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双極性熊の家族           カモン・カモン


カモン・カモン
マイク・ミルズ監督

カモン・カモンは静かな映画だ。
モノクロ画面で、ゆったりと映像が流れ、心地よい。
妹の夫の調子が悪くなったので、甥の面倒を見ることになったジョニー。
彼はラジオジャーナリストで、子どもたちにインタヴューをしている。
独身で、子育ての経験もないジョニー。
妹の家に行って、甥のジェシーと過ごすことになった。

そこで画面に出てきて紹介されるのがこの絵本。
「双極性熊の家族」アンジェラ・ホロウェイ作
双極性障害の親を持った子どものための絵本だ。
日本ではまだ翻訳されていない。
日本にも、精神障害の親を持った子どものための本は出版されているが、この本は、双極性障害の親を持つ子ども向けなのが興味深い。

「熊の家族はパパが楽しいときもあるけど、怖いときもある。」
と淡々とナレーションが入る。
私も読んでみたいと思う。
たぶん、ジェシーのパパは、いま躁状態で、寝ることもせず、病院には行かないと言い張って、ママを困らせているのだろう。

この絵本が出てくるだけで、ジェシーの家庭のことがわかる。
ジェシーはユニークな子供で、自分のことばで話す。
たぶん今までも、パパの病気でいろいろな思いをしてきているのだろう。
伯父さんとの暮らしは、いたって緩やかだ。
伯父さんの仕事の都合で、ニューヨークに一緒について行ったり、伯父さんの仕事仲間と一緒に過ごしたり、パレードに参加したりする。
子どもらしく過ごせた伯父さんとの体験。

ある日ママから電話が来る。
パパがやっと入院して、二日二晩眠ってくれた。
経過がよく、外来での治療で大丈夫になったとのことでパパは退院する。
それで、またジェシーは家に戻るということになる。
伯父さんと別れて、家に戻るジェシー。

パパの双極性障害はまた再発するかもしれない。
調子がよくなっても、通院して、服薬しないと、また躁状態になってしまうかもしれない。

双極性障害の夫を持ち、子育てをする母親の苦労についても、この映画は本の紹介で語っている。
「母たち、愛と残酷さについて」ジャクリーン・ローズ著
なぜ、物事を明るく無垢にするのが母親の役目なのか。

私もいつも思っていた。
この世の中のつらい出来事、理不尽なこと、それは、すべて母親にのしかかってくる。
でも母親が作る壁のおかげで、子どもは守られ、生きることができるのかもしれない。
だけど、それができない母親がいることも事実だ。
そんなとき、やっぱり、伯父さん、おばさん、血縁関係がなくてもいい、やさしいおにいさん、おねえさん、おじいちゃん、おばあちゃんがまわりにいてくれたらいい。

この映画でも、ジョニーが仕事に行くとき
「ニューヨークでいちばんやさしいファーンが面倒見てくれるよ。」と言って、仕事仲間の青年にジェシーを託すところがある。
そう言ってくれたら、安心できる。

映画の中でインタヴューに答えていた少年がその後、流れ弾に当たって死亡したと、映画の最後のクレジットに出てきた。
その少年への質問は
「もし、自分が、自分の両親の親になったら、何をする?」だった。
少年は答える。
「良い人になるように育てる。」

悲しい映画だけど、画面からは、やさしさがあふれ出てくる。
やさしい気持ちを持ち続けよう。
誠実に生きていこう。
そんなメッセージが心に届く飛び切りの映画。

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