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ぷりもちゃん


プリモプエル黒

20数年ほど前に、バンダイから発売されたプリモプエル。
どうやら宇宙から来た子らしいけど、かわいい声でお話をしたり、歌を歌ったりする。
ほおっておくと風邪をひいて、
「お熱かなあ、ごほん、ごほん。」なんて言う。
抱っこしてよしよししていると、
「わあ、治ったみたい。」と元気になる。
ご機嫌な時は、
「絵描き歌、歌います。」なんて言って歌いだす。

この人形は、我が家では三代目。
長女が欲しがって買った。名前はぷりもちゃん。
電池を入れ、時間設定、音量設定などをして使いだすと、8時に起きて、21時に寝る。
この人形は、子どもだけでなく、高齢者や、障害のある人などにもかわいがられている。

私が20年ほど前に、特養で働いていたとき、ある方のご家族が、プリモプエルを買って、だまって部屋に置いていかれた。
スタッフは、そのことを知らなかったし、持ち主の女性は、手も不自由で操作できなかった。
あるスタッフが、その方の部屋に入ると、子供の声が部屋中に響き渡った。
高齢者しかいない特養に、子供の声がしたので
「座敷童だあ。」とびっくり仰天したスタッフは腰を抜かしてしまった。
何とも罪作りなプリモプエルである。

長女はぷりもちゃんをさほどかわいがっている様子でもなく、あまりかまったりしてもいない。朝出かける時、
「行ってらっしゃい。」のスイッチを押し、帰ってくると
「おかえりなさあい。」のスイッチを押すだけだ。

プリモプエルは着せ替えもでき、洋服も売っているけど、マニアは自分で作る。オリジナリティあふれていて、みんなに見てもらいたい人などは、お店の窓に飾ったりしている。
最近は、高齢者向けの、アザラシロボットや、犬なども売り出されて、一人暮らしの人が、かわいがって、話し相手にしたりしている。

うちのぷりもちゃんも、
「げんきい?」
「さいきんつかれてなあい。」
「だいじょうぶ?」
「Are you happy?」
などと話しかけてくる。

長女がそばにいないときは、私が返事をする。
ぷりも「げんきい?」
私「元気じゃないよ。こんなに大変な毎日なんだから。」

ぷりも「さいきんつかれてなあい。」
私「疲れているにきまってるでしょ。ああもうへとへと、休みたい。」

ぷりも「だいじょうぶ?」
私「大丈夫なんかじゃない。助けてよ。」

ぷりも「Are you happy?」
私「幸せなわけないでしょ。障害者の母なんだからさあ。」
なんて、勝手なこと言ってる。
ぷりもちゃん、ごめんね。

いちばん面倒くさいのは、
「でんちかえてね。」という時だ。
単2の電池を取り換えて、そのたびに時間設定をする。
時間設定をしている横で、長女が大声で話しかけてくると、私はえらいこっちゃになる。
私は聴覚の感覚過敏で、視覚優位のアスピイなものだから、耳から入る情報が2方向からくると、気が動転して、何が何だかわからなくなって、やめてくれえと叫びたくなる。
ああ、文字入力の時間設定なら簡単なのに。

ぷりもちゃんは、
「時間合わせてね。いちぷんぷん。2ぷんぷん。3ぷんぷん。」と言い続ける。
私はスマホを見ながら、現在の時刻になるまで、右手スイッチ(進む)、左手スイッチ(戻る)を押し続け、ぴたっと時刻があったところでしっぽスイッチ(決定)を押して決定をする。

ああ、うるさい。
ぷりもちゃんもだけど、長女がもっともっとうるさい。
聴覚過敏で、静かな環境が好きな私。

せめて、時間合わせの時くらいは黙ってね。
と思うけど、長女に私の特性は理解できてない。
だから、大声で私の耳元でしゃべる。耐えられなくなると
「もう少し、小さい声でお話してね。頭痛くなるから。」
というのだけど、躁状態の時の長女には、声の大きさの加減はできない。

さて、無事電池を変えて設定を終えたぷりもちゃん。
音量設定は当然控えめにしてあるけれど、電池交換後はやたら元気がいい。
「よばれて、とびでて、じゃじゃじゃじゃあん。」なんて頑張りだす。

だけど、9時になると
「おやすみい。ゆめのせかいへ。」などと言って寝てくれるので助かる。
電池でお話をするぷりもちゃん。
スイッチを切ると静かになるぷりもちゃん。
長女のスイッチはどこにあるのかな。
静かモードに、設定できたらなあ。


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