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女性を乗せて箱車は西部を行く

ミッション・ワイルド   2014年
(原題 ザ・ホームズマン)
主演、監督、脚本 トミー・リー・ジョーンズ

私はBSのアメリカの映画紹介番組をよく見ている。
10年近く前に見た映画の紹介に、気になるものがあった。
箱車に女性たちを乗せて、開拓時代の西部を行くというような映画だった。
上映されたら見てみたいと思っていたが、それはかなわなかった。
なぜなら、日本未公開映画だったのだ。

やっとこの映画に出会い、箱車の謎が解けたのは、WOWOWで放送されたからだ。WOWOWは日本未公開の映画を取り上げてくれる。

原題は、ザ・ホームズマン
邦題は、ミッション・ワイルド
ようわからん邦題である。
ホームズマンというのは、西部開拓時代、精神に障害を持つ女性たちを教会へ運ぶシステムのことだそうだ。
システムがあるということは、西部開拓時代は、精神障害の女性がたくさんいたということにほかならない。

そのような、開拓時代の闇、女性たちの置かれた立場の苦労を描いた、すごい西部劇なのだが、男性にとっては西部劇のイメージがつぶれてしまうようなショッキングな映画である。

主演、脚本、監督は、ハーバード大卒で、元ボア副大統領のルームメイト、秀才の誉れ高い宇宙人ジョーンズである。

19世紀半ばネブラスカ準州から、アイオワの教会まで、精神障害の女性3人を送り届ける、ホームズマンを決めることになった。
30歳の自立した独身女性、メアリーがその役目を担うことになる。
もちろん報酬がでる。
送り届ける女性たちは本当に悲惨な状態に置かれていた。
男子を産めず、娘ばかりしか生まないと責められるシオライン。
次々と子供が死んでしまった、自分もまだ子供のような幼い妻で、お人形を抱いているアラベラ。
暴れてしまうグロー。

三人の女性を乗せるのは、屋根と鉄格子と鍵が付いた箱のような馬車で、引くのは二頭のラバ。400マイルの長旅。
盗賊も出るし、インデイアンの襲撃もある。西部劇だから。

しばらく行くと、吊るし首にされている悪党のブリッグスに出会う。
彼を助け、道中の手伝いをさせることになる。
彼は女性たちの排泄介助までして、旅を助けてくれる。
自立した女性であるメアリーは一人で暮らすことができるのに、なぜか、自分から男性に「結婚してくれ」という。
でもできる女性は敬遠される。
ブリッグスにも求婚するが断られる。

そして、なぜか、メアリーは自殺してしまう。
ここからは、ブリッグスが一人で女性たちを教会まで連れていくことになる。なんだかんだの末、無事、教会に着く。
しかし、銀行が倒産してしまい、報酬はただの紙きれになる。

という、救いがたい話が続く。
しかし、この映画は、西部開拓時代の女性を描いた、画期的な映画なのである。
そして、開拓時代、男子を産む機械にされていた、女性たちの苦痛を描いたすごい切り口の映画である。
開拓に人手が必要なのはわかる。
開拓時代の男性優位の世界のツケが、女性にすべて押し付けられてしまい、苦しむ女性がたくさんいたのは事実だろう。
でも、今もあんまり変わっていないのかもしれない。
メアリーのように「できる女性」が抱える苦痛。
子どもを産む機械にされる屈辱。

トミー・リー・ジョーンズの2作目の長編映画である。
あんまり切り口が鋭すぎて、日本では劇場未公開になったのだろうか。



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