 韓国映画

「声もなく」という韓国映画のホン監督は、1982年生まれの女性だ。
82年生まれといえば、韓国文学が好きな人なら、きっと、「82年生まれ、キム・ジヨン」を思い出すだろう。
「キム・ジヨン」は韓国女性の生き方をリアルに描いた小説だ。
この作品あたりからの韓国女性作家の作品が、面白くなる。
そして、「はちどり」以降、女性映画監督の作品が次々生まれだす。

ホン監督は、82年生まれの女性。
この映画が、長編第1作になる。
低予算映画だが、韓国の名だたる俳優たちが出演している。
主演のユ・アインの役作りが見事すぎて、最初、あのユ・アインだとはわからなかった。
それぐらい、声を発することのできない青年、テインになりきっていた。

貧しい青年、テインは声が出せない。幼い妹を抱えて、裏社会の下請け仕事で、殺人の後始末の仕事をしている。
あまがっぱを着て長靴をはき、血だらけの死体をくるんで、埋める仕事だ。
そんな殺伐とした仕事をしているのだが、やさしい目をした穏やかな青年だ。

テインの仕事の相棒チャンボクは足が悪く、表向きは卵の行商をしている。
ふたりは、裏社会の下請けのそのまた下請けの仕事で、誘拐した少女を一日だけ面倒を見るという仕事を請け負う。
チョヒという少女は、誘拐されたものの親が身代金を払わないので、親元に帰ることができないでいる。
親は息子だけを大事にしているから、女の子のチョヒは、迎えに来てもらえないのだと自分で言う。
男尊女卑を引きずる親はまだまだいるのだろう。

そして、チョヒはテインの家(小屋)で、テインと妹と3人で暮らし始める。
散らかり放題の部屋でごろ寝する生活。
チョヒは、散らかった服をたたみ、部屋をかたずけ、洗濯をして、心地よい空間を作る。

訪ねてきたチャンボクとテインと妹とチョヒの4人で楽しいひと時を過ごす。
とてものどかで、牧歌的な風景だ。
このわずかばかりの時間が、彼ら4人の最後の平和な時間となる。
親がいつまでたっても身代金を持ってこないので、チョヒは表向きは養鶏場だが人身売買の家に連れていかれる。
危機を感じたテインはチョヒを助けようと行動を起こす。

韓国の底辺で暮らす貧しい青年、学校へも行っていない様子の妹。
親に迎えに来てもらえない小学生。
どうしようもなく悲しい存在なのだが、ふとした時にかいまみえる温かさ、ユーモアがある。
だけど、結局悲しい終末を迎えてしまう。

静かな田園風景。
自転車にチョヒを乗せて走るテイン。
なんだか懐かしい光景のなかで、繰り広げられるドラマ。
圧倒的過ぎて、見終わったあと、声も出なかった。
言葉も出なかった。
一言も声を出さず、演じきったユ・アイン。
ますます、ファンになりました。

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